10人に1人が経験のある自傷行為
自傷行為やリストカットと聞くと、いわゆる「病んでいる子」や「メンヘラの子」が行うイメージがあるかもしれません。
ですが実際は、優秀な成績を収めている子や部活や行事で活躍しているような「優等生」や「陽キャ」の子にも身近なものです。
約10人に1人が刃物などで自分の身体を傷つけたことがあるという統計もあります。時期としては、中学生・高校生から始める子が半数以上を占めています。
もし、わが子が自分を傷つけているとしたら、親としてはどのように対応していくのがよいのでしょうか。
自傷の捉え方と対応について、考えていきます。
タブーにされがちな「自傷」、よくある誤解について
死のうと思ってやっているんだよね?
リストカットと聞くと、「死にたい」と思っているようなイメージがあるかもしれません。たしかに、そう思っている子も少なくないのが現状。
しかし自分を傷つける行為そのものは、死ぬために行っているのではなく、生きるために行っているともいいます。
一見矛盾を感じるかもしれませんが、自傷は「辛い気持ちをどうにかしようとするための対処法」となっているんですね。
「鎮痛薬」、「鎮静剤」ともいえるのかもしれません。
誰しも痛みを感じているときや強い刺激を受けているとき、思考が一旦停止したり、普段通りには考えられなくなりますよね。
すごく辛いものを食べているときや、転んで足に激痛が走っているとき、それまで悩んでいたことが一旦頭から消えたような経験はありませんか?
辛さに耐えきれないとき、その苦しみからなんとか逃れる術として、自傷を選択しているといえるんです。
なので、「死なないで!」と止めるような対応は、「わかってないなぁ」と感じられてしまうかもしれません。
ただやはり、繰り返されると浅い傷では済まなくなったり、他の方法を試そうとする子もいます。
「死」と短絡的に繋げるのではなく、迂回した先に「死」がある行為と捉える必要があるのではないでしょうか。
気をひきたくてやってるんでしょ?
自傷の意味を理解できず、「気をひきたくてやってるんじゃないの?」と考える方もいます。
ですが多くの場合は間違いで、他の人からの反応を求めてやっているわけではありません。
「構ってほしいんでしょ」などの考えで接することは、本人を傷つけるものであり、不適切といえます。
無視したり、軽視したりするのではなく、「どんな辛さが自傷に向かわせているのか」「自傷の背景にあるものは何か」に目を向けていく必要があります。
今すぐにやめさせたい!
身近な人やわが子の大切な身体の傷を見逃せないと感じる方は多いでしょう。
実際、カッターナイフを取り合う親子や、いたちごっこのように刃物を隠し、そのたびに買う親子もいます。
「あなたの身体は傷つけられるべきものではない」と伝えるうえでは、大切なやり取りともいえます。
ただ、刃物がなければ解決するかといわれると、そうではありません。
周囲のメッセージを押し付けて干渉しても、傷の背景にある「心の傷」は深まるばかり。
説得する、感情的に訴えるのではなく、まずは本人の気持ちを聞くのが大切です。
もちろん、「なんでも話してみて」と聞いてすぐに解決するものではありません。
「どんな関わり方であれば本音に近づけそうか」「何がこの子を傷つけているのか」を考えていく必要があるでしょう。
ただ可視化しているだけ
リストカットの経験がある子から、こんな話を聞いたことがあります。
「はたから見たら痛々しく見えるのかもしれないけど、私からしてみれば心の傷を可視化しているだけ。自分の中にある傷なんてこんなもんじゃない。」
目の前にある傷だけを見て慌てるのではなく、その内側にある深い痛みに目を向ける必要があるのだと教えてくれたんだと思います。
どんな痛みが可視化されているのか。本当の意味で目を向けていけるといいですよね。
参考文献:松本俊彦『自分を傷つけずにはいられない―その理解と対応のヒントー』