教えてくれたのは……瀬戸内寂聴さん、秘書のまなほさん
2021年11月9日に永眠された、瀬戸内寂聴さん。この世を去る3ヶ月前に残してくれた言葉は、私たちの悩みに寄り添ってくれるものばかりです。
『今を生きるあなたへ』(SBクリエイティブ)
著者:瀬戸内寂聴・瀬戸まなほ(聞き手)
価格:990円(税込)
恋愛は「卒業」するものだと思っていた
アラフォーになると人生の中でさまざまなことが起きるかもしれません。家庭があるのに、他の人を好きになってしまったり、独身で恋愛はもういらないと思っていたのに、妻子ある人と関係を持ってしまったり……。そんな周りを不幸にしてしまう恋愛は、やはり「悪」で「いけないこと」なのでしょうか?
恋愛は雷に打たれるようなものだから
メディアでは、頻繁に有名人の不倫が取り上げられ、当然のようにSNSなどで批判されています。不倫に対して、以前より世間の目が厳しくなっていると感じることも。しかし寂聴さんは「不倫がなかった時代なんてない」とおっしゃっています。
寂聴「誰それが不倫したといえば、 週刊誌でも、テレビのワイドショーでも派手に取り上げるので、世の中の人がそれに飛びつきます。でも不倫なんて、人間社会ができてからずっと続いていることです。不倫がなかった時代なんてないでしょう」
まなほ「そうは言っても、『別に不倫がいいとすすめているわけではない』と、いつも先生はいいます。『できれば不倫をせずに済ます方法があればいいけれども、そればかりはしょうがない。雷に打たれたようなものだから』と言っています」
寂聴「恋愛というのは、理屈ではありません。恋愛というものは、もうわけがわからないものです。とにかく好きになったら、その人に奥さんがいようが、恋人がいようが、そんなことに構っていられなくなります。でも、それは、あくまでもこち側の事情です」
21歳という若さで結婚し、その後出会った年下の男性と不倫をした過去のある寂聴さん。自分の置かれている状況や、相手の立場さえ構っていられなくなった経験があるのかもしれません。
不倫をするならそれなりの覚悟が必要
ただ、妻という立場の人にとっては、不倫は許せないと感じることでしょう。まなほさんは、不倫をするなら覚悟が必要だといいます。
まなほ「だから不倫をするなら、それなりの覚悟が必要だと思います」
寂聴「どちらが?」
まなほ「どちらの側も、です」
寂聴「ただ、何度も言うようですが、恋愛というものは理屈ではありません。たとえそれが不倫の恋愛で、してはいけないことだとわかっていても、してしまうのです。それは仕方がありません」
まなほ「それでは、不倫することに対しての責任だったり、覚悟だったりというのは、別に問わなくていいのですか?」
寂聴「もちろん、不倫をするには覚悟がいります。もしかしたら、世間からひどい目にあうかもしれないという覚悟が必要です。でも、不倫をするときには頭がのぼせ上がっているから、そんなことは考えられません」
のぼせ上がり、冷静に考えられなくなる不倫。しかしのめり込んでしまう前に、今ある大切なものをすべて失う覚悟があるのかを、自分に問う必要がありそうです。
恋愛に制限はなにもない
不倫の良し悪しの話はともかく、日頃「いくつになっても恋愛をしなさい」とまなほさんに言っていた寂聴さん。恋愛は生きる原動力だとおっしゃいます。
寂聴「恋愛は、何といっても生きる原動力になります。本当に悲しんでいる人、苦しんでいる人がいて、それがおばあさんであれ、おじいさんであれ、そのときに自分を受け入れてくれる人、理解してくれる人、同情してくれる人が目の前に現れれば、人はその人を好きになるし、それによって立ち直ることができます。やはり人間は一人では生きられないものだし、人の人生を支えてくれるのが恋愛だと思います」
「人間は何歳になろうが、愛したり、愛されたりすることをやめることができない存在」という寂聴さん。年齢に関係なく、40代、50代になっても恋愛が必要とおっしゃっています。
恋愛というと男女のトキメキを伴う恋愛を想像しますが、寂聴さんの言葉からは、男女の恋愛だけでなく、身近にいる大切な人を愛することで、その人の人生を支えることができることに気付かされます。
愛情にはいろんな形がある
寂聴「人は誰かを愛するために生まれてきていると思います。そこに必ずしも恋愛感情や性的欲求が伴わなくてもいいのですが、やはり誰かを一度も愛さずに生を終えるのは惜しいという気がします。生まれてきた以上、どんな形であれ、好きな人に巡り合ってほしいと思います」
恋は理屈でも理性でも抑えられないのなら、不倫で浮かれる前にやるべきことがあるのですね。もし、周りの人を不幸にしそうな恋が芽生えたら、その花を咲かせる前に、自分の人生、相手の人生、相手の家族、自分の家族、その全てを背負う覚悟を、まずは自分に問うべきなのだと気付かされます。
すでに家庭があるのなら、愛すべき対象から、わざわざ目をそらす必要などないのかもしれません。