お話を聞いたのは……ガンプ鈴木さんのお母さま
“人力車の旅人”として世界中を旅しながらSNSの発信を続けるガンプ鈴木さんの母。今まで一度も結婚せず息子を育て上げる。ガンプ鈴木さんの活躍を見守りながら、時に厳しく、的確なアドバイスを送っている。
シングルマザーという選択
――ガンプさんがインタビューで、「おかんはまだ1回も結婚したことがないんですけど、結婚してほしい」とお話しされていました。
そうなんです。私は、24歳のときにシングルマザーとして彼を生みました。当時お付き合いしていた方との間にできた子です。シングルマザーとして産むことにしたのは、結婚願望が全くなかったから。当時はバブル期で、私一人でも十分な収入があったし、女一人でも子どもは育てられるわという気持ちが強かったんです。結婚願望はなかったけど、妊娠がわかったときに、「母になりたい」と思ったので、産むことに迷いはなかったです。
――お付き合いしている方も、その気持ちを尊重してくれたんですか?
私の性格をわかっているので、結婚しようということは言わなかったですね。でも、私の母のところへ行き、「子どもができました。本人は産みたいと言っているので、責任を持って養育します」と話しに行ってくれました。
――しっかり責任を果たしてくれる方だったんですね。それで反対されることもなく?
母自身は離婚しているんですけど、彼が話しに行ったときに、「今までは家族が減るばかりだったけど、増えるならいっか!」と言ってくれました。
――では、籍は入れない事実婚のような形で、ガンプ鈴木さんが生まれたということですね。
そうです。海外では、結婚という形にこだわらずパートナーと子どもを育てるということもありますよね。そんな感じに憧れていたのかもしれません。彼とは、ガンプが小学生になる頃まで、パートナーとして関係が続いていました。生活は別々でしたが、週に何回かは一緒に夕飯を食べたり、旅行に行ったり。
今でも、二人は良い関係性で、帰ってきたら二人で飲みに行き、時には私や私の母も誘ってもらって一緒に食事をすることがあります。
2人で暮らす生活が楽しくて仕方がない
――お母さまとその方のパートナーシップが終わった時のガンプさんの反応はどうでしたか?
彼と別れたとき、「毎日、家に帰ってくるお父さんがほしい」と言って、ベッドの上で泣きながら暴れたことがあります。「誰でも良いから結婚して!」と。小学校に入り、お友達の家に遊びに行ったりするようになって、不思議に思ったんじゃないかなと思うんです。他の子の家には、毎日お父さんがいるって。
でも、あまりそのことについて聞いてきたことはないです。私は、嘘をつく必要はないので、聞いてきたら正直に全部言えば良いと思っていました。
――お父さんが欲しいと言われたときは、どう答えたのですか?
そればかりはどうすることもできないので、「それは無理だよ」と話しました。「私は、あなたと2人で暮らす生活が楽しくて仕方がないから、それはごめんね」と。そう話したら何もいわなかったし、それ以降は一切何も言わないですね。インタビューで私に結婚してほしいと話したのは、きっと私の老後が心配なんだと思います(笑)。
――ガンプさんを育てる上で気をつけていたことや、大切にしていたことを教えてください。
恩着せがましいことは言わないことにしようということと、彼の個性を潰すようなことはしないようにしようと思っていました。
私自身、幼少期に親の顔色を見て過ごしていたようなところがあるので、親の私に対して、何でも言えるような子であってほしいということは意識していました。
子育ての中の一番の思い出は、息子の家出
――お母さまが、ガンプさんを怒るときってどんなときでしたか?
普段はそんなに怒るようなことがなかったので、あまり怒った記憶がないんです。でも、大きな親子ケンカは、節目、節目にありました。中学に上がる前の春休みと、中学から高校に上がるとき。どちらも、彼が調子にのってえらそうにしていたので、どうにかして鼻をへしおってやろうと考えていました(笑)。
――ガンプさんが、家出をして3時間で捕まったことがあるというお話をされていました。
それは、中学に上がる前に親子ケンカをしたときです。スパイクとサッカーボールと貯金箱を持って、間違いだらけの漢字で書かれた置き手紙を残して家出しました。
――初めての家出ですよね? 心配になりませんでしたか?
サッカーのグラウンドにいるだろうということはわかっていたので、数時間してから迎えに行きました。そこは、公共のグラウンドなんです。迎えに行ったら、管理人さんがグラウンドにとんぼをひいてくれていて、息子はスタンドで膝を抱えながら、そのグラウンドを見つめていました。
――家出したならここに行っている! とわかる親の勘ってすごいですよね。
その日は、すごく月明りがきれいな日でした。とんぼで引かれたラインがきれいで、「ほら、見てごらん。あなたがさっきまで練習でぐちゃぐちゃにしたグラウンドを、知らない間にこんなにきれいにしてくれてる人がいるのよ。あなたがサッカーをするために、こうして知らないところで働いてくれている人がたくさんいるの。だから、このグラウンドの景色だけは絶対忘れちゃダメよ」と言ったんです。
そしたら、その瞬間「うわぁーん」と大泣きしながら「ごめんなさい」って。子育ての中で忘れられないことを聞かれたら、この家出はけっこう記憶に残っている思い出だと思います。
「私は、あなたと2人で暮らす生活が楽しくて仕方がない」と子どもに伝えていたお母さまは本当に素敵ですよね。ガンプさんとお母さま、別々にインタビューをしたのに、お二人のお話は自然とリンクします。普段から、コミュニケーションが多いのだろうということが伝わってきました。次回は、ガンプさんが生まれたときのお話をお聞きします。
【ガンプ鈴木さんのお母さまインタビュー連載】
第1回:人力車の旅人ガンプ鈴木さんの“オカン”に聞いた。息子が旅好きになったワケ
第2回:(当記事)忘れられない3時間の家出。お父さんがほしいと言う息子。21歳でシングルマザーを選んだ女性の子育て論
第3回:「常に子どもと全力で楽しんだ」シングルマザーの女性が“子育てで意識していたこと”
第4回:「自分を犠牲にしたと思ったことは一度もない」子育てを終えた女性が語る“人生を楽しむ考え方”