教えてくれたのは……瀬戸内寂聴さん、秘書のまなほさん
2021年11月9日に永眠された、瀬戸内寂聴さん。この世を去る3ヶ月前に残してくれた言葉は、私たちの悩みに寄り添ってくれるものばかりです。
『今を生きるあなたへ』(SBクリエイティブ)
著者:瀬戸内寂聴・瀬戸まなほ(聞き手)
価格:990円(税込)
自分のやりたいことがわからない
結婚をして、マイホームに子どもに正社員……。周りから見たら、さまざまなものを手に入れ、幸せな人生を歩んでいるように見えるかもしれません。でも、実は心の中は空っぽ。なぜなら、自分の意思で選び取ったものではなく、人からどう見られるか、どう評価されるかを基準に生きてきた人生だったから……。
そんな生き方をしてきた人は、自分の本当の気持ちをどうしたら取り戻せるのでしょうか?
人生は選択の繰り返し
スマホを開けば、人気商品にランキングがつき、お店には星、自分の発言にもコメントがつく時代。そのため無意識のうちに、人の評価や、「人からどう見られるか」を意識した選択をし続けている人もいるかもしれません。
でも寂聴さんは最後には自分で決めることが大切だとおっしゃっています。
寂聴「大人になったら、そうすべきでしょう。自分で決めたことは、自分で責任を持たなくてはいけません。うまくいかなかったり、つらいことが起きたとしても、すべては自分のせいです」
まなほ「たしかに誰かのせいにするよりは、仮にうまくいかなくことがあっても、『自分で決めたことだからしょうがない』と、あきらめもつくと思います。
寂聴「そう、自分で決めて、自分で責任を取ればいいのです」
人生の大切なことは自分で決断する。うまくいかなかったときに誰かを恨まないためにも大切なことですね。ただ、経験のある人や親などの言葉は大きいもの。自分の気持ちと異なるアドバイスをもらったらどうしたらいいのでしょうか。
寂聴「誰かに相談して、判断してもらうといっても、ほとんどの場合、自分ではどうしようか、だいたい決めているものです」
自分の心の中の本音と向き合えば、どうすべきが見えてくるかもしれません。
「らしさ」に縛られなくていい
「自分で決めることができない、選ぶことができない」ということの原因や背景の一つに、女らしさや妻らしさ、母親らしさなどの、自分の置かれた立場に縛られていることもあるというまなほさん。年齢や立場による「こうあるべき」といったプレッシャーで動きづらいと感じたときは、どうしたらいいのでしょうか?
寂聴「こうあるべきだとか、何とからしさといったものは、そのときの権力者や為政者や、その取り巻きのような連中が決めていることにすぎません」
まなほ「でも、女らしさとか、女性だからこうしなさいといったことは、今も結構、残っていますよね」
寂聴「それはずっと男社会だからです。男は女らしい女が自分たちにとって都合がいいから、そういうことを言うのです。ですから、そんなことを真に受ける必要はありません」
まなほ「女だからとか、母親だからとか、そういうことはまったく気にしなくていいということですか?」
寂聴「そうです。そんなものは政治や権力者が変わったら変わるものですから、気にする必要も、黙って従う必要もありません。『あなただから』や『自分だから』という価値観でいいのです」
寂聴さんにはっきりと、「気にする必要はない」と言っていただけると背中を押されるような気がしますね!
「自分らしさ」を「自分だから」に変える
寂聴さん自身は、自分で自分に押しつける「自分らしさ」について、考えたことはあるのでしょうか。
寂聴「ありませんね。そんなことを考える前に、自分の好きなようにしているし、やりたいようにしています」
まなほ「そもそも、自分のことを自分が本当にわかっているかというと、私は疑問です。ですから、自分らしさにとらわれることで、逆に自分がわからなくなってしまうということもあると思います。自分らしさとは前もって自分で決めるものではなく、自分がやったことに対して後からついてくるものだと思います。先生にとっての自分らしさとは、やはり思い切って何でもやってみるということに尽きると思います」
寂聴「そうです。あえて言えば、思うがまま、やりたいと思うものに情熱を持って取り組むことが、私にとっての自分らしさです」
年齢にとらわれず、自分の思いのままやりたいと思うことに取り組んできた寂聴さん。今を生きる女性にとって見習いたい姿勢ですよね。
世の中の常識は変わっていく
世の中的にも、ジェンダーの問題が取り上げられたり、男性だから、女性だからといった表現は配慮されるようになってきました。これからはさらに性差などにとらわれず好きなことをすればいい、と寂聴さんはおっしゃいます。
寂聴「そういうことはいけないことだと世の中にわかってもらうために、われわれのもう一つ前の世代の女性たちが骨身を削り、必死に闘ったから、やっとここまで来ることができたのです」
まなほ「そういうことに縛られていないで、『私だから』、『自分だから』と、自由に好きなことをすればいいと言うことですね」
寂聴「そうです」
さらに寂聴さんは、女性が出産後も仕事を続けることに大賛成なのだそう。
寂聴「だって女の人の中には才能を持った人がいっぱいいます。妻や母親になったからといって、そうした才能を使わないのは、その人にとってはもちろんですが、社会にとっても実にもったいないことです」
「40代」「ママ」「女性」などの枠を守ることが、生きやすくて周りから羨ましがられることだと思い込んでいました。でもそれは、自分の可能性を自ら捨てる、本当に馬鹿げたことだったんですね……。
まずは、生身の感覚を取り戻すために、余計な情報をシャットダウンするデジタル断食を行なってみたいと思います。その後に湧き出てくるであろう、好みや気持ち、思考など、自分のことなのに新しい発見になりそうで、今からワクワクが止まりません。