教えてくれたのは……藤井崇博(ふじいたかひろ)先生
医学博士、循環器内科専門医。
専門領域は循環器内科で、2021年までの約10年間大学病院、関連病院で臨床、研究、教育に従事。
最近では循環器疾患含む内科外来の他にも、SNSやその他コラムなどでの健康に有益な情報の発信にも力を入れている。
栄養価が高いスーパーフード「納豆」
健康食品の代表ともいえる「納豆」。身体のことを考えて、意識して毎日食べている方も多いと思います。食べることで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
藤井先生「納豆にはさまざまな栄養素が含まれており、納豆キナーゼ、大豆イソフラボン、γ-ポリグルタミン酸、ビタミンK などの必須栄養素や生理活性化合物(生命活動や生理機能の維持および調節にかかわる化学物質)が含まれています。
納豆を適量食べることで、血中コレステロール値の改善や、動脈硬化・心臓病・高血圧の予防、骨の成長の促進、腸内の細菌バランスの制御、便秘の予防、免疫力の向上、脂肪の減少など数多くのメリットがあります。
良質なタンパク質、脂質(多価不飽和脂肪酸)も含まれていて栄養価が非常に高いので、いわゆるスーパーフードと呼ばれています。」
納豆の食べ過ぎはNG!知っておきたいデメリットとは
健康によいのなら、たくさん食べようと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、藤井先生は「食べ過ぎは、身体によくない影響を与えることも考えられます」と、おっしゃいます。
藤井先生「大豆イソフラボンや大豆ベースの食品の摂取量が多いと、閉経前の女性において、子宮筋腫のリスク増加と関連していると報告されています。
女性ホルモンと似た構造を持つ植物エストロゲンであるイソフラボンは、大豆ベースの食品に豊富に含まれており、過剰な大豆イソフラボンは、エストロゲン受容体に結合して子宮筋腫のリスクとなっているのです。」
食べ過ぎによって起こりうる2つのリスク
1.子宮筋腫
藤井先生「納豆(大豆)を食べ過ぎることによって起こりうる病気として、論文等で報告されているのは子宮筋腫という婦人科腫瘍です。
イソフラボンはその構造が女性ホルモンであるエストロゲンとよく似ているために、体内で女性ホルモンのような働きをします。その働きにより女性更年期障害の緩和には有効とされる反面、子宮筋腫など婦人科腫瘍の発生にも関わると考えられています。
子宮筋腫の治療としては、(1)薬物療法(鎮痛剤またはホルモン剤)、(2)外科的手術(腹腔鏡下手術または開腹手術)があげられます。治療は病変の場所や大きさ、症状に加え、患者さんが今後妊娠を希望するか、年齢などを総合的に考慮し決定します。」
2.腹痛、吐き気
藤井先生「納豆菌は腸内でも生命力を発揮するので、通常なら悪玉菌を減らし、腸内環境を整えて整腸します。しかし、食べ過ぎることによって腸内環境の納豆菌が増え過ぎて、腹痛や吐き気を招くこともあります。
腹痛、吐き気に対してはまず、その原因が納豆(大豆)の食べ過ぎ以外である可能性を否定するために、症状が続く場合は医療機関をすみやかに受診し精査することをおすすめします。
腹痛、吐き気の明らかな原因が見つからない場合には納豆の食べる量を少なくしたり、一度やめてみたりすると症状が改善する場合があります。納豆を含む大豆食品が腹痛、嘔吐の原因になることは頻度的には少ないので、ほかの疾患の可能性を常に考えることが大切になります。」
理想的な摂取量の目安
では、1日どれくらいの量を摂取するのが理想的なのでしょうか?
藤井先生「大豆製品の摂取目安量については、厚生労働省「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」の中に定義されています。
1日の大豆の摂取目安量は100gなので、納豆だけで換算すると2パックに相当します。頻度は毎日食べても大丈夫です。」
ほかの大豆製品を摂らない場合においては、納豆は1日2パックまでに留めておくとよいのですね!
「豆腐」も同じように食べ過ぎには注意
藤井先生によると、「豆腐」も納豆と同様に、食べ過ぎることで子宮筋腫や腹痛、嘔気のリスクを抱える可能性があるとのこと。不調を招かないよう、適量を心がけるのが大切です。
豆腐を適量を食べることで得られるメリットについても、教えていただきました。
藤井先生「豆腐にはさまざまな栄養素が含まれていますが、その中で下記の3つの栄養素をご紹介します。
1.リノール酸:狭心症や心筋梗塞などの心疾患、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患およびメタボリックシンドローム、2型糖尿病の新規発症の発生率を低下させる効果が報告されています。
2.レシチン:動脈硬化を抑制することで狭心症などの心疾患や脳梗塞などの脳血管疾患の予防する効果が報告されています。
3.イソフラボン:生活習慣病である、高血圧、2型糖尿病、脂質異常症などの発症抑制効果。また、脂肪の体への蓄積を少なくすることで肥満の予防、便通の改善、血栓の予防など。さらに、女性の更年期障害の症状緩和などの効果が報告されています。
1日の摂取目安量は100gなので、豆腐のみを食べる場合は1/2〜1/3丁が目安で、これ以上摂ると食べ過ぎになるおそれがあります。」
いくら身体によいからといっても、特定の食品に頼りすぎるとリスクを伴う可能性があることがわかりました。さまざまな食品をバランスよく取り入れて、日々の健康維持に役立ててみてはいかがでしょうか。
参考:
1)Muhammad Afzaal et al.Nutritional Health Perspective of Natto: A
Critical Review
Biochem Res Int. 2022;5863887.
2)Hao Qin et al,High soy isoflavone or soy-based food intake during
infancy and in adulthood is associated with an increased risk of uterine
fibroids in premenopausal women: a meta-analysis Nutrition Research
Volume 71, November 2019, 30-42