エコーチェンバー現象とは?
「エコーチェンバー」とは、SNSなどを利用するときに、自分の興味や関心事と共通するユーザーを自然とフォローしていった結果、SNSで意見を発信すると自分と似た意見が返ってくるという状況を「閉じた小部屋で音が反響する物理現象=エコーチェンバー」に例えたものです。
ネット上で得る情報は一律ではなく、一人一人が見ている世界が違います。それは、個人個人が得たいと思う情報が違い、SNSでも繋がっている人が違うからです。自分の価値観や興味に合わせた人をフォローしていくため、そのSNS上で出てくる意見や価値観、情報が偏っていくのは自然の流れです。
それの何が問題なのかというと、自分と同じような意見が自分の周りに溢れていってしまうことで、その価値観や情報だけが正しく、真実だと錯覚を起こしてしまうからです。そして、特定の考えに凝り固まってしまうことにつながります。一般的には間違っているとされるものでも、「そうだよね」「その通り」と言い合っていくうちに「これが正しい!」と思いこんでいってしまうのが恐ろしいところです。
エコーチェンバーの実例
2016年アメリカ大統領選挙
エコーチェンバーという言葉が広く知られるきっかけになったのが、2016年のアメリカ大統領選挙です。「SNS上のエコーチェンバーがドナルド・トランプ氏を勝利に導いた」とインディペンデント誌が指摘しています。トランプ氏が人種差別や女性蔑視的な発言をしてもトランプ氏支持者のグループは、そういった報道はほとんど見ず、Facebook上で話題となった虚偽のクリントン氏のスキャンダルに食いつき「トランプ氏こそが大統領にふさわしい!」と加熱していったということです。SNSのつながりやネット上のデマによって世論が大きく変わったという事例です。
アメリカ合衆国の議会乱入事件
2020年の大統領選挙は、バイデン氏とトランプ氏で争われ、Twitterでは「トランプ派の人間とは同じ空間にいたくない」「民主党支持者はバカ」など攻撃的ともとれる意見が両者であふれてました。選挙の結果、バイデン氏が勝利を収めましたが、2021年1月米国連邦議会の手続き中に熱狂的なトランプ支持者で結成されたデモ隊が乱入し、計5名が死亡する衝撃的な事件が起こりました。この事件の背景には、根拠の薄い陰謀論も渦巻いていたとも言われますが、エコーチェンバーによる思想の偏りと多様性の排除により、攻撃的な行動に発展したものと言えます。
デマによる殺人事件
「子どもを誘拐した犯人がいる」などというメッセージアプリ上で拡散されたデマを信じた人が集結。本当は無関係の人たちに対して集団リンチを行ない、死に追いやった事件も複数件、世界で報告されています。
これらの事柄に共通しているのは、熱心にSNSを使っているほど視野が狭くなっていくこと。また反対意見や間違った情報に対する指摘が自分の耳に入ってこなくなるという点です。人々の断絶を生む恐れのある現象と言えます。
フィルターバブルの中にいること気づいてる?
SNSだけ注意しておけばいいのではなく、情報を自由に検索できるネット検索であっても安心はできません。
Amazonなどのショップサイトで買い物をしたとき、閲覧した商品に関連したものをおすすめされたり、似たような商品の広告が出ていませんか? それは「すべて閲覧履歴からAIがそれぞれの傾向に合った商品をおすすめするようにプログラムされています」と鈴木さん。
これと同様に、ニュースサイトも過去に興味があって閲覧したページの内容を踏まえて、ユーザーの好みに寄せて、出てくるニュースをチョイスしています。
また、ネットの検索であっても私たちの閲覧傾向が大きく反映されているそうで、Googleの検索結果は、Googleパーソナライズド検索機能によって、個人に合わせてカスタマイズされています。つまり、自分にとって重要度の高い情報が、優先的に表示されるようになっています。素早く情報を得たい現代人にとって非常に便利である一方で、そもそもシステムの段階で、勝手に遮断されてしまう情報があることを示しているとも言えます。
このように有益な情報ばかりが優先された結果、その以外の情報から乖離した状態に陥ってしまう状況をフィルターバブルと呼ばれています。「ネットで情報をまんべんなく見ているつもりでも、それはすでに取捨選択された情報を見ていることを忘れてはいけません」と鈴木さんは言います。このフィルターバブルの中にいることに気付かずにいると、自分と違った立場や意見、違った視点の情報に触れる機会がなくなってしまいます。
エコーチェンバー対策
- エコーチェンバー現象のことをつねに意識する
- 閉鎖的な環境からは距離をとる
- 「自分たちが多数派だ」と決して勘違いしない
- あえてSNS上で反対意見を検索してみる
- 回ってきた情報にすぐ反応せず、真偽を確かめる努力をする
- 事実誤認がないように文章をしっかり読む
フィルターバブル対策
- 必要時以外はGoogleアカウントなどからログアウトしておく
- ブラウザの設定を変更し、検索履歴が残らないようにする
- 広告のカスタマイズをオフ
みんな自身と同じ意見ばかりなのは「あなたのSNS」だからです。「自分がフォローしている=情報を選択しているということを忘れないで」と鈴木さん。エコーチェンバー現象を理解したうえで、意図して幅広い情報に触れてみましょう。
>>併せて読みたい:「スマホ依存」の可能性大!あなたの依存度は?チェックリスト付
今回教えてくれたのは…鈴木朋子さん
鈴木 朋子 さん
ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー
メーカー系SIerのシステムエンジニアを経て、フリーライターに転身。SNSなどスマートフォンを主軸にしたIT関連記事を多く手がける。デジタルカルチャーを追い続け、スマホネイティブと呼ばれる10代のIT文化に詳しい。子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など、著書は監修を含め、20冊を超える。
「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ)、「スッキリ!」(日本テレビ)、「ゴゴスマ」(CBCテレビ)、「ビーバップ!ハイヒール」(ABCテレビ)、「マサカメTV」(NHK総合)、などテレビ、ラジオ、新聞、雑誌などのメディアにも出演。
「親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本」
子どもにはじめてスマホを買い与える人は必見!
「親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本」
スマホやタブレットを使う子どもが増え、子どもがインターネットの悪影響を受けないか、ネット犯罪の被害にあわないか心配する親が増えています。本書は子どもが安全にインターネットを利用するために、親はどうすればよいかを実例を交えて解説します。気軽に読めるやさしいページ構成で、子どもが安全にインターネットを使うための方法を考えます。
「親が知らない子どものスマホ」
「親が知らない子どものスマホ」
入学前にSNSでつながる中高生。心の内はLINEの「ステメ」に書く。今はLINEで行われる「不幸の手紙」。「自画撮り被害」に潜むネットの闇。Instagramが新たないじめの温床に? “エアドロ痴漢”にご用心! 入学直前、夏休み、文化祭……危ないのはいつ? トラブルの「兆し」を見逃さない! 学校生活“要注意”イベントカレンダー付き。10代のスマホライフを理解するための用語収録。
ネットの世界では、勘違いや誤った情報の拡散が引き起こされてしまいます。最初は小さな火種でも、エコチェンバー現象によって、重大な事件に発展したり、大炎上が起こってしまいます。自分の意見を手軽に発信でき、賛同する意見も簡単に見つけることができるネットだからこそ、自分の考えや状況を俯瞰的に見てみることが重要です。