「誰もが安心して働ける、優しくてシンプルな社会に」QUONチョコレート代表 夏目浩次さんインタビュー

カルチャー

 QUONチョコレート代表 夏目さん

2023.02.12

「街角のチョコレート専門店。QUONチョコレート。」 俳優宮本信子さんの語りで始まる映画「チョコレートな人々」。実は、この映画は夏目浩次さん率いるQUONチョコレートとその前身であるのパン屋を含めた20年のドキュメンタリーです。 現在全国57店舗での販売に加え、バレンタインイベントでも全国のデパートで人気を博しているQUONチョコレートの挑戦と、夏目さんの思い描く社会、ここで働く人たちのお話を伺いました。

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QUONチョコレート代表 夏目浩次さん

夏目さん出典:quon-choco.com

2003年、愛知県豊橋市で障がい者雇用を積極的に進め、それまでの低い工賃からの脱却を目的とするパン工房(花園パン工房ラ・バルカ)を開業。2014年QUONチョコレートを立ち上げ、わずか5年で全国33拠点に拡大。
「全ての人々がかっこよく輝ける社会」を目標に、様々な企業へ経営参画し企業連携・事業開発や、障がい者の雇用、就労促進に取り組んでいる。

障がい者の賃金の低さを知り、愕然

よしのぶさん出典:tokaidoc.com障害の種類、程度に合った作業を、それぞれが担っています。

QUONチョコレートの活動のルーツは、夏目さんが学生時代にバリアフリー建築を学んだことにあります。障がい者の福祉事業所で得られる賃金の少なさを知り、一念発起。「どうしてこんなに理不尽なことになっているんだ。」と、社会の制度に違和感を覚え、障がい者をスタッフとして迎えてパン屋を開業しました。スタッフには精一杯の給料を支払いながらも、カード会社に借金の日々…そんな中、ショコラティエの野口和男さんと出会い、チョコレート専門店へ転身しました。

温めれば何度でもやり直せる。

QUONチョコレート出典:tokaidoc.comQUONチョコレート本店は愛知県豊橋駅より徒歩7分ほど。
全国に57もの店舗をを持つ人気ブランドにまで成長!

売れ残りは廃棄処分となり、コツの必要な工程や、やけどなどの危険もある上に、設備にもお金がかかるパン屋事業。今から思えばリスクの多さが目に付きますが、当時は障がい者雇用と言えばパン屋がスタンダード化されていた時代。ところが、チョコレートは野口シェフの言葉を借りれば「良い材料を使って正しく作れば、誰でもおいしいチョコレートを作ることができる。」ため、「工程を細分化してひとりの分担を少なく軽く」すれば、多くの障がい者と共に働ける環境を作れる、という大きな利点がありました。

とかせば温めれば何度もでもやり直せるのがチョコレートの強みです。

そして、もう1つチョコレートが優れていたところは「温めて溶かせば、何度でもやり直せる」ということ。以来、成型を失敗したチョコレートだけではなく、悩みを持った若者や、生活状況の厳しいシングルペアレント、性的マイノリティーを持つ人たちも、ここで心を温められて「やり直す」きっかけを得ているそうです。

過去の苦い経験を課題にしてきた20年

クオンシェさまざまなプロフィールを持つ人たちが働くQUONチョコレート。
この日の厨房ではクオンシェ(フィナンシェ)の仕上げの工程が進んでいました。

「実は、パン屋をやっている時に障がいの特性などを理由に仕事を一緒にできなくなって、辞めてもらった人もいて…その時、自分では『仕方ないんだ』と、どこか未熟な自分を正当化していたところもあったけれど、やっぱりどうしても申し訳なかったな、っていう思いもずっとあって…」そう、夏目さんは吐露しはじめました。

夏目さん「障がい者支援という言葉自体がそもそも好きじゃない。〇〇支援って謎の上から目線じゃないですか?」と夏目さん。
そのフラットな目線の先には、今後の社会が変わるべき姿がある。

「実際のところ、当時僕にもっと力があれば、こんなことにはならなかったんです。そんな経験があったからこそ、今、重度の障がいを持つ人たち向けに、箱を組み立てたり、材料を刻んだり、お茶を挽いたりという細かな作業を担う場所(パウダーラボ)を作れたと思っています。」
過去の経験を「仕方がなかった」と通り過ぎず、ずっと「申し訳なかった」と思い続けていたからこその施設の実現は、そこで働く人々とそのご家族にとって生活が一歩進むきっかけとなりました。

パウダーラボパウダーラボと呼ばれる施設では、重度障害を持つスタッフをバディさんと呼び、
多くのバディさんの手で、材料を切ったり測ったり、箱を組み立てたり…という
多くの作業が担われている。

「障がい者雇用という言葉さえしんどいですよ。なぜ同じ人間を特別な言葉でカテゴライズするんだろう…この人はできる、あの人はできない…そんなに区分けしなくてもいいんじゃないか、と。」現在の活動について、夏目さんは「決して無理なことをやろうとしているのではない。」と言葉に力を込めます。
それぞれ誰もが自分ができる仕事をして、そしてそこに賃金が付いてくる、という当たり前のことをやろうとしているだけなんです。そんなシンプルな世の中を実現したいだけです。単純なことなのに、どうして誰もわかってくれないんだろう…と。」
お話を聞いていると「いかに現実が当たり前でないのか」と言う気付きと「ではどうすれば?」という課題が胸をよぎります。

ただ「やさしさ」で人が向き合えれば…

クオンシェ心を込めて1つ1つ仕上げられたお菓子は、人々を幸せにする。
だからこそ、誰もが自分に合った作業を生き生きと担えて、
それにふさわしい賃金を得られるのが、本来の社会のあるべき姿…のはず!

人間って、本当に極めてやさしい動物だと思うんです。人が人を難しくして、人が社会を複雑にしているだけで。特別なウルトラCみたいな難易度の高いスキルやシステムを持ってこなくても、ただ『やさしさ』で人と人が向き合えれば、それでいいんじゃないかと。もっとお互いの『今』を認め合って言葉を掛け合わせて、やさしさを掛け合わせていけばいいのに…と思うんです。決して難しいことではないはずなんですよ。」
シンプルなことが実現しない理不尽な社会を突破するには、誰もがお互いを「自分と同じ人間だ」と認め合い、尊重しあえることが必要です。

健常者にもある、凸と凹

チョコレートな人々出典:tokaidoc.comさまざまな凸と凹を組み合わせて、おいしく、やさしく、あたたかく。

障がいを持つ人々だけでなく、QUONチョコレートにはさまざまな人たちが働いています。先にも挙げた、悩みを持つ若者や小学生を持つシングルペアレント、性的マイノリティを持つ人、先天性の疾患があり大卒後も内定がもらえなかった人、度重なる転職で自己肯定感が下がり自分を見失いそうになっていた人など…就職や社会において生きづらい毎日を送っていた人たちが、仕事に誇りを持ちやりがいを見出しています。

1番を取りたい!

新作この日はバレンタインの新作の試作が行われていました。
温度や時間とチョコレートのご機嫌を調整する難しい作業です。

名古屋高島屋で開催されている「アムール・デュ・ショコラ」にて「1番を取ること」を目標にしている、と話す夏目さん。チョコレートブランドとしてもビーントゥバーの製作やカカオ農家とのコラボなどさまざまな成長を遂げていますが、
「チョコレートそのものも会社組織としても、まだまだ今の状態では満足していません。とにかくこれからもずっともがいて、どうしてわかってくれないんだろう?という社会への気持ちを雇用システムを構築することや、おいしいチョコレートを作ることで表現していきたいと思っています。」と、まだまだ目指すもの、手に入れたいもの、作り上げたいものでいっぱいの様子。今後のQUONチョコレートの新商品や夏目さんの活動に期待が膨らむばかりです。

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著者

みやむらけいこ

みやむらけいこ

ライター歴20年。「あなたに逢いに行きます」取材ではなく出会い、インタビューではなく会話。わかりやすい言葉で丁寧に「ひと」を伝えます。好きなものは、サーフィンと歌舞伎、主食はチョコレート。#人生はチョコレート

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