巨匠のひと言で「3日後」から人生が変わった【あなたの街のショコラティエ】

料理・グルメ

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2026.04.25

大好きなチョコレートを探し求める旅。 カカオに魅了されて半世紀のチョコレート愛好家が、「ここでしか出会えない味と時間」を訪ねて、横浜と塩尻へ。 チョコレート界の巨匠ジャン=ポール・エヴァン氏の愛弟子 佐々木拓也シェフが紡ぐ、その歩みと「今」に触れた。

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すべては流れのままに……

横浜そごう

「チョコレートに触ったこともなかったんですよ」

そう言って笑う佐々木拓也シェフは、長野県塩尻でチョコレート専門店を営んでいる。
サッカーに打ち込む少年がパティシエを目指し、偶然の流れでフランスへ渡り、ショコラティエの道へと導かれた。

慌ただしい横浜そごうのイベント会場。この日、佐々木シェフは2021年にオープンさせた「パティスリークルール」から離れ、期間限定のポップアップショップにいた。

フィナンシェを選ぶ女性客に応じながら、語る言葉は、軽やかで飾り気がない。

ポムデセール

巨匠ジャン=ポール・エヴァン氏仕込みのボンボンショコラが自慢。

なかでも出身地塩尻の特産であるワインを使った作品に目がとまった。
りんごのデザートワインをふんだんに使ったポムデセールは、ボトル型のコーティングチョコレート。
中から、とろりとフィリングが溶け出すフルーティな味わいは、他にはない絶妙なバランスだ。

「全て、エヴァンさんに教えてもらったんです。チョコレートのことはホントに全部」

佐々木シェフ

佐々木拓也シェフは1990年生まれ。
サッカーに明け暮れた時間を手放し、「手に職を」と選んだのがパティシエの道だった。
今の仕事にたどり着いた理由を、少し考えるようにしてから、こう続けた。

「なんか、流れのままなんですよね」

運命を変えた「3日後」の約束

パリ出典:www.photo-ac.com

チョコレートの道へ進むきっかけは——ある日、突然やってきた。
製菓専門学校を卒業後、名店「ロオジエ」でフランス人シェフのもと、修業に励んでいた22歳の頃 だ。

ある日「ロオジエ」に食事に訪れたのが、世界的なショコラティエ、ジャン=ポール・エヴァン氏 。
挨拶に行くよう促され、突然「エヴァンさんのところに行く?」 そんな問いかけをされた。さらに、エヴァン氏の夫人から、住む場所などの具体的なサポートについても話が及び、「3日後から働けるように準備をしておいて」と……

「正直、それまでチョコレートを触ったこともなければ、エヴァンさんのこともよく知らなかったんですよ」

と佐々木シェフは屈託なく笑う 。「断る理由がなかったんですよね」
軽やかな決断が、彼をパリへと運んだ。

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巨匠の隣で知った「ひと粒」に宿る職人の誇り

チョコレート出典:www.jph-japon.co.jp

パリでの修行期間は1年7ヶ月。

言葉の壁にぶつかりながらも、頂点に立つエヴァン氏のすぐ傍らで、ガナッシュを練り、ひと粒のショコラが生み出される瞬間に立ち会い続けた。

外観

職人として、クリエイターとして、どうあるべきかという「誇り」を学んだ。

「大量生産で利益を追うより、たとえ規模は小さくても、自分の手が届く範囲で、大切なひと粒を作りたい 」 

お土産物として消費されるのではなく、ひと粒ひと粒が独立した作品であること。それこそが、現在の「パティスリークルール」のスタイルだ。

アロマの感性と「中華料理店」の知恵

アロマテラピー出典:www.photo-ac.com

佐々木シェフの作るチョコレートは、他にはない鮮やかな「香り」が印象的。その秘密は、彼が持つ「アロマテラピー」の資格と、意外なルーツにある 。

「香料は一切使っていません。天然の素材からどう香りを引き出すかをずっと考えています」

彼はラベンダーやハーブの香りを抽出する際、独自の手法を用いる 。

塩尻

ここで活きているのが、「パティスリークルール」の隣で両親が長年営む中華料理店の知恵 。

「どんな油を使えばハーブの香りが浸透しやすいか……父とはそんな話をよくします」

中華料理で愛用される「太白胡麻油」。その扱い方がヒントになったという。
ジャンルを超えた発想から生まれる香りのデザイン。これが佐々木シェフの真骨頂だ。

塩尻のテロワールをクリエイション

チョコレート

ショーケースを見渡すと、土地ならではの作品が並ぶ。 ワインをはじめ、浅間温泉の熱を利用して育てられたバナナ、八幡屋磯五郎七味、そして蕎麦の実 。

「実はあまり甘いものが好きではないんです (笑)」

だからこそ彼は、料理を作るような感覚で素材を組み合せ、さまざまなトライを柔軟に繰り返す。

チョコレート

「地元の素材だから、という理由だけでは使わないです」

少し考えてから、言葉を続ける。

「クリエイターとして自分が納得できるか、ですね」

塩尻特産のワインだけではない。ウィスキー、ラベンダーや和紅茶など、さまざまな長野の素材が、彼の感性によって極上のマリアージュを見せる。

再びパリの舞台へ

アムール

2024年、名古屋高島屋の「アムール・デュ・ショコラ」へ初出展した 。

そこにはパリで共に修行した、仲間たちの姿があった。
「お前はどこを目指すんだ?」
再会した仲間にかけられた言葉に心が動いた。

クルール

「今年(2026年)は、またパリに行こうと思って」

6月に渡仏し、10月の「サロン・デュ・ショコラ・パリ」を目指すという 。もちろん、長野の素材を携えて。そう、あの時と同じ流れのままだ。

日常に、ひと粒の「時間」を

チョコレート

「流れのままに」佐々木シェフは今日も、塩尻という土地でしか出会えない味を模索している。

その繊細なひと粒は、ブランドの名の通り私たちの日常を華やかに彩ってくれるに違いない。

◆パティスリークルール(Pâtisserie Couleur)
 オンラインショップ:https://couleur2021.base.ec/
 公式Instagram:https://www.instagram.com/patisserie_couleur/

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著者

みやむらけいこ

みやむらけいこ

ライター・インタビュアー歴20年以上。媒体を問わず取材執筆を行う。現在では自身の主食「チョコレート」や時間やタスク管理だけではなくココロを整える「手帳」、軽やかに生きるための「自分と向き合う方法」、シゴデキ女子や店舗の「密着取材」などをライフワークとして行う。

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