麻生久美子さんインタビュー
映画『高野豆腐店の春』は、お豆腐屋さんを営む高野辰雄(藤竜也)と娘の春(麻生久美子)、父娘の物語。ご近所さんとのコミカルで温かい交流や、辰雄と春、それぞれの新たな出会いを描いた作品です。父親思いのやさしい娘の春役に麻生さんはピッタリ! この作品の裏側と麻生さんのライフスタイルについてインタビューしました。
―映画『高野豆腐店の春』は、お豆腐屋さんを営む父と娘の不器用だけど心温かくなるとてもいいお話でした。お豆腐がとても美味しそうでしたが、役作りで取材はされたのですか?
麻生久美子さん(以下、麻生さん):実際にお豆腐屋さんのお仕事を見せていただき、お豆腐作りの工程も体験しました。大きなお鍋はとても重く、体力勝負の仕事だと思いました。
お豆腐を切るシーンがあり、実際にやってみたのですが、お水がすごく冷たいんです! これまで触ったお水でいちばん冷たかったと思います。でもお豆腐を持っているので水から手を出せず、冷た過ぎて手がちぎれるかと思いました。
―美味しいお豆腐誕生の裏には、そんな苦労があるんですね。
麻生さん:でも、この映画でお豆腐に触れて、お豆腐の好みが変わりました。最初の顔合わせのときに三原光尋監督から手作りのお豆腐をいただいたのですが、それが「今まで食べてきたお豆腐ってなんだったんだろう」と思うほど美味しかったんです。
私はこれまで、美味しいお豆腐は絹のお豆腐だと思っていて、絹豆腐しか食べなかったのですが、木綿豆腐の美味しさに目覚めました。にがりだけで丁寧に作り上げた木綿豆腐は、大豆の味が濃くて美味しいんです。それ以来、お豆腐を買うときは木綿一択です。原材料もしっかりチェックして、にがりだけで作ったものを選ぶようになりました。
癒しのルーティーンはカフェオレ
―お店ではお豆腐屋さんのお父さんとふたり暮らしで、頑固な父娘らしいすれ違いもどこか微笑ましく、共感度が高かったのですが、ああいう親子の姿はご自身と重なる部分はありましたか?
麻生さん:私はお父さんと暮らしていなかったので「お父さんとの暮らしはこんな感じなんだ」と疑似体験ができました。お父さん役の藤竜也さんを見ながら、そんな風に想像できて、私にとってはちょっといい時間でした。
―そうなのですね。お父さんと豆乳を飲むのが親子のルーティーンのようになっていて、ふたりが築いてきた時間を感じさせるいいシーンでした。麻生さんはルーティーンにしていることはありますか?
麻生さん:朝、カフェラテを飲むことです。豆を挽くところから始まり、好きなお店のコーヒー豆、お気に入りの牛乳、好きなカップでいただきます。それが私にとってのルーティーンであり癒しの時間です。
不安症を解消するためにポジティブ思考に
―麻生さんが演じた春は、仕事も生活も人間関係もとても丁寧で前向きに捉えて過ごしている印象があります。麻生さんは日々の暮らしで大切にしていることはありますか?
麻生さん:何事も悪い方に考えず、できるだけポジティブな思考にすることです。例えば体調がイマイチなときは気圧のせいにしたり(笑)。そうすれば自分の気持ちが楽になりますから。
―確かに。体調がすぐれないのはなぜなのかとモンモンを考えるより、気圧のせいにすれば楽ですね。しょうがないなあと思えますから。
麻生さん:いま健康であること、生きていることが幸せと考えると、小さなことが気にならなくなります。当たり前のように生活しているけど、それは幸せなことで決して当たり前じゃないと思うんです。
子どものことも、健康で毎日元気に過ごしていることがありがたいと思えば、多少のことは目を瞑れます。ときどき、カーッとしちゃうこともありますけど(笑)。やっぱり病気になったら心配ですし、元気ならOKという気持ちを常に胸に置いています。
―そんな風に達観できるようになったきっかけはありますか?
麻生さん:私は不安症なんです。もしこんなことが起こったら、どうしようと不安になりがちなので、そうではない現実に感謝することで、不安を回避しているのかも。現実に起こっていないことに不安になるなんて損ですから、ポジティブに考えています。
ご近所付き合いが大好き!
―この映画は春さんたち親子と商店街のご近所さんのお付き合いが密ですよね。春さんもお見合いの話を持ちかけられ、どんどん話が進んで行くシーンがコミカルに描かれています。最近は薄くなりがちなご近所付き合い。映画のようなご近所関係をどう思いますか?
麻生さん:私はご近所付き合い大好きなんです。都心に暮らしているとそういう関係がなくなっていくと聞きますが、私は両隣さんと仲良しです。
子どもの年齢は違うのですが、幼稚園が一緒の方とは、子供とキャンプ行ったり、ご飯食べに行ったり。あとお互いの子どもを預けたり、預かったりということもあります。もうひとつの家族の方とは、採れたてのお野菜をくださったり、私からお土産を差し上げたりという物々交換みたいなことをして(笑)、仲良くさせていただいています。
やっぱりご近所付き合いがあると、ホッとします。だから映画のご近所さんとの交流もいいですよね。近所に頼れる方がいると安心できます。
働くママの時間のやりくりは大変
―saita読者は働くお母さんも多いんですが、麻生さんも働きながら子育てもしていますよね。時間のやりくりはどうされていますか?
麻生さん:やりくりできていないです。子育てって本当に大変で、正直、仕事より大変だと思います。学校の予定や習い事のスケジュールを組んだりして、マネージャーみたいです(笑)。時間が足りないといつも思っていますが、完璧にやろうとしないことも大事かなと思います。
例えば、プリントの締め切りはまだ先だから明日でもいいなとか、 洗濯物を畳むのは後にしてとか、自分の体調や状況を見て、そのときの優先順位で生活を回していく感じです。
でも子どもたちが寝たら自分の時間!のはずが、一緒に寝ちゃったりして(笑)。そんな毎日です。
―やはりどこかで力を抜かないと辛くなってしまいますよね。子育てで大切にしていることはありますか?
麻生さん:子どもに対して嘘をつかないことです。お母さんも人間ですから、しんどいなと思うこともあります。そういうときは子どものわがままに対して、いまは無理だよと正直に言います。
それから「今日はちょっと疲れているから、これをお願いしてもいいかな」と言うと、お手伝いしてくれます。親と子ども、お互いに思いやりを持って接していきたいですね。子育てはひとりで抱え込まず、周囲にも頼った方がいいと思います。
ファスティングでデトックスして健康をキープ
―女優のお仕事は体力勝負の一面もありますが、健康面で気をつけていることはありますか?
麻生さん:食べ物は気をつけています。食材だけでなく、食べる時間やメニューも考えていますし、アレルギー体質なので、症状がでているとき、体が重いなと感じたときに、ファスティングをしています。ファスティングの後は、ごはんがとても美味しいし、食事に感謝ができるんです。その感覚もファスティングならではで好きですね。
―ファスティングの効果とはどのようなものですか?
麻生さん:デトックス効果で、私の場合は、体が軽く体調が良くなりますし、アレルギー症状も軽くなってきます。肌もキレイになりますね。私としては「たまには体を労わろう」という気持ちでやっています。
―美容で気をつけていることはありますか?
麻生さん:クレンジング、洗顔、スキンケア、すべて肌をこすらないこと。よくクレンジングをつけて指で肌をくるくるしますが、そういうことはせず、スキンケアアイテムを肌につけて押すだけ。刺激を与えないようにしています。人によると思いますが、私の場合はその方がいい状態をキープできるみたいです。
試写を見て、ちょっと泣けました
―最後に完成した映画を観た感想とおすすめポイントを教えてください。
麻生さん:芸達者な役者さんがたくさん出演しているので、脚本を読んだときより厚みが増して、面白い映画になったと思います。最後はちょっと泣けました。
春のお父さんは周りに心配してくれる人や頼れる人がいるけど、私がその年齢になったとき、どうなっているかな、周りに支えたい人、支えてくれる人はいるかしら……と、そんなことも考えました。
この映画は私くらいの年代から上の方にぜひ観てほしいです。もちろん全世代が見てもわかる心がほっこりするストーリーですが、私世代の人やお父さん世代の人の方が、より共感が深いのではないかと思います。
麻生久美子(あそう・くみこ)プロフィール
1978年6月17日生まれ。千葉県出身。1998年、今村昌平監督作『カンゾー先生』でヒロインに抜擢されて注目を集め、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞など多数の映画賞を受賞。その後、ドラマ『時効警察』(2006〜/テレビ朝日)でも話題に。その他の出演作は映画『夕凪の街 桜の国』(2007)『モテキ』(2011)『マスカレード・ナイト』(2022)。近作はドラマ『unknown』(2023/テレビ朝日)ほか。
『高野豆腐店の春』(2023年8月18日より公開)
尾道で高野豆腐店を営む、高野辰雄(藤達也)と娘の春(麻生久美子)。辰雄は以前から心臓の病を患っており、出戻りの春が心配で仕方がありません。近所の仲間に、春の再婚相手を探してほしいとお願いをしますが、事態は思いがけない方向に……。
監督:三原光尋
配給:東京テアトル
公式サイト:『高野豆腐店の春』
取材・文:斎藤 香
撮影:髙橋明宏
ヘアメイク:ナライユミ
スタイリスト:井阪恵