お話を伺ったのは……川島隆太先生
東北大学加齢医学研究所 所長。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター センター長。
東北大学加齢医学研究所では7万人以上の子どもの脳と認知機能の発達を10年間追跡調査。そこから特にスマホを使った場合に学力が大幅に下がることを発見、スマホが子どもの脳に与える深刻な影響に警鐘を鳴らしている。著書に『スマホが学力を破壊する』、『さらば脳ブーム』など、300冊以上を出版。近著として『子どものデジタル脳 完全回復プログラム』の監修をおこなっている。
『子どものデジタル脳 完全回復プログラム』
著者:ヴィクトリア・L・ダンクリー
監修:川島隆太
価格:1,980円(税込)
子どもがデジタル機器と上手に付き合うには?
――スマホやタブレットなどのデジタル機器はこれからさらに私たちの生活に入ってくると思いますが、子どもたちの教育上、どんなことに気を付ければいいでしょうか。
川島隆太先生(以下、川島先生):現代の小学生から高校生までのお子さん、そしてその周りにいる人たちは、なんらかのデジタル機器を持っているので、自分だけが持たないという選択はなかなか難しいですよね。そこでデジタル機器と上手に付き合っていくための習慣を2つご紹介します。
- 家庭で勉強をするときは電源を切り、さらに勉強部屋以外のところに置く
- 夜寝るときは電源を切って、枕元から離してから就寝する
この2つの習慣から始めるといいと思っています。
――電源を切る、そして体から離すということが大事だということですね。
川島先生:電源の入った状態のスマホやタブレットが手元にあると、子どもはどうしても見てしまいます。電源を切ったとしても、「持っているだけ」で集中力は下がるのです。ですから、物理的に離す、見たくても見れないという状況を作ることが非常に大事です。
そして、勉強が終わったらご褒美として時間を決めてみてもいいかもしれません。
電車の時間を調べたり、連絡を取り合ったりと「使う必要のある時だけ使う」という習慣がつくのが理想的ですね。
食事中にもスマホやタブレットを手にしていませんか?
――すでにスマホやタブレットに、やや依存してしまっている大人や子どもたちにとっては難しそうですね……。
川島先生:今、悪影響がでていないから大丈夫と思っていては危険ですよ。人間は快楽物質であるドーパミンが出てくると、それに依存してしまいます。これは子どもだけに限ったことではありません。自分では気づきませんが、多くの日本人がすでに依存状態にあるといえます。
――たとえばどんな行動が依存をしていると言えるのでしょうか?
川島先生:たとえば家族で食事をしているときにスマホやタブレットを見ていませんか? メールやアプリの着信音が聞こえれば、食事中にも関わらず返信をする人もいるでしょう。しかし、その行動は中毒患者の行動以外の何物でもありません。
もし家族との食事中にそのようなことをしていたら、人として恐ろしい、悲しい行為をしているということに気づいて欲しいです。家族が一緒にいられる時間は限られています。子どもが大きくなり巣立っていけば、大事な家族が一緒にいる時間が貴重だったことに気づくと思います。
そんな大事な時間であることに気づかず、スマホばかりを優先して見てしまうことが問題です。
――着信音がなれば見てしまいたくなるので、スマホやタブレットを「自分の体から離す」という行動がいかに大切かということがわかります。
川島先生:スティーブ・ジョブスをはじめ、シリコンバレーでハイテク機器を扱う企業の幹部たちは、自分の子どもがデジタル機器に触れることを厳しく制限している、という話は有名です。デジタル機器を作っている最先端の人たちが、そのような行動をとっているということの意味を、この機会に考えてみてください。
子どものスマホ依存、原因はもしかしたらあなたかもしれない
――わが子がスマホ依存しているかも? と感じたときに、まずは親としてどういった行動をとればいいのでしょうか?
川島先生:それは第一に親がスマホの依存から離脱することです。親が必要以上に使わないという行動が大事ですよ。親はスマホを見ているのに子どもに「使ってはダメ!」というのはおかしな話です。まずは親がスマホから離れましょう。
――親がまず気をつけるべきですね。その上で、スマホの使い方で子どもと言い争いになるときはどのように伝えたらいいでしょうか。
スマホなどの影響を伝えるために、子どもにデータを見せることも有効です。たとえば、スマホを使い続けると学力が下がるといった信憑性のある、しっかりとしたデータを見せれば、子どもも危機感をおぼえます。
現代は情報化社会です。小・中学生でも、大人たちが悪いことをしていることはニュースを通して知っています。ですから、スマホの危険性をいくら上から目線の言葉で説いても聞きません。そんなことよりも、信頼できるデータを子どもたちに見せて、自分で感じてもらうことが有効です。
――そのデータというのはどこから入手すればいいのでしょうか?
川島先生:仙台市のホームページには、私も関わっている「学習意欲」の科学的研究に関するプロジェクトという部分があります。そこには中学生向け、小学生向けに、勉強と動画視聴についての研究結果を説明する資料などもありますよ。
子どもにはこういった裏付けのある資料とともに説明してあげると、しっかり伝わるのではないかと思います。
――お子さんのデジタル機器の影響が心配なら、親も本腰を入れて子どもと向き合う環境を作ったほうが良さそうですね。
川島先生:そうですね。スマホやタブレットの依存は、薬物中毒と同じようなことが脳内で生じてしまっているので、すぐには離脱できないんですね。そのときに一番の協力者は家族ですし、周りの人たちのサポートも必要です。
その際に、子ども自身が“なぜスマホなどのデジタル機器に依存しない方がいいのか”、“スマホによって自分にどんなことが起こっているのか”ということを理解しないと、子どもたちはすぐに使いすぎてしまうと思います。
多くの子どもたちは大きな影響もなく、デジタル機器を使い続けることに問題を感じないと思いますが、脳への影響や学力との関係を知ることで、デジタル機器との関係をしっかり考えることができます。実はスマホを見すぎなければ、偏差値などもすぐ上がることにつながることもわかっています。ですから、家族でスマホやタブレットの使い方をしっかり考えてみてください。
スマホを使いすぎの子どもと言い争いになっているご家庭もあると思います。そんなときは、信憑性のある資料とともに、子どもにデジタル機器の影響を伝えることが大事なのですね。教えていただいた資料とともに、子どもと考えていきたいと思います。