少女漫画のすれ違いから得た教訓
小学生のころ、少女漫画雑誌を読んではラブストーリーに感情移入しまくり、純真無垢な乙女心と過敏すぎる感受性を遺憾なく発揮して涙したりため息をついたりと情緒不安定を満喫していたが、どうしても手放しに心酔できないポイントがあった。
それが男女のすれ違いである。
ヒロインは何かにつけ恋敵に翻弄され、事実を誤認して大きなショックを受ける。そして突然「もういい!」と叫んで拒絶したり、「そんな人だったなんて思わなかった」と唐突に吐き捨てたりして、話し合う間もなくどこかへ走り去ってしまう。大抵は両思いなのにもかかわらず、一方的に決めつけて背を向けてしまうのだ。
まだ恋も知らないほど幼かった私だが、すれ違いシーンを読むたび
「いや、ちゃんと最後まで話聞けよ!!」
と全身全霊でつっこんでいた。
ヒステリックで思い込みの激しい登場人物たちにイライラしまくったおかげで
「好きな相手と下らないことで揉めないように、ちゃんと言いたいことは言って話し合える人間になろう。言わないとおかしなことになる」
と意外とまともな教訓を学び、その後の人間関係に生かすことができた。
こんなに言いたいことも言えない世の中を生きているのは少女漫画のヒロインだけかと思っていたが、意外と現実世界にも少女漫画のヒロインは多々実在した。
人になっても言えない女
20歳だろうが30歳だろうが40歳だろうが、言えない人は言えない。
突然だが、友人A子の彼氏はろくでもない。34歳にもなってろくに貯金もせず、お金がないと言いながら毎日コンビニ飯を食べ、週末はゴルフに興じている。それは個人の自由だとしても「結婚するならもっとお金を貯めてから」とのたまうくせに、A子が「いくら貯めるの?」と聞くと具体的に考えていないようで、途端にもごもごする。そりゃコンビニ食とゴルフがやめられないわけである。
質が悪いのが、彼に悪気がないことだ。別にA子と結婚する気がないわけではなく、いつかしようとは思っているらしい。単純に計画性がないのだ。
しかし、A子に問題がないのかというとそうでもない。
「ねえ、A子はそろそろ結婚したいんでしょ?何歳までに結婚したいとか、いつまでに貯金してほしいとか、そういうことはちゃんと言ったの?」
「ううん、まだ言えてない」
A子が彼氏と付き合い出して2年が経っている。なのに結婚の時期については一度も相談したことがないだと?
「な、なんで?だってA子、すぐにでも結婚したいくらいでしょ?」
「だって変に揉めたら嫌だから。30代でまた別れて新しい人を探して、デートして、付き合って……ってもうめんどうくさいの。そうそう好きな人もできないし、またすぐだれかを好きになれる気もしないし」
「でも結婚はしたいんだよね?」
「うん」
「子どもも欲しいんだよね?」
「うん」
「じゃあ黙って待ってる場合か?」
「うーん」
A子だってわかっているのだ。わかっちゃいるけど言えない、らしい。
自分の人生において「言わない」のは正しい選択か?
「言えない」理由は、大きく
・自分の意見に自信がない
・相手に嫌われたくない
・言っても意味がないと思っている
の3つだと思う。
ただ、どの理由だろうと、言わない理由としてじゅうぶんではない。
言わない理由として成立するのは「自身にとって、言わないほうがメリットがある」場合のみだ。
たとえばA子なら「いつまでに結婚したい」といった希望を伝えないことで、婚期が遅れる、出産適齢期を過ぎて子どもが産めなくなる、といったリスクがある。結婚・出産を人生における理想とするなら、言わないのはかなりのデメリットであり、一刻も早く言うべきだ。
でも、彼と少しでも長くいることを結婚・出産より優先したいのであれば、言わないほうがメリットがある。
つまりは「自分にとってより優先したい、大事なものごとを叶えるには、言ったほうがいいのか、言わないほうがいいのか」と長期的な視点で判断しなければならない。
「嫌われたくない」「自信がない」「どうせわかってもらえない」といった目先の感情だけで判断すると、人生における大事な分岐点を見誤る可能性がある。
私は「言いたいことも言えない人生」「本音を言えない自分」が好きになれないし居心地悪いので、本音を言って嫌われるならそれまで!という心づもりでどうしても言いたいことは言っている。自分を嫌いになるくらいなら、人に嫌われたほうがいい。
A子はついに話し合う決心を固めて週末に会う約束をしていたが、社畜生活を送る彼氏が土日出勤になり「またしばらく会えそうにないから、話せない…」とうつむいた。俄然やきもきして
「いや、そんな悠長に待ち続けてないで、電話で話しなよ!2年も付き合ってるんだから気兼ねなく電話くらいできるだろ!」
と叫んだら、そっか!と言っていたが、どうなったかは知らない。
そりゃあ言わずに待ち続けて思うように人生が進んだら楽だけど、そんなの少女漫画ですらめったに見ない。現実世界を生きる私たちはなおさら、もっと強くしたたかに生きたほうが自分のためだ。