傷つく子ども、自覚がない親
カウンセリングで親子双方の話を聞いていると、親が悪気なく言っている言葉や態度が子どもを傷つけているときがあります。
例えば、子どもから聞く話によると
うちの母親は昔から私のことを見下してて、たくさん傷つけられてきたんです。私とほぼ同い年のスケート選手をすごく応援してて、テレビにでる度に「すごいね、親孝行だね」と言ってくる。テストで良い点をとって見せたときも「あなたにしては上出来じゃない」とか嫌味っぽく言うんです。
一方、親から話を聞くと
子どもが私の何に怒ってるかわからないんです。子どもと同世代のスケートの子の話をして怒ってくるときも。私はただ何かを一生懸命頑張る姿が、娘の成長にも重なって「すごいね」と言ってるだけなのに。ちゃんと褒めてもいるんですよ。親である自分は子どもの頃、全然成績がよくなかったから「(わが子としては)上出来だな」って思って。
こんな風に、親には親の考えや悪気のない気持ちをもって子どもに接していても、子どもがネガティブに受け取り傷ついているケースは多いです。
どんな関わりが子どもを傷つけ、どんな関わりであれば子どもにまっすぐ愛情を伝えられるのでしょうか。
親と子どものコミュニケーションがズレる理由
思春期は、自分のルックスが気になり、眉毛の一本一本、前髪の些細な揺らぎまで気にかかる年ごろ。
大人になる過程の中で、自分は何に価値をおいているのか、他人は何を評価するのか、そういうところに目が向き、内面も繊細で過敏になっていくんです。
しかしいざ大人になると、様々な人と付き合いながら、業務や組織のため自身の考えに折り合いをつけざるをえないときも生じてきます。
さらに子どもができると、自身の気持ちや願望を上手に諦められるようにもなるでしょう。大人になり、親となっていく中で、思春期に抱いていたような繊細さは徐々に薄れやすくなるんです。
10代の子どもと関わる時期には、自分がかつて気にしていたような言葉の機微や必要以上の配慮を忘れてしまうのです。
そんな中で「今の若い子って気楽でいいわね」「あの子同い年なのにすごいね。親孝行だね。」など、無神経な発言をしたり皮肉を交えた軽口を叩きがちに。
まずは、10代の子の心の繊細さを頭に留めておく、数十年前自身が通ってきた道を思い出すことが歩み寄りの一歩となりそうです。
「今時の子は難しいから…」親子は理解しえないもの?
大人になり、「まあいっか」と思うのが上手になってくると、自分に対しても甘くなる方は多いです。「自分が嫌い」という感覚も自分と付き合う年数が長くなってくると、かつてより薄くなってくるのが一般的。
そんな中顔を出してくるのが、”親自身が、その親に言われてきた口癖やされてきた態度”です。
親子は不思議なもので、ふとしたときにぞっとするほど、親に似ている自分に気づいたりします。また逆に、わが子をよくよく見てみると、かつての自分にそっくりな怒り方やすね方をしてるのに気づくときも。
そんなとき、親子のループを繰り返したり、「今時の子は難しい」と投げやるのではなく、新しいループを作っていくのが肝心です。
自分はどう接してほしかったか、どんな言葉を求めていたか。その振り返りの中に、子どもとの関わりのヒントが見えてきます。
先に例を挙げた親子には、「親の考えをそのまま伝える」ところに鍵がありました。
「親御さんの思いを省略せず、そのまま伝えてもよいかもしれない」と私が助言したら、その親御さんは後日こんな風に話してくれたんです。
「この選手を見てると、何度転んでも立ち上がって練習していた小さい頃のあなたを思い出す」と子どもに伝えたら、「こんなすごい選手と一緒なわけないじゃん。親バカすぎ」と、照れくさそうに笑ってました。また、テストの結果を持ってきたとき「親の私と違って、あなたはすごいね」と伝えると「お母さんの方が仕事も家事も頑張ってすごいじゃん」となぜだか褒められたんです。
もちろん、この例のように一筋縄にコミュニケーションがうまくいくときばかりではないでしょう。
ただ、繊細な時期にある子だからこそ、本音を十二分に伝え、言葉を選び丁寧に会話することが親子両者の成長に繋がるのではないでしょうか。
*記事内のエピソードは実話を基にして一部改変しています。