お話を伺ったのは……ボーク重子さん
Shigeko Bork BYBS Coaching LLC 代表、ICF会員ライフコーチ。『非認知能力の育て方(小学館)』『子育て後に何もない私にならない30のルール(文藝春秋)』など多数。新著『しなさいと言わない子育て(サンマーク出版)』も話題。
習い事の目的は、主体性とやり抜く力を身につけること
――『しなさいと言わない子育て』の帯にある「習い事は2つまで」という言葉に衝撃を受けたパパ、ママは多いと思いますが、なぜ2つまでなのでしょうか。
発売前、編集者の方から「習い事は2つまで」と帯に入れると聞いて驚きました。なぜ、こんな当たり前のことを帯に入れるの? って。そしたら日本では2つ以上習い事をしている子が多いと聞いて、私はそちらのほうが衝撃でした。習い事を5つも6つもやっていると逆効果でしかないというリサーチもあるんです。子どもたちは、学校に行くだけでも大変なのに、帰ってからも多くの予定があると、こなすだけになって考える暇もなく、楽しむこともできなくなってしまいます。
――習い事は、楽しむというよりも必要なことを身につけるためというイメージでした。
ここにいる人の中で、小さい頃にやっていたお稽古が今の仕事になっている人っている? 役立っていると思うことある?
――……。一人もいませんね(笑)。
でしょ?(笑)。この質問をすると、役立っていると答える人って本当に少ないの。習い事をする目的って、その子のパッションを見つけるため。主体性や、やり抜く力を身につけるため。ただこなすだけなら、学校の勉強をこなすだけで十分じゃないかと思うんです。
よく、「ピアノをやらせたいんだけどやりたがらず、練習をいやがるんですけど、どうしたらいいですか?」と相談されるけど、やめちゃって大丈夫、と答えています。やりたくないことを無理やりさせるより、その子が本当にやりたいと思うことを見つける手伝いをするほうがよっぽど意味があるからです。
自分の限界を知ることが大事
――子どもが自ら「やりたい!」ということを2つに絞るほうが効果的なんですね。
やりたいからこそ進んでやるし、上手になりたいと思う。うまくいかなかったら、どうやったらうまくなるんだろうと自分で考えて練習する。やりたいと思って何かをはじめたとき、子どもは初めて主体性が発揮されるんです。褒められるから、叱られるからじゃなくて、やりたいからやる。習い事を「しなさい」で決めると、好奇心を育む余裕は生まれないし、こなすだけの日々の中で身体が疲れてしまったら、心も疲れちゃう。本当に良いことがないんです。
――もし、本人がやりたいと言った場合は3つでもいいんですか?
わが家は、本人がやりたいと言っても2つ以内にしていました。やりたいことを全部やらせることが、その子にとって良いこととは限りません。本当にやりたいことを絞るのは優先順位を学ぶ機会になるんです。大人だってやりたいことはいっぱいあるけど、それをやみくもにやっても結果は出ないという経験をしているはずなので、限られた時間で今できることは何かを考えて、結果を出していくことも大切なことなんです。
――優先順位を学ぶ。確かに、なんでもできるということが当たり前になるのはよくないですね。
それに、やりたいことを全部やるとリソースが分散されてしまうんです。体力も気力も、それにお金だって限りがあるのに、分散されると1つ1つが先細りになってしまう。やっても結果がでなかったらモチベーションは上がらないし、自己肯定感、自己効力感も育ちません。自分の限界を知るということはすごく大事だし、自分の中で何が大事なのかを考える力を身につけるためにも、2つまでというのがベストだと思います。
習い事でなくても、子どもの経験値を高めることはできる
――習い事をたくさんしているのは、選択肢を与えてあげたいという親心だと思うのですが、子どもがやりたいと思うことを見つけるためには何をしたらいいのでしょうか?
子どもの経験値を上げてあげるということは大事です。でもその際には体験コースに参加するとか、期間限定のものに参加してみるとか、最小単位で参加するところから始めたら良いと思います。
それに、習い事以外にも子どもの経験値を積むことはできるんですよ。それは、親以外の大人と触れ合う時間を作るということ。私はギャラリーの仕事をしていたときに、アーティストやコレクターたちと娘のスカイをよく会わせていました。先方がOKと言ってくれたときだけだけど、そこでスカイにはいろんな世界を見る経験をさせました。
親以外の大人と出会うというのはすごく大事。いろんな生き方、親とは違う大人の生き方を見て学ぶこともあるんです。それに、お金がかからないの(笑)。どれだけお金をかけずに経験させるかも重要だと思います。親って一生守れるわけじゃないから、その子が自分で自分を守れるように育てなきゃいけない。そのためにはどれだけいろんなことを経験できたかなんですよね。
――子どもにいろいろな経験をさせるというのは、習い事以外にもいろいろあるんですね。
そうよ! それに、子どもだって暇だなぁと思うくらいの余白がないとダメ。大人もそうでしょ? 家事、育児、仕事で忙しいと余裕がなくなる。何もしない時間って絶対必要なんです。私は、TODOリストが大嫌い。リストを作っても、その中から自分じゃなきゃ絶対できない、家庭生活が成り立たないというものを1つ2つだけ残したら、あとは×にしちゃう。ちょっとくらいホコリがたまっていたって死ぬわけじゃないし(笑)。そのくらいの余裕がないとね。
家族揃って何かをする機会を
――子どもの英会話の習い事についてはどう思いますか?
帰国子女は、成田に着いた瞬間に忘却がはじまると言われていて、どんなに英語がペラペラだったとしても、1年間何もしなかったら英語を忘れてしまうんですって。そして残るのは発音だけ。1週間に30分英会話を学んでも、日常的に使わなければ身につきません。本当に英会話をやらせたいなら、家族みんなで毎日5分英語を話したほうがずっと意味があります。
――毎日家族で5分間英会話をするほうが、英語が身につくんですか?
そうです。話せるようになるにはどうすればいいかみんなで考えるから、上達のスピードも早まります。みんなでやるから楽しいし、それに子どものほうが確実に早く身につけるので、親より早く上達することで自己効力感も高まるから良いことづくし!
お金も浮くし、送迎の時間も浮くし、家族みんなでやるってすごく楽しいでしょ? 毎日続けることで親の自制心も育まれるし、家族のチームワークを作るのにもとっても良い。家族揃ってやることを作るのはすごく良いことです。
――重子さんのご家族が、3人揃ってやってきたことってありますか?
わが家は、必ず3人で夕飯を食べると決めていました。その時間はテレビも音楽も消して、その日にあったことや、その日のテーマについて話をするんです。今でもスカイが帰ってきたときはそうしています。スマホもテーブルの上に置かないし、娘が友達とご飯に行くときでも、私と夫が食事をしているところに一緒に座って話をします。あと、夏休みは一緒に過ごします。スカイと夫が、父と娘二人で過ごす時間も多いんですよ。
これまで、子どもにとって良かれと思ってやってきたことが、実は子どもの日々をただ忙しくしていたなんて! という発見があったお話でした。習い事の数を2つに絞るというのはとても難しそうに感じますが、優先順位が身につくということを前提にお子さんの意見を聞いてみるのはすごくよさそうですよね! 次回もお楽しみに。
【ボーク重子さんインタビュー連載】
第1回:「待てない親」になっていませんか?子どもの“自己肯定感が下がる親の言葉”とは
第2回:「宿題をやりなさい」ではいつまでもやるようにならない。子どもが自ら動く“コーチング的子育て”のコツ
第3回:(当記事)子どもの習い事は2つまで!?子どもにたくさん習い事をさせている親が知るべき“習い事の本当の目的”
第4回:“わが子を他の子と比較すること自体は問題ではない”子どもの自己肯定感を下げないための「親のマインド」
第5回:50代って最高。年齢を重ねることが楽しくなる「自分らしい人生を作るための9つのキーワード」