教えてくれたのは……瀬戸内寂聴さん、秘書のまなほさん
2021年11月9日に永眠された、瀬戸内寂聴さん。この世を去る3ヶ月前に残してくれた言葉は、私たちの悩みに寄り添ってくれるものばかりです。
『今を生きるあなたへ』(SBクリエイティブ)
著者:瀬戸内寂聴・瀬戸まなほ(聞き手)
価格:990円(税込)
自分より幸せそうだから、憎い……
40代ごろになると、仕事でも家庭でも、今まで生きてきた「結果」と「人生の先」が見えてきます。だからこそ、友人たちの仕事での成功、家庭の幸せ、子どもの利発さなどを比べて、「嫉妬」を感じてしまうことも……。この醜い気持ちを無くす方法はあるのでしょうか?
嫉妬の対象になる人とは
まなほさんは、20代で寂聴先生の秘書になり、数多くのメディアに登場。その美貌と、66歳年上の先生への歯に衣着せぬ発言から、応援と同じくらいバッシングも浴びてきたのだそう。どのようなことを言われたのでしょうか。
まなほ「『顔がきつそうだから、性格もきついだろう』とか、いろいろなことを言われました。それも見ず知らずの人だけでなく、身近な人からも……」
寂聴「それだけあなたが、嫉妬されるまでの存在になったということです。あなたほど私の秘書として世間に出た人はいませんからね。それに対して嫉妬するのです。その分、あなたは努力しています。嫉妬をする人にはその努力がわからないから、表面的なところだけを見て、そんなことを言っているのです」
人間として、嫉妬は醜いものという寂聴さん。他人を嫉妬する気持ちが少ない人は、それだけで幸せなのだそうです。
嫉妬の正体とは?
心ない言葉をかけられることもあるまなほさんは、「世の中にどうしてこんなに嫉妬があふれているのだろう」とやるせない気持ちになることがあるのだそうです。嫉妬心が世の中に渦巻くのはなぜでしょうか。
寂聴「とにかく他人が幸せになることを素直に喜べない人間が多いのです。そういう人は『うらやましい』とか、『しゃくにさわる』とか、幸せそうな他人を見ると、何かにつけて『何であの人が』と思ってしまいます」
SNSでは、幸せそうな写真を見て心ないコメントを書き込む人もいます。他人の幸せを妬ましく感じてしまう人は、もしかして自分が満たされていないのかもしれません。
自分の自信を取り戻すために
人を妬むだけでなく、自分はどうしてこんなにダメなんだろう……と落ち込むようになったら要注意。自分の悪いところに目がいくようになったときはどうしたらいいのでしょうか?
寂聴「もしあなたのまわりでも、自分を責めて落ち込んでいるような人がいたら、とにかく意識をしてほめてあげることです。それによって、自信を取り戻すことができたら、その人は段々とよくなっていきます」
まなほ「一人で抱え込むのではなく、専門のお医者さんとか、カウンセラーとか、あるいは自分のことを大切にしてくれる人などに相談して自信を取り戻すことで、元気になっていくということですね」
寂聴「あなたもそばで見ていてわかると思いますが、寂庵に悩みの相談に来られた人に対して、私は必ずほめるようにしています。そう思ってその人を見ると、笑顔がかわいいとか、誰でもどこかしらほめるところがあるものです。すると、たいがいの人は帰るときに心が楽になって、顔色まで変わります」
周りに褒めてくれる人がいなかったら、「自分で自分をほめる」ことも効果的だそうです。
「和顔施」で周りの人を幸せにする
自分に自信が持てなくてツライときや苦しいとき、いつの間にか笑顔を忘れていることも……。でも笑顔でいると必ずいいことがあると寂聴さんはおっしゃいます。
寂聴「笑顔があるところには、必ずいいことが起こります。笑顔でいると不幸は逃げていきます。その逆に、不幸は泣き顔につきます」
まなほ「たしか仏教には『和顔施(わがんせ)』という言葉がありますね。
寂聴「いつもニコニコと笑顔を絶やさないよう心がけるだけで、周りの人たちに幸せを施すことができるのです。それが『和顔施』です」
自分だけでなく、周囲も幸せにすることができる笑顔。自分に自信がないときこそ心がけたいですね。
自分のことばかり考えて、「自分さえ幸せになればそれでいい」と思う気持ちは誰にでも少なからずあるもの。仏教ではそれを「我欲」と言うのだそう。
寂聴「自分の欲というものには限りがありません。それが、苦しみを生み出す大きな原因にもなります。それよりも、自分の行いが人のためになっていると実感できることのほうが幸せだし、誰かを幸せにすることが本当の意味で生きることだと思います」
「我欲」が苦しみの原因にもなるとのこと。今度嫉妬に苦しめられたときは、まずは無理をしてでも笑顔を作る。そして、自分の良いところを自分で褒めてあげる。人のためになることを心がける……。
すぐに嫉妬心は無くならないかもしれないけれど、自分を認めてあげることで、今よりも幸せになれる気がしました。