大阪 箕面多文化交流センター コムカフェ
ランチタイムに何度か伺ったコムカフェは、日替わりで外国のさまざまな料理を味わえる人気のお店。「地域に住む外国人シェフが故郷の味を日本人に振舞うことで、自己実現や近隣住民の多文化理解に役立っている。」と、取材に伺うまでの私の理解はここまででした。今回、箕面市立多文化交流センター館長の岩城あすかさんにお話しをお聞きして、この活動の奥行きの深さと、真の多文化共生の難しさを知りました。
世の中はさまざまな価値観のグラデーション
「国際交流というと、食べ物やファッションをテーマにしたイベントを思い浮かべる人が多いと思います。でもそれは、一時的なものであって、MAFGA(箕面国際交流協会)がめざす多文化共生の実現とは別のものです。ここでは、外国人が主体的に自分たちがやりたい企画を立ち上げ、外国人同士のコミュニティづくりを率先しておこなっています。
「コムカフェでは、日本人が外国人を支援するのではなく、国籍に関係なく全員が対等に活動をすることを大切にしています。日本人は、目上の人へは下手に出て、弱い立場の人には上から目線…といった上下関係に慣れていますが、『みんな平等』や『対等』という関係は苦手なので、ボランティア活動をする人には色々なセミナーに参加して、共生についての知識を深めてもらいます。」
ーー今まで取材をしてきた国際交流協会では「外国人に語学を教える」ことが活動のメインで、スタッフの殆どが日本人でした。
「外国人の生活の向上には、もちろん語学習得は必要です。でも、外国人が自ら運営するコミュニティの居場所として生まれたのが、コムカフェです。この活動で日本語のスキルが上がります。単に「外国の料理が楽しめるレストランを作った」わけではなくて、外国人のエンパワメントの推進と、地域に住む人に異なる文化をもつ人たちとの共生に関心を持ってもらうのが目的で、それらの手段として世界の料理があるわけです。」
ーー多文化共生の難しいところは?
「世の中の価値観はグラデーションで成り立っています。なのでビシッと答えが出る解決法ばかりではなく、全員が思いを口にできる環境は整えつつも、〇や✖を敢えて付けずにゆるやかに調整してゆくことも時には大切です。文化や習慣、歴史認識の違いで、思わぬところで誰かが傷ついていることもあります。そんな時には気持ちを言葉に出して…と促します。話してみれば問題がどこにあるのかがわかる、ということも多いものです。」
MAFGAに来て「新しい人生」が始まりました!
この日の担当シェフは「ノックさん」こと、中川ナパラウィーさん。
「タイでは雑誌編集の仕事をしていました。結婚を機に初めて日本に来ましたが、日本語が話せず、夫としか話さない半年間を過ごしました。「ヤバいな…」と思い、2週間ほどタイへ戻り母に悩みを聞いてもらうと、やっと元気を取り戻すことができ、「新しい人生を始めよう!」と勇気が出たんです(笑)。
箕面に戻り、まずバスの乗り方を勉強してMAFGAに行ってみると、みんなとても親切で、日本語クラスにはタイ人の人もいて「来て良かった!」と心から思いました。そう、本当に人生が変わりました(笑)。子どもが幼稚園に入ったタイミングで、コムカフェのシェフに挑戦しました。私の料理をみんなが笑顔で楽しんでいるのを見ると、とても嬉しいです
私も「外国人」経験者です。
この日、日本人スタッフとして活動していたのは、MAFGAスタッフの齊藤綾子さん。
「2021年5月まで夫の駐在先のタイで、専業主婦を10年していました。昨秋からコムカフェでのボランティアを月に1、2度していたのですが、そろそろ働きたいなと思った頃に求人が出ていることを知って応募し、契約社員となりました。私自身、タイでは外国人だったわけで、言わば経験者(笑)。心細さや不安を感じることもたくさんありました。「こんな場所があればどれだけ良かっただろう」と本当に思います。今日のように、日本人スタッフが私とインターンの2人だけ、という日も多く、こんな場所はなかなか無いな…と実感しています。外大生だったころは漠然と「色んな世界を知ってみたい」という夢があったんですが、箕面にいながらその好奇心が満たされる日々です。
「ひとりではない」と思える居場所として
韓国出身の崔聖子(ちぇそんじゃ)さんは、1979年に来日。MAFGAには多言語相談スタッフとして2009年から関わっています。
「日本に来た頃は、日本での韓国のイメージがあまりにも自分の思いとは違い、ショックを受けました。やがて、ソウルオリンピックやワールドカップの共催、韓国ドラマのブームなどで、ぐんと親しみを持ってもらえるようにはなりましたが、それまでの辛い自分の経験から、もっとみんなが生きやすくなれば…と思い、今も多文化が共生する社会をあきらめずに活動をしています。『誰にも私と同じ思いはしてほしくない』ということです。
「でも実は、外国人に限らず、日本人でも何らかの疎外感を感じていたり、孤独な人はいますよね?そんな人たちにも、心地よい居場所になれば…と思っています。ランチ営業の終わりには、全員で賄いを食べますが、みんな嬉しいことも悲しかったことも、日本語で胸の内を話してくれるんです。ここが居場所になったと感じる時ですね。同じ境遇の人とも知り合うことができますし、『ひとりじゃない』と思ってもらえたら、それでいいんですよ。例えば、ここを卒業して就職したとしても、うまくいっている時には忘れてくれていいんです。ちょっとしんどい時に思い出して、顔を出してくれれば、それで…(笑)。あるシェフが『ここは外国人たちの実家のようなところ』と言ってくれたのですが、まさにその通りだと思います。」
おいしいご飯を食べながら、胸の内を打ち明けたり、受け止めたり、時にはぶつかり合う…それは、まさに実家。いつでも帰ることのできる場所があるのは、誰にとっても心強いもの。多文化を持つ人にとって大切な居場所である、この「実家」が、あらゆる場所に増えれば、共生への道が拓けていくに違いありません。
エンパワメントの促進には、まずは居場所が大切だと改めて気づかされました。
〒562-0032 大阪府箕面市小野原西5-2-36 箕面市多文化交流センター 1F
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E-Mail:comcafe(at)mafga.or.jp
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