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「妊娠しても幸せじゃない」と思った私が「妊娠してよかった」と思えた理由

家族・人間関係

 「妊娠しても幸せじゃない」と思った私が「妊娠してよかった」と思えた理由

2022.02.17

結婚したい、子どもが欲しい。それこそが女性の幸せだと信じて疑わなかった私にとって、実際の妊娠生活は孤独で不安で、未知だからこそ怖かった。心身が不安定になり、仕事も思うようにできなくなり、「こんな私が母親になれるんだろうか?」と自己否定感ばかり募る日々。「これじゃ妊娠して幸せになるどころか、不幸になっているんじゃないか」と思っていた私が妊娠してよかったと思えたのは、社会のやさしさに触れたから。妊婦だからこそわかるやさしさについて。

結婚して出産すれば幸せになれると思っていた

妊娠したばかりの頃「妊娠したら幸せを実感できると思っていたのに、こんなにしんどいなんて」と愕然とした。

少女漫画雑誌『りぼん』の愛読者だった私にとって、ハッピーエンドの定番である「好きな人と結婚して子どもを産み、母になる」ことは幸せの条件だった。それさえ成就すれば、背景には花々が咲き誇り、あふれんばかりの笑顔で幸せを体感できると信じて疑わなかった。

下手な鉄砲も数打ちゃ当たる理論でマッチングアプリやら合コンやら山ほどの出会いを繰り返し、「もはやこれまでか」と倒れかけた100人目くらいで、誠実・安定・尊敬の3点を兼ね備えた夫に出会い、死に物狂いで結婚した。

ぶっちゃけかなり安心したが、ここで立ち止まってはいけない。理想のライフプランに沿って早々に子作りをはじめ、産婦人科で「妊娠してますね」とあっけらかんと言われた時、ようやく静かな感動がじわりとこみ上げてきた。

おなかをさする妊婦

少女漫画脳の私からすれば、だんだん大きくなるおなかをさすりながら赤ちゃんへの期待と愛おしさが募り、夫婦で「もうすぐだね」と笑い合う―――そんな情景がイメージされたが、それはとんでもなく楽観的で「夢見る少女」でいすぎた。

幸せな妊娠生活とはほど遠い、孤独で不安な日々

本当は、妊活を始める前から
「私が子どもを産んで大丈夫なのかな?」
という自分への不安が、日々雪のように降り積もっていた。

特に妊娠初期はホルモンバランスが一気に変わって心身も不安定になり、無気力に横たわって鬱々とした。しかも食べづわりで体ばかりがむくむくと大きくなり、「吾輩はトドである」と夏目漱石風の小説を書きたくなる始末。気力がないから書かないけど。

とにかくやる気が出ず、原稿の納期を守れない社会不適合者になり、日に日に自信がなくなる。自己否定感が強くなり「いっそこのまま溶けてなくなってしまえたら楽なのになあ」と思うと同時に「生まれる前からこんな状態で母になれるのか?」と疑わしくなった。

つわり中でベッドに横たわる妊婦

生まれてから今までずっと自分軸で生きてきたのに、急に子どもという新しい軸ができて、自分より子どもを優先しなければならなくなる。泣くことしかできない、首も座っていない、寝返りすら打てない小さな命。はたしてそれを守りながら育むことが、私にできるんだろうか? 

仕事はどうなるんだろう。ライターとして独立して数年、まだまだ自分の名前を売っていきたいし、もっとたくさんコラムを書きたい。でも育児が始まったら今より働けなくなる。どれくらい働けなくなるんだろう?稼ぎはどれくらい減るんだろう?育児で疲れて仕事のやる気がなくなったらどうしよう?やりたいことをあきらめる人生になってしまったらどうしよう?

家にこもっているとそんな不安ばかりがぐるぐる渦巻き、幸せとは遠く離れたところにいた。

外に出てみたら、社会はやさしかった

妊娠初期が一番しんどかったが、見た目の変化はないので口に出さない限り伝わらない。安定期に入るまでは流産のリスクもそれなりにあり、公言しにくいのがネックだ。それでも仕事に支障が出ていたので、クライアントには必要に応じて「つわりで思うように動けません」と素直に伝えた。失注のリスクも懸念したが、言わないで誤魔化せる状況ではなかったのだ。

打ち明けてみると、だれもが労わってくれ、祝福してくれた。しんどい、つらいとネガティブになっていた私にとって、妊娠を手放しに祝福されるのは新鮮で、シンプルにうれしかった。「おめでとう!」と握手してもらった時は、妊娠したというだけで手を握るほど祝ってもらえるんだなと思い、じんわりと感動した。

思い返すと、妊娠中は人生で一番「他人のやさしさ」を感じた期間でもあった。外を歩けば見知らぬ人が私の体を労わってくれ、席をゆずってくれたり、「いつ産まれるの」と笑いかけてくれたりした。上京して10年が経っていたが、初めて自分が社会の一員であり、他者に生かされているのだと自覚した。世界はこんなにやさしかったのかと驚き、「史上最強にしんどいけど、妊娠してよかった」と思えた。

窓際で前を向く妊婦

自分の身体に命を抱えるのは、重い。
尊いけど、重い。
十月十日は長い。
妊娠するだけで幸せになったりしないし、たとえ幸せでも楽じゃない。

だから、つらい時はつらいと言っていいのだ。
「つらい」という声が無視されることもあるかもしれないが、すぐに駆け寄ってくれる人も絶対にいる。
妊娠で不安定になった心身を、だれかのやさしさが補ってくれる。
不安定な時ほどマイナスに目が行きがちだけど、プラスを見つけようとすれば、たくさんのやさしさが降り注いでいる。

マタニティマークをぶらさげた女性を見たらできるだけ労わってほしいし、妊婦は人のやさしさに敏感になってほしい。
そうすれば社会の幸せが最大化されるはずだから。

(写真:chinami arakawa


著者

秋カヲリ

秋カヲリ

だれもが自己受容できる文章を届けたい文筆家。女は生きにくい、だからしなやかに生きたい。 ・著書「57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室」(遊泳舎) ・恋愛依存症に苦しみ、心理カウンセリングを学ぶ ・出産して育児うつを経験、女の幸せを考える ・ADHDなどのグレーゾーンゆえに会社員として適応できず、4社を転々としてフリーランスのライターに ・YouTuberオタクで、YouTuberの書籍編集・取材執筆多数