教えてくれたのは……朝澤恭子先生
東京医療保健大学東が丘・立川看護学部看護学科准教授。看護学博士。看護学修士。助産師。看護師。妊娠、出産、不妊治療の臨床の現場に立ち会いながら、産後ケアなど婦人科目の論文を積極的に発表。各種メディアにて、不妊や生理など女性特有の悩みについての正しい知識を発信し続けている。
止まらない晩婚・晩産化
あなたや、あなたの周りの方が出産したのは、何歳のときでしたか? アラフォー世代の女性が生まれた1980年頃は、35歳以上の高齢出産は全体のわずか5%にも満たない状況でした。でも、2016年では、全体の約30%。さらに30代以降に出産した人まで枠を広げて見ると、なんと64.8%と、出産の高齢化は年々進んでいるようです。
その主な原因が、晩婚化だと朝澤先生はおっしゃいます。今は、共働きが当たり前の時代になりました。そのため女性のキャリア形成を考えると、継続できる基盤を作ってから結婚することが理想と考える方も多いのかもしれません。となると……どうしても、30歳前後が結婚適齢期になってしまいます。
参考:厚生労働省|平成20年 人口動態統計(確定数)の概況、令和元年(2019)人口動態統計(確定数)の概況「母の年齢(5歳階級)・ 出生順位別にみた出生数」、1婚姻・出生の推移
高齢出産のメリット・デメリット
では、高齢出産にはどんなメリットやデメリットがあるのでしょうか。朝澤先生によると、メリットとしてこんなことが挙げられるようです。
- 女性もそのパートナーも人間的に成熟した親になれる
- 年齢的にキャリアを積んでいると考えられるため、社会的・経済的に安定している
- 第一子出産年齢と寿命が関連し、第一子出産年齢が高い人は長生きしやすいという研究結果がある(*1)
- 子宮内膜癌の発症率が44%低い(分娩年齢が40歳以上と25歳を比べた場合。*2)
ではデメリットとしてはどんな問題があるのでしょうか? 高齢出産の主なデメリットとしては、これらのことが挙げられるようです。
- 妊娠中から出産後まで母子共にハイリスク
- 両親が高齢のため、両親の助けが得られない場合が多い
- 両親の介護と育児のダブルケアに悩む場合もある
メリットもある一方で、朝澤先生によると高齢出産が妊婦さんに及ぼすダメージは大きいとおっしゃいます。
「高齢出産の方はそうでない方に比べて、緊急帝王切開(異常分娩)での出産が1.6倍を超えています(*3)。また、妊娠できたとしても、流産率は36歳ごろを超えると徐々に増えていきます。そのほかにも早産や妊娠糖尿病など妊婦にダメージを及ぼす確率も高くなります」(朝澤先生)
*1:Larke A, Crews DE. Parental investment, late reproduction, and increased reserve capacity are associated with longevity in humans. J Physiol Anthropol. 2006;25(1):119-31.
*2:Setiawan VW,et al; Australian National Endometrial Cancer Study Group. Age at last birth in relation to risk of endometrial cancer: pooled analysis in the epidemiology of endometrial cancer consortium. Am J Epidemiol. 2012 15;176(4):269-78.
*3:Khalil A, Syngelaki A, Maiz N, Zinevich Y, Nicolaides KH. Maternal age and adverse pregnancy outcome: a cohort study. Ultrasound Obstet Gynecol. 2013 Dec;42(6):634-43.
高齢出産と高齢初産の違い
35歳以上の出産を「高齢出産」と言いますが、実は経産婦による第2子以降の出産より、初産のほうが出産リスクは高いようです。
「高齢初産婦の方が、加齢による出産リスクが高まります。例えば、難産や微弱陣痛、分娩遷延、また帝王切開分娩率も高くなり*、妊娠中も母体への高いダメージが。
とはいえ、私は高齢出産を後悔された方を見たことはありません。皆さん、ご懐妊をお喜びになっていらっしゃいます。
妊娠・出産・育児は、幸せや満足感をもたらしてくれ、楽しいことがいっぱい待っています」(朝澤先生)
*笠井靖代ら(2012).年齢因子は分娩に影響するか. 日本周産期・新生児医学会雑誌,48(3),585-594.
最大の後悔は、産後にくる!?
高齢出産に関しては、産後の方がツライという声も上がっています。
20代に比べ、圧倒的に体力が落ちているのに、24時間つきっきりの育児や睡眠不足で疲労困憊。さらに、周りのサポートが少ない中、介護などの負担がWでのしかかってくる人もいるとのこと。
「そうならないために、今まで培ってきた社会経験を活かしましょう! 睡眠時間を確保して、育児不安やストレスを減らすよう、産後ケアセンターや、病院や自治体の育児サポート、保育園、ファミリーサポートなどを事前に調査することをおすすめします。万全な体制を整えて出産に臨めば、産後の負担もそこまで大きくならないでしょう」(朝澤先生)
妊娠中からリスクが高まる高齢出産。子どもがほしいと考えたとき、教えていただいたさまざまな情報を事前に知っておくことは大切ですね。