栗しごと、梅しごと…「季節のしごと」が心から楽しくなった、本当の理由。

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保存食の"すごいところ"

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実はわたしも、今年は梅を漬けた。コロナ禍でできた自由時間に手作りを楽しむ友人たちに遅れを取らじと、生まれて初めての梅干しに挑戦してみたのだ。味噌も仕込んだし、梅ジュースも赤じそジュースも作った。新生姜の佃煮も、ジンジャーエールも、レモンの砂糖漬けも、ブルーベリージャムも、ジェノベーゼソースも。心当たりの保存食を、今年は片っ端から作っていった。

あらためて感心した保存食のすごいところは「頑張ったしごと」を長く楽しめることだ。すぐに食べ終わってしまう料理とは違い、形がしばらく残る。自粛生活中、作っても作ってもすぐになくなるごはんづくりのエンドレスループに疲れた身には、季節の味を鮮やかに切り取る保存食はとても魅力的に映った。瓶に入れた色鮮やかな赤じそジュースやスパイスと一緒に砂糖漬けにした生姜は、「わたし、これだけのものをわざわざ作ったんだよ」と見るたびに幸せな気持ちにしてくれる。どうしても必要な日々のごはんと違って、絶対に必要なわけでもないものをあえて作った、というところが何とも満足度が高いのだ。

ここ数年、時間が経つのがとにかく早く感じる。今年のコロナ禍以降は特に早い。特別なにをしてるわけでもないのにあっという間に1週間、1ヶ月が経ってしまう。自粛生活に入った頃にはまだ冬の名残があったはずなのに、いつの間にか春が過ぎ夏も過ぎ去ってしまった。怖い怖い。50歳も近くなってくると、こうしたひと春、ひと夏も大切なのに。気づくと滑り落ちるように過ぎていく時間の端っこをなんとかつかまえたいという気持ちが、にわか保存食ブームのもうひとつの理由でもある。

面倒に見えた保存食も、いざやってみると、ちょっと煮るだけとか、塩に漬けるだけとか、砂糖に漬けるだけとか、あっけないほど簡単だった。でも、そのほんの少しの作業なのに、慌ただしいときには試すことすらできなかったんだなと今になると不思議にさえ思う。

大人になって初めて、季節の移り変わりを感じることができた

思えば、子どもたちが小さいころは忙しすぎたよ。仕事は慌ただしく、子育ては慣れないことばかり。ひっきりなしに「ママ、ねえねえ、ママ」と呼ばれ、息をつくヒマもない。洗濯が、給食服のアイロンが、学校の提出物が、お風呂の支度が……と家事が追いかけてくる。もう晩ごはんの時間だ、明日のお弁当は……と食事が迫ってくる。大好きだった料理も、こなすべき義務となりわたしをせきたてるものになっていた。

ところがふと気がつくと、いつの間にか子どもたちは少し成長していた。おまけに今年はコロナ禍で否応なしに仕事が減り、わたしの気持ちにほんの少し余裕が生まれた。大人になって初めて、季節の移り変わりをしっかりと感じることができたのだ。そしてそれは、想像以上の充実感をもたらしてくれた。

先日、夫が実家から栗を持ち帰った。ああ、すっかり秋になっちゃったなあと思いながら、皮むきをするべく栗を水につける。栗の皮はかたくて包丁を入れるのが怖いし、むいているとすぐに指が痛くなる、じつはとっても苦手な作業だ。でも思い切って栗カッターを買ったら鬼皮むきは驚くほど楽になった。そこで普通の皮むきは諦めて鬼皮だけをむくことにし、全て渋皮煮にしようと決めたら、栗しごともだんぜん気楽なものに変わった。

こうして無理せずに楽しめる季節しごとの方法を見つける。日々の慌ただしい暮らしでもふと立ち止まり、ひと呼吸おいて、来月、来年のために季節の味を残す。こんなゆとりを持てるのが「おばあちゃん」なのだとしたら、いっそおばあちゃんになる準備を早めにしてもいいかなあとすらいま考えている。

 

 

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第1回:48歳、子育て卒業を目前にした時短料理研究家が「おかあさんやめてみた」をやってみた話
第2回:コロナ禍、食糧難を想定して子どもたちと買い物ゲームをしてみた話。

 

 

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プロフィール:田内しょうこ
「働くママの時短おさんどん料理」「育休復帰のためのキッチンづくり」「忙しいワーキングマザーのための料理」「子育て料理」をテーマに、書籍や雑誌、ウェブサイトで発信。出張教室やセミナーのほか、食と子育て関連の情報発信を行う。著書に『時短料理のきほん』(草思社)、『働くおうちの親子ごはん』(英治出版)、『「今日も、ごはん作らなきゃ」のため息がふっとぶ本』(主婦の友)などがある。
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著者

田内しょうこ

田内しょうこ

「働くママの時短おさんどん料理」「育休復帰のためのキッチンづくり」「忙しいワーキングマザーのための料理」「子育て料理」をテーマに、書籍や雑誌、ウェブサイトで発信。出張教室やセミナーのほか、食と子育て関連の情報発信を行う。著書に『時短料理のきほん』(草思社)、『働くおうちの親子ごはん』(英治出版)、『「今日も、ごはん作らなきゃ」のため息がふっとぶ本』(主婦の友)などがある。

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