お話を伺ったのは…原田隆史さん
株式会社原田教育研究所 代表取締役社長。
大阪市生まれ。奈良教育大学卒業後、大阪市内の公立中学校で20年間勤務。課題を抱える教育現場を次々と立て直し、「生活指導の神様」と呼ばれる。独自の育成手法「原田メソッド」により、勤務3校目で指導した陸上競技部では7年間で13回の日本一を誕生させる。これまでに約600社、15万人以上のビジネスパーソンを指導し、オリンピック選手などアスリートのメンタルトレーニングにも携わる。
著書はこれまでに31冊、国内にとどまらず世界の25を超える国・地域で出版されている。
「目標達成メソッド」開発者
メジャーリーガーに金メダリストなど、名だたるアスリートを始め、大手企業が人材育成のためにこぞって採用する「目標達成ノート」「オープンウィンドウ64」の開発者が原田隆史さん。元中学校教員という経歴に親しみを覚え、思春期世代の子どもたちへの「親からの声かけ」の極意を教わろうとお話を伺った。
多数の企業やアスリートが採用しているメソッドを中高生向けに再編されたのが、この「中高生のための目標達成ノート」。今日から、今からすぐ使える即戦力メソッドがグッと詰まったこの1冊に、きっと心が揺さぶられる人が多いに違いない。
大切なのは「4つの承認」
まずは、思春期・反抗期の子どもたちにどのような声かけ、見守りをすればいいのかを伺った。
「大人、子どもを問わず、トータルで“足りていないな”と感じるのが承認です。言い方を変えると、人々にとって“これさえあれば元気になれる!”というものがやっぱり承認なんです。
例えばサッカーの試合に3対2で勝てば結果が出たということで、結果承認ができますよね。これはわかりやすい。では、負けたらどうでしょう? 結果承認は得られません。
でも2点は取れているんです。試合には負けたけど2点取れたよね! というのがプロセス承認。3つめが成長承認。相手が強くてなかなか勝てなくても、1点も入れられなかった時期から考えたら成長したよね! というのを認めてあげてほしい。最後は存在承認。これは存在そのものを認めるということ。外国人は『生まれて来てくれてありがとう』と誕生日に親が子に言いますが、日本人はあまり言わない。でもこれが1番大切。前向きに物事に取り組むには、この4つの承認がとても大切なんです。」
親世代が「承認」下手な理由とは?
企業研修でも「結果こそが承認を得られるもの」として捉えられているため、プロセス・成長・存在、そして結果という4つの承認が存在することを伝えると、場の空気が変わるのだとか。この状況を原田さんは「結果ではなく『できたこと』を認めてあげることが1番です。日本中みんな承認不足。全く足りていません。」と力を込めて仰った。
加えて「今の中高生の親世代は4つの承認を受けて育っていません。『結果』だけを承認されて育ってきましたから、実のところなかなか難しい。」と言葉を続ける。
「昭和の時代は工業化社会で正確に早くものを作り出せる人が優秀とされていました。これは管理型教育、管理マネジメントという方法です。いいものをミスなく作り上げることができたため、車などの工業製品が世界で認められて日本は成長してきました。この時代は結果承認の時代でした。工業製品を数多く作るには、ひとりひとりが個性を伸ばす……ではなく、正確に早く作業できる人間が必要だったからです。でも、時代が変わって新しいものを生み出したり、問題解決ができる思考力を身に着けるには、今までの教育では厳しいということになって、学習指導要領が変更されました。」
“親の立場”からつい子どもを指導してしまうのは時代遅れ、世の中にマッチしないということだ。
原田さんは「だって今は、考えなくても正解は検索すれば出てくる世の中でしょう? もう早く正確に……は、人がやらなくても良くなったんです。必要なのは、新しい発想や問題解決する手段を考えられる人。そのために教育が変わったんです。」
ため息と目からウロコが落ちる、の繰り返しが止まらない。時代が変わる、世の中が変わる、教育が変わるってこういうことだったんだ。
子どもの自主性を育てるコミュニケーション
では、その古い管理型教育で育ってきた親たちが、どうすれば令和の時代にマッチした声かけができるのかと尋ねてみた。
「色々気になることはあっても何も言わず、まずは『どうしたの?』って聞いてみてください。何か様子が違うとか困っていそうだと親が分かっていても敢えて言わずに、とにかく『どうしたの?』と聞くんです。」
問いかけ三段活用
この問いかけは三段活用になっていて、まずは「どうしたの?」と聞いてみるといいらしい。
「2番目の問いかけは『どうしたいの?』です。うまくいかないとか、困りごとがあれば言うかもしれない。先回りをせず聞いてみてください。そして最後の3番目。大人は、ついこうしたらいい、ああすればどう? と答えやアドバイスを入れがちですが、それはせずにこう言ってください。『何か手伝えることある?』と。」
原田さん曰く、先生や親は『いい大人だ』と思われたくて、つい答えやアドバイスを言ってしまう。しかし、敢えて我慢して何も言わない方がいい。最後に『何か手伝えることあるかな?』と大人が聞くと何らかの動きが子どもの中で始まるとのこと。答えを探すのではなく、自分で考えて発想を生み出せるようになるには、この動きが必要。
管理型から協働型へ、社会は変化を遂げ、そこへ飛び出していく子どもたち。その子どもたちを育てる親の感覚が、依然として管理型のまま追い付いていないようだ。
存在承認と愛情あふれる家庭が育んだメソッド
「社会の基盤を作るのは子どもたち」そう語る原田さんに、最後にご自身の子どもの頃のお話をお聞きした。
「僕は夜尿症、対人恐怖症、赤面症。ところが親は僕のことを『家が明るくなる、面白い!』と存在を認めいつも褒めてくれて、おねしょをしても全く怒らなかった。『心配しなくてもそのうち治る』『わざとじゃないからね』と愛情を注入されてきたんです。それが大きな存在承認となりました。」
今のお姿からは想像できない幼少期の話に驚きつつも、存在承認の偉大さを思い知り、子育てをやり直したい! と叫んでしまった。いや、今からでも遅くはないか……先回りせず我慢して「どうしたの? どうしたいの? 私に何か手伝えることある?」そう20代の我が子たちにも声かけをして、自分で自分の成長を承認していくことにしよう。
【中高生のための目標達成ノート】https://d21.co.jp/book/detail/978-4-7993-3125-5