真木よう子さんインタビュー
映画『アンダーカレント』で真木よう子さんが演じるヒロインのかなえは、夫・悟(永山瑛太)が突然失踪をしてしまい、ひとりで銭湯を経営している女性。ある日、「働かせてほしい」とやってきた堀という男(井浦新)を住み込みで働かせながら、かなえは友人に紹介された胡散臭い探偵・山崎(リリー・フランキー)に夫の行方を探してもらう……という物語。
かなえという女性にフォーカスし、彼女の“いま”と抗えない過去を浮き彫りにしていくストーリーは目が離させない魅力に満ちています。そんな映画の裏側からお話を伺いました。
―映画『アンダーカレント』、すごく引き込まれる映画でした。真木さんはオファーを受ける前に原作漫画を読んでいたそうですが、依頼があったときのことを教えてください。
真木よう子さん(以下、真木さん):私は漫画マニアなので、すごく好きな漫画は実写化して欲しくないくらいなのですが、実写化をするのであれば、原作ファンの方に「残念な出来だった」と思われないようにしたい!という強い想いで臨みました。
幸い、井浦新さん、リリー・フランキーさん、永山瑛太さんなど、役にピッタリの素晴らしいキャストが揃って、とてもうれしい気持ちで撮影に臨みました。
―真木さんにとっても大切な原作だったんですね。
真木さん:私は非現実的な世界観の漫画よりも人間をしっかり描いたリアリティのある漫画が好きなんです。『アンダーカレント』を読んだのは、20代後半なのですが、今回出演依頼をいただいて「あの漫画だ!」とすぐに思い出したので、私にとって印象が強い作品だったんだと思います。
かなえちゃんを演じるにあたって、できるだけ彼女の心情に寄り添いたかったので、台本と一緒に漫画も持ち歩いて「このシーンはどんな表情していたかな」と漫画のかなえちゃんを確認しながら演じていました。
役にのめり込みすぎて気を失った事件の真相とは?
―夫に突然出て行かれたり、謎の男が住み込みで働いたりと前半はミステリアスな展開ですが、後半それらが紐解かれていき、時折挿入される“水とかなえ”の描写が意味を持ってくるところなど、心をえぐられるようでした。印象的なセリフも多かったですね。
真木さん:悟の「本当のことなんて誰も知りたくないんだよ」というセリフは印象に残っています。実はそうなのかもしれない。大切な人を笑顔にしたい、幸せにしたい、守りたいという感情が「良き理解者でありたい」という気持ちにつながり「相手のことを知りたい」と思うのではないか……と。そう思っていたけど、悟を探し続けていたかなえに対する彼のセリフにはドキッとしました。
―公式サイトに「役に入り込むあまり、ショックで気を失った作品は初めて」とコメントしていますが、それくらい撮影では集中されていたんですね。
真木さん:そのコメント、話をかなり盛りました(笑)。撮影は真夏で猛暑の中、事情があって室内のエアコンを切ることになったのですが、冬設定なので、私はめちゃくちゃ厚着だったんです。だから熱中症みたいになっちゃって。
でもそれを言うのが恥ずかしかったんで「役に入り込むあまり〜」というコメントを出したのですが、それが一人走りしてしまったんです。色々な人に聞かれ、やっぱりちゃんと言わないといけないと思いました(笑)。
娘にはいつも“愛しているよ”と伝えています
―ライススタイルについてもお伺いしたいのですが、真木さんはお子さんを育てながらお仕事もやっていらっしゃいますが、仕事と母親業の両立はどうされていますか?
真木さん:私はシングルマザーなので、家では“お母さん”だけでなく“お父さん”も兼ねている感じです。いまは私の母も一緒に住んでいるので、私が仕事で不在のときは、母が娘のことを世話してくれて、本当に助かっています。
中学2年なので身の回りのことはできますが、私が仕事で数日間不在にするときは、反抗期なのか、反発してくることもあります。でもふと気づくと隣に座っていたりして……。寂しい思いをさせてしまっているかなと、休みの日は娘との時間を優先させています。
―娘さんの気持ちに寄り添っているんですね。
真木さん:娘が小さい頃から仕事をしているので、世の中の“お母さん”とはちょっと違う立ち位置ですし、そのことを私自身、少し負い目に感じているところがあって、甘やかしちゃったかなと思うことはあります。
娘はアニメ好きなので、アニメ関連の買い物に付き合ったり、彼女の好きな世界を理解しようと一緒に見たり聞いたりして、推しを探したりしています(笑)。うちは母がお母さんで、私と娘は姉妹みたいな家族です。
―思春期は大変ではないですか?
真木さん:反発しだすと激しいこともありますが、甘えているのかもしれません。学校での悩みなど、話したいときは話してほしいけど、話す気持ちになれなかったら「ママをサンドバッグにしていいよ」と言っています。
娘にはいつも「あなたの帰ってくる場所はここだから。ママはいつもあなたの幸せを考えているし、あなたのことを愛しているからね」と伝えています。気持ちを言葉にしてちゃんと伝えることを私は大切にしています。
美容と健康はマイペースにケア
―健康や美容で気をつけていることはありますか?
真木さん:やはり40歳になると、体の疲れがなかなか取れないですね。いつも相談している美容クリニックがあるので、アドバイスをもらいながらサプリメントを摂取しています。スキンケアは、相性のいい化粧品に出会うと、それをずーっと使うタイプなので、あれこれ試したりしないんです。ただ人前に出る職業なので、最低限のスキンケアはちゃんとやって維持しています。でもそれくらいですね。
あまりジムに行ったりするのが好きじゃないんです。一度行ったのですが、自転車漕ぐのに疲れちゃって「お金払ってこんなに疲れることしたくない」と思ってやめました(笑)。
―最後に、saita読者に映画『アンダーカレント』のおすすめポイントを教えてください。
真木さん:私は自分と同世代の40代の方、それより上の方にこの映画を見てほしいと思っています。かなえちゃんは自分過去と向き合っていくことになりますが、人と気持ちをわかり合える喜びなどを感じることができる映画です。ぜひ劇場でご覧ください。よろしくお願いします。
真木よう子(まき・ようこ)
1982年生まれ。千葉県出身。『ベロニカは死ぬことにした』(2006)で映画初主演。同年『ゆれる』の演技で山路ふみ子映画賞新人女優賞受賞。第37回日本アカデミー賞では『さよなら渓谷』で最優秀主演女優賞、『そして父になる』で最優秀助演女優賞をW受賞。近作は『ある男』(2022)『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』(2022)。最新作は『大いなる不在』(2024年公開予定)Amazonオリジナル『次元大介』(2023年10月16日配信)がある。
『アンダーカレント』2023年10月6日公開
夫・悟(永山瑛太)が突然失踪してしまい、ひとりで銭湯を運営していたかなえ(真木よう子)。ある日、彼女の元に「働かせてほしい」と中年の男・堀(井浦新)がやってきて、住み込みで働くことに。一方、友人に紹介された胡散臭い探偵(リリー・フランキー)に夫の行方を探させていたかなえは、彼の知られざる真実を知ることになるのですが……。
監督:今泉力哉
原作:豊田徹也『アンダーカレント』(講談社「アフタヌーンKC刊」)
出演:真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、中村久美、康すおん、内田理央
取材・文/斎藤 香
撮影/髙橋明宏
ヘアメイク/Miyuki Ishikawa (B.I.G.S.)
スタイリスト/KIE FUJII(THYMON Inc.)
衣装/AKANE UTSUNOMIYA