教えてくれたのは……上田泰久(うえだやすひさ)先生
文京学院大学 保健医療技術学部 准教授。理学療法士。横浜新緑総合病院リハビリテーション科を経て、2007年より文京学院大学所属。
「肩こり」「首こり」が起こるのはなぜ?
上田先生「厚生労働省の国民生活基礎調査(※1)で行われた『性別で見た有訴者率の上位5症状』では、有訴者(病気やけがの自覚症状がある人)が訴える症状のうち、肩こりは女性で1番目、男性では2番目に多い症状となっています。つまり、『肩こり』は日本人に最も多い症状のひとつであることは間違いありません。
肩こりを有する方への実態調査では、肩こりを感じる部位として首・肩の背面にこりを訴える方が多いことが報告されています。」
首・肩の背面がこるのは、どういった原因が考えられるのでしょうか?
上田先生「人間の頭の重心は、頭を支える首の支点よりやや前方にあり、常に首が曲がる方向に重力がかかっています。そのため、首・肩の背面にある筋肉が働いて頭部が前へ傾かないように支えています。つまり、スマホ操作やデスクワークの姿勢では、頭部を支えるために首・肩の背面にある筋肉が常に頑張って働き、頭部を支え続けているので、首・肩の背面にこりが出現しやすいと言えるのです。
こちらの図にある『スマートフォンによる頭頸部の負担』のように、頸部の真上に頭部がある場合を0度とすると、頭頸部にかかる負担は約5kgになります。頭部を15度前傾した場合では2.4倍、30度では3.6倍、45度では4.4倍、60度では5.4倍と、頭部を前へ傾けるほど頭頸部にかかる負担は増加します。そのため、頭部を前傾させる姿勢にも注意を払うことが重要です。」
スマートフォンの普及によって、“スマホ首”で悩む方が急増していると耳にすることもありますよね。ついスマートフォンに夢中になり、長時間うつむいた姿勢になっている方は要注意! 気づかない間に頭頸部に負担をかけていることが、肩こりや首こりにつながっている可能性大です。
「肩こり」と「首こり」は分けて考え、ケアするほうが効果的!
肩こりと首こりは、併発している方も少なくないと思いますが、どちらも同じ方法で解消できるのでしょうか?
上田先生「日本整形外科学会では『肩こり』に関与する筋肉として、僧帽筋(そうぼうきん)・頭半棘筋(とうはんきょくきん)・頭頸板状筋(とうけいばんじょうきん)・肩甲挙筋(けんこうきょきん)・菱形筋(りょうけいきん)・棘上筋(きょくじょうきん)を挙げています。この中でも僧帽筋・頭半棘筋・頭頸板状筋・肩甲挙筋は、頭部から肩甲骨近くまで走行している筋になるため、首・肩の背面のこりの両方に関与します。
一般の方にもイメージしやすい僧帽筋は、最も表層にあり、その下の層に頭半棘筋・頭頸板状筋・肩甲挙筋があります。首・肩の背面のこりは両方まとめて『肩こり』とされることが多いですが、肩の背面のこりを『肩こり』、首の背面のこりを『首こり』、と分けて考えた方が効果的なセルフケアが行いやすいと考えて臨床現場で実践しています。
1層目の僧帽筋と2層目の各筋肉を別々に収縮させることが肩こり・首こりの解消につながります。また『首こり』だけに関わる筋肉は、首の付け根にある後頭下筋群(こうとうかきんぐん)という筋肉です。この後頭下筋群は、先ほど紹介した僧帽筋、頭半棘筋のさらに下の層にある3層目の筋肉です。
現代の肩こり治療で主流になっているのが、筋肉を『揉みほぐす』のではなく『動かして剥がす』という方法です。肩や首のこりを持つ人の多くは、これらの層の筋肉が硬く、さらに各層の筋肉が一塊になって動かなくなることも大きな要因と言われています。
筋肉を揉むことにも一定の効果はありますが、こりに関わる筋肉同士が癒着しないよう『動かして剥がす』セルフケアが重要と考えています。」
あらゆる手をつくしても、なかなか肩こり・首こりが改善しない方は、ケアの仕方を変えてみることから始めてみるとよいかもしれませんね!
「肩こり」「首こり」を解消するセルフケアの具体的な方法は、次回の記事でご紹介します。
※1)参考:厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査」
図1 図引用,(一部改変)Hansraj KK: Assessment of stresses in the cervical spine caused by posture and position of the head.Surg Technol Int. 2014 Nov;25:277-9