教えてくれたのは……島田直英(しまだ なおひで)先生

精神科医・総合診療医・漢方医。不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック副院長。島根大学医学部医学科卒業後、大田市立病院総合診療科、島根大学医学部附属病院総合診療科等を経て、2025年に同クリニックにて副院長に就任。飯島院長に医学生時代より師事し不登校・不定愁訴診療の極意を学ぶ。精神科単科病院にも在籍。
大人になってから気づく人が多い理由
島田先生によると、子どもの頃には気づかなかったけれど、大人になってから「発達障害かもしれない」と思う人が増えているようです。では、どのようなきっかけで気づく人が多いのでしょうか?
島田先生「近年、大人になってから発達障害に気づき、診断を受ける方は非常に増えています。子どもの頃は、親や先生のサポートがあり、集団生活のルールも単純だったため、特性が目立たないことがあります。しかし、就職、結婚、昇進、子育てといったライフステージの変化に伴い、求められる対人スキルや自己管理能力が高度化することで、特性による困りごとが目立ち、『自分は何か違うのではないか』と気づく方が多いのです。」
診断と理解の変化で、大人の発達障害が注目されるように
昔と今では発達障害の診断や理解のされ方が大きく変わったと聞きます。そうした変化によって、大人の発達障害が増えていると考えられるのでしょうか?
島田先生 「かつては自閉症や多動性障害は子どもの精神疾患と捉えられていましたが、現在では生涯にわたる脳機能の特性であるという理解が広まっています。また、2013年の診断基準(DSM-5)の改訂で、アスペルガー症候群などが“自閉スペクトラム症(ASD)”の概念に統合されました。これにより、個々の特性の多様性がより重視され、社会全体の認知度も向上しました。」
つまり、大人が発達障害と診断されることは珍しいことではなくなり、社会全体でも理解が進みつつあると言えます。
環境によって特性の現れ方が変わる
置かれた環境によって、発達障害の“特性の現れ方”は変わるのでしょうか?
島田先生 「環境は非常に重要な要素です。発達障害の特性の現れ方は、本人の生物学的な要因と環境要因の相互作用で決まります。たとえば、音や光の刺激が多い騒がしい職場では集中できずミスを繰り返してしまう人が、静かで個別の空間が確保された環境では、高い集中力を発揮して優れた成果を出すことがあります。本人の特性に合った環境調整を行うことで、困難さが軽減され、本人が格段に楽になるケースも多くあります。
また、組織においては“心理的安全性”(自分の意見や感情を安心して表現できる状態)を確保することが非常に重要です。発達障害のある方は『怒られるかもしれない』『またうまくいかなかったらどうしよう』という強い緊張感や不安に支配されていることが多くあります。しかし、心理的安全性が保たれた環境では、失敗を恐れずに本来の実力を発揮できる人が多いのです。
また、発達障害の有無にかかわらず、心理的安全性が確保された環境のほうが業務効率が上がりやすいことが報告されています。配慮することは決して組織にマイナスではなく、組織全体の能力向上にもつながるのです。」
特性を「強み」に変える視点を
発達障害というと「苦手さ」に注目されがちですが、視点を変えることで強みとして発揮される場面もあるようです。
島田先生 「『ニューロダイバーシティ(脳の多様性)』という考え方が重要です。これは、発達障害を“欠点”や“治すべき病気”ではなく、脳機能の自然な“多様性”のひとつとして捉える視点です。たとえば、ASDのこだわりは探究心や集中力の高さにつながり、ADHDの多動性は行動力や好奇心の旺盛さといった強みに結びつくことがあります。まずは本人と周囲がその特性を正しく理解し、弱点を補う工夫をしながら、その特性が活かせる環境や役割を見つけていくことが大切です。」
大人の発達障害では、自分の特性を理解することが、支援につながるきっかけになる場合があります。特性を理解し、環境を整えることが、自分らしく生きる第一歩です。発達障害を弱みではなく、脳の多様性のひとつとして受けとめることで、安心して力を発揮できる場が広がるでしょう。次回は「家族が発達障害かもしれないとき、家族にできること」についてご紹介します。




