習い事や進路「あなたが決めていいよ」は本音で言えていますか?親子間の【決定権の所在】

家族・人間関係

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 親子における「決定権の所在」

2023.10.28

臨床心理士・公認心理師のyukoです。親子の話を聞いていると、親側は「子どもに任せている」と話す一方、子ども側は「親に決められている気がする」と話す場合があります。このような認識の相違は、なぜ生じてしまうのでしょうか。親子間において、「決定権」はどこにあるのかを考えてみます。

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導く愛情か、手放す愛情か。

子育ての中では、習い事や進路など、親がどこまで決めるべきか、迷いと悩みの連続ですよね。
「すぐに飽きるんじゃないか。」「この学校の方が合っていると思うんだけど。」
そう思い、レールを敷いて導いてあげようとする親御さんも多いです。

レールを敷いて導いてあげようとする親御さん出典:stock.adobe.com

「失敗を避ける」「挫折をしない」観点から見るとよいのですが、「自主性」や「失敗に対する責任感」を育みにくくなるのが悩みどころ。

子どもに選ばせることと、その意味。選択のさせ方について、考えていきます。

「選択」によって積み上げられる力

「選択」の中には様々な力の種が潜んでいます。
自分の個性や責任、自己肯定感など。選択を通して身につくものは多いんです。

2人の女の子とその母親を例に考えてみます。

ネットで洋服を選ぶときAちゃんの母親は「好きなの選んでいいよ。Aちゃんはオレンジが昔から似合うよね。これとかどう?」と言い、おすすめを指さします。Aちゃんは、「ママがそう言うなら」とオレンジの服を選びます。

一方Bちゃんの母親は「Bちゃんの好きなの選んでいいよ。」と言い、Bちゃんは緑色の服を選びます。母親は内心もう少し明るい色の方が似合うのではと思いつつも「Bちゃんはこの間も緑色選んでいたから、好きなんだね」と伝えます。

親子出典:stock.adobe.com

Aちゃんの母親はAちゃんの可愛さがひきたつ色に誘導しました。オレンジの服を着て友達に会った時「かわいいね」と言われたら、「ママの選択は正しいんだ」と思いやすくなります。

一方、Bちゃんの母親はBちゃんの外見が映えることよりも、Bちゃんが選んだものを認め、好きな傾向を見いだしました。
「選択する」→「誰かから認められる」経験により、「自分の選択は間違っていない」という思いが重なっていきます。

そして成長していく中で「こうしてみたいけど大丈夫かな」→「きっと自分なら大丈夫」と思えるようになっていくんです。

もちろん時と場合によってAちゃんの母親パターン、Bちゃんの母親パターンを使い分けてもよいでしょう。
ただ、「子どもに選択させる」「親の意見とは異なっても受け入れる」。
この2つは親子のやり取りに癖づけていくのがおすすめです。

「It’s up to you.」と「It depends on you.」

アメリカの父母は子どもに対して「It’s up to you.(=あなた次第よ)」と口癖のように言います。

私が相談を受けている親御さんも「子どもに決めさせている」と話す方は多いです。
それなのに子どもは「親に決められている」と言います。

悩む子ども出典:stock.adobe.com

なぜ相違が生じるのか考えたとき、コミュニケーションの齟齬がある家庭の親は、子どもに「It depends on you.(あなた次第よ)」と言っているのでは、と気づきました。

どちらも和訳すると同じ訳になってしまうのですが、この2つには大きな違いがあるんです。

「up to」には「責任」や「義務」のニュアンスが含まれます。
一方、「depend」の意味は「~による」「~にかかっている」。

親が子どもに「It’s up to you.」と言った場合、決定権は完全に「you=子ども」です。
一方、「It depends on you.」と言った場合、(子どもの意見は参考にするけど)決定権は親にあります。

子どもに意見を言う余地は与えても、決定権はなく「そのときの状況による」というニュアンスが加わるんです。

例えば、

  • 受験やめたいって?あなた次第(=It depends on you.)だけど、私の計画にも影響してくるから早く決めてよね。
  • 少しレベルの高いA中学を目指す?それとも低めのB中学を目指す?あなたの努力次第よ(=Success depends on your effort. )
  • 〇〇を習いたいならパパに頼んでみたら?まあ、パパの機嫌次第だけど(Well, it depends on Dad’s mood.)

レールを敷いて導いてあげようとする親御さん出典:stock.adobe.com

子どもに選ばせているようで、決定権は与えない。そんなニュアンスが感じられますよね。

たしかに、完全に子ども主体・子ども任せに決められることばかりでないのが現実。
ですが、親側が決定権を子どもに委ねているか、どこか誘導しているか。それは認識しておく必要があります。

そして少しずつ、小さなことからでも「It’s up to you.」と手放していけるとよいのではないでしょうか。

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著者

yuko

yuko

臨床心理士・公認心理師。現在は小児の総合医療センターと大学の心理教育相談センターにて勤務。児童期から思春期の子どもへのカウンセリングやプレイセラピー、子育てに悩む保護者の方への育児相談を専門にしています。色彩心理学やカラーコーディネートについても学んでおります。

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