教えてくれたのは……南直哉さん
南直哉(みなみ・じきさい)
禅僧、青森県恐山菩提寺院代(住職代理)、福井県霊泉寺住職
1958年長野県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、大手百貨店勤務を経て、1984年に曹洞宗で出家得度。同年から約20年、曹洞宗大本山・永平寺での修行生活のあと2005年より恐山へ。小林秀雄賞を受賞した『超越と実存』(新潮社)などの多数の著書で知られている。
『「前向きに生きる」ことに疲れたら読む本 』(アスコム)
価格:1,430円
怒る行為は「過激な指摘」に過ぎない
怒りはもっともコントロールすることが難しい感情のひとつだと禅僧・南直哉さんは言います。
「小さなことで部下を叱ってしまう」
「パートナーの言動に腹が立ち、いつもイライラしてしまう」
南さんのもとにもこんな悩みが数多くくるそうです。
ついカッとなってしまうのは「怒ること」が解決につながるのだという思いこみがあるからです。しかし、いくら怒鳴っても相手が萎縮するか、反発するだけ。怒る行為は「問題がここにある」ということを過激に指摘しているだけで問題の解決にはならないのです。
だから、誰かが怒っているときは「この人はどんな問題を指摘しているのだろう」と考えてみましょう。どんなに相手が激昂していても、「指摘された問題だけを捉えて、余計な怒りは受け流せばいいのです」と南さんは言います。指摘の内容だけを考えれば、「怒られた」ということに過剰に感情を揺さぶられずに済みますね。
本当に「自分が正しい」のか考えて
人が怒るのは、根底に「自分が正しい」と信じているからだと南さんは指摘します。しかし、その「正しいこと」は時と状況によって人それぞれ変化するものです。それがわかっていれば、一時的にイラっとしても、さほど激しい怒りには至らないはず。
怒りに翻弄されたくないのであれば、「また怒ってしまった」と思った時点で、「本当に自分が正しいのか、再検討する余地があると考えてください」と南さんは言います。
南さんのおすすめは、「怒りの相手から物理的に離れること」。そして、立っているのではなく、床に直接座ってしまうことが効果的なんだとか。怒りを鎮めたいときに、ぜひ試してみましょう。
怒りへの対処法 ルーティンな行動をしよう
いつまでたっても怒りや嫉妬の感情が収まらないときはありませんか? 南さんは、無理に感情を抑えようとしても逆効果だと考えます。自分の意志や自制心だけでは怒りのコントロールはできません。そんなときは頭と体を切り離すイメージで「「頭」は感情の嵐が荒れるにまかせます。しかし「体」は淡々と日常生活を送るのです」と南さん。なぜなら、普段の生活には「人に当たること」「感情を爆発させること」などは含まれていないからです。
怒りで頭の中がいっぱいでも、朝はいつもの時間に起床、身支度を整え、普通に食事して、昨日と同じように仕事に出かけたり、家事をするのです。体はいつもどおりの振る舞いを続けることがポイントです。
いったん波立った感情はしつこく居すわるので、しばらくは、意識して普段通りの行動を続けましょう。そうしていると、嵐のようだった感情は枯れていきます。怒りをやり過ごしてみれば、問題をフラットな状態で見ることができるようになったり、頭の中を支配していた怒りが、さほど大したことではなかったと思えるかもしれません。
怒りを紙に書いてみるのも効果的
腹を立てているとき、不満が募るとき、自分の思っていることを紙に書き出してみましょう。長い時間、頭の中に渦巻いていた感情であっても、「意外にすぐに書き終わることに驚くはず」と南さん。そして、冷静な状態でその言葉を見てみましょう。
南さん「いかに自分がどうでもいいことを思っているのかが、よくわかるはずです」
怒りの感情をコントロールするのは難しいことですよね。人は頭で変わろうと考えても、変われるものではありません。怒りの対象から離れて時間を過ごしてみたり、いつも通りのルーティンをこなしたり、紙に書き出してみたりして、感情を押さえつけるのではなく、行動を変化させて怒りをやり過ごしてみてください。