教えてくれたのは……島田直英(しまだ なおひで)先生

精神科医・総合診療医・漢方医。不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック副院長。島根大学医学部医学科卒業後、大田市立病院総合診療科、島根大学医学部附属病院総合診療科等を経て、2025年に同クリニックにて副院長に就任。飯島院長に医学生時代より師事し不登校・不定愁訴診療の極意を学ぶ。精神科単科病院にも在籍。
発達障害のグレーゾーンとは?
発達障害のグレーゾーンと聞いても、イメージが湧かない人も多いかもしれません。島田先生に詳しく教えていただきました。
島田先生「グレーゾーンとは、発達障害の特性はいくつか見られるものの、診断基準を完全には満たさない状態を指す臨床的な表現であり、医学的な診断名ではありません。特性の現れ方が軽度であったり、一部の基準にしか当てはまらなかったりするため、診断はつかないけれど、日常生活や社会生活において、コミュニケーションの取りにくさや仕事でのミスなど、“生きづらさ”を感じている方が多いのが現状です。」
周囲に誤解されやすく、孤立しやすい現状
グレーゾーンの場合は、困っていても周囲からは問題なくこなしているように見えるため、気づかれにくいことがあるようです。
島田先生「グレーゾーンの方は、診断がつかないために公的な福祉サービスや職場での合理的配慮の対象になりにくく、孤立しやすい傾向があります。周囲からは“気にしすぎ”“努力不足”などと誤解され、対人関係で深く傷ついたり、仕事が長続きしなかったりすることがあります。その結果、“自分はどこにも属せない”という疎外感や、自分を責めてしまうことによって、うつ病や不安障害といった二次障害につながるリスクもあります。」
周囲からは困っていないように見えるからこそ、本人の苦しみが理解されにくい——。それが「グレーゾーン」の難しさでもあります。
子どもの場合は学校としっかり連携を
発達障害やグレーゾーンの子どもが、不登校という形で悩みを抱えることもあります。その背景には、どんなことが考えられるのでしょうか?
島田先生「発達障害やグレーゾーンの子どもにとって、学校は感覚刺激が過剰であったり、臨機応変な対人関係が求められたりと、ストレスの多い環境であることが少なくありません。感覚過敏による教室の騒音への苦痛、コミュニケーションの難しさから生じる孤立やいじめ、学習面での困難などが重なると、学校に行くこと自体が大きな負担や恐怖となることがあります。
不登校は、そうした過剰なストレスから心身を守るための“防衛反応”と理解することが重要です。中には、すでにうつ病や不安障害といった二次障害を併発している可能性もあるため、早めに医療機関に相談し、学校と連携していくことが望ましいでしょう。」
診断を受けることで生きづらさが軽減されることも
不登校や日常生活で強い生きづらさを感じると、「診断を受けるべきかどうか」で迷う人は少なくありません。診断を受けることによるメリットとデメリットを教えていただきました。
島田先生「診断を受けることには、メリットとデメリットの両面があります。メリットとしては、長年の生きづらさの原因がわかり、自分を客観的に理解することで安心感や自己肯定感の回復につながること。また、障害者手帳を取得することで福祉サービスを利用できたり、職場や学校で合理的配慮を求めやすくなったりします。一方で、診断名がついたことによる心理的ショックや、“障がい者”というレッテル(スティグマ)に苦しむ可能性もあります。ただし、発達障害による症状を薬や心理療法などでコントロールできるようになると、生きづらさが軽減される方も多くいらっしゃいます。まずは専門家の評価を受けてみることをおすすめします。」
グレーゾーンは「診断されていないから問題ない」ということではありません。発達障害のグレーゾーンかどうかは、本人や家族だけで判断するのは難しいもの。ひとりで抱え込まず、専門家や支援につながることで安心につながることもあります。次回は「大人の発達障害」についてご紹介します。
 
                         
                            




 
                                         
                                         
                                         
                         
                         
                         
                         
                        