教えてくれたのは……藤井崇博(ふじいたかひろ)先生
医学博士、循環器内科専門医。
専門領域は循環器内科で、2021年までの約10年間大学病院、関連病院で臨床、研究、教育に従事。最近では循環器疾患含む内科外来の他にも、SNSやその他コラムなどでの健康に有益な情報の発信にも力を入れている。
「果物そのものを食べる」VS「果物ジュース」栄養の違いは?
健康や美容のためにビタミンを補給しようと、100%の果物ジュースを飲むことを朝のルーティンにしていませんか? 藤井先生によると、「市販のジュースでは果物そのものの栄養を摂るのは難しい」そうです。それは、なぜなのでしょうか? 理由を教えていただきました。
藤井先生「前回の記事でご紹介したような、健康によい野菜・果物の素晴らしい効果は、ジュースにした途端、打ち消されてしまうという悲しい現実があります。
その原因の一つは食物繊維が失われてしまうことです。野菜や果物に含まれる食物繊維には、健康を維持する多彩な働きがあります。
しかし果物はジュースに加工されると、なんと食物繊維の80%が失われると言われています。そのまま食べれば糖分の吸収を和らげるのに、ジュースにした途端、吸収効率が高まってしまい、食後の血糖値上昇につながります。
果物を丸ごと食べた場合と果物ジュースとで糖尿病の発症リスクを比較すると、果物ジュースでは糖尿病の発症リスクが8%上昇すると報告されています。1週間で3杯程度、つまり1日に換算すればコップ半杯という少量でも糖尿病のリスクが上がってしまうのです。
食物は、炭水化物なら3時間ほどかけてゆっくりと消化されます。ところが、ジュースのように液体になると消化の必要がなく、胃から一気に腸に入って吸収されます。すると、血糖値が急上昇する→血管の内皮が傷つく→やがて血管が硬くなる、といった流れになり、動脈硬化の原因となります。
菓子やケーキ類をはじめ、炭水化物を多く含むものはもちろん血糖値を上昇させますが、それでも消化に数時間はかかるので吸収が遅くなります。しかし、ジュースのように液体であると、たとえそれより少ない糖質摂取量であっても、血糖値を急上昇させることになるのです。」
「1日分の野菜使用」は、摂取できる栄養量のことではない
藤井先生「野菜ジュースのみを検討した大規模な論文は、今のところ発表されていません。ただ、果物でも野菜でも、ジュースとして摂る場合は、適量にとどめることが大切です。摂りすぎは、糖の過剰摂取につながります。
野菜ジュースに関しては、例えば『1日分の野菜使用』と記載しているものは、1日分の野菜が摂れるわけではなく、1日分の野菜を使ったという意味です。
市販の野菜ジュースは加熱処理をしているので、野菜本来のビタミンや食物繊維を摂取することは難しく、元々の栄養素は減っています。パッケージに『1日分のビタミンCが摂れる』と記載されている場合は、ほとんどが添加された栄養素です。
食物繊維も添加すれば摂取することができます。添加によって野菜と同じ栄養価を摂れる、ということです。しかし、野菜と同じ栄養素として野菜不足を補うことはできるかもしれませんが、野菜を食べる代用にはなりません。
ジュースでは噛むという行為がないので、吸収にも影響が出ると思われます。野菜ジュースに含まれる栄養素がどの程度体に吸収されるのかは正確にはわかっていませんが、確かなことは、摂りすぎると血糖値が急上昇したり、病気のリスクを高めたりするということです。
果物や野菜ジュースは、みなさんが『体にいいから』と信じて飲んでいることが問題だと考えます。
もしも『時間がないから』『野菜や果物が嫌いだから』という理由であれば、ほんの少量でもよいので、ジュースなどの液体からではなく、食材そのものを食べるのがおすすめです。
ゆっくり噛んで食べると、ゆっくり体に吸収されます。食材そのものには食物繊維も多く含まれているため、血糖値の急上昇につながりにくいですし、そのほかにも健康や美容へのたくさんのメリットが期待できると言えるでしょう。」
果物や野菜ジュースを飲んでいたら栄養が摂れて安心、というわけではなく、あくまでも食事での不足分を“補うもの”として捉えるのが大切だということがわかりました。できる限り、食材そのものをよく噛んで食べるように心がけられたらいいですね!