教えてくれたのは……久野 和禎(ひさの かずよし)さん
一般社団法人フィードフォワード協会 代表理事。テンプル大学講師(認知心理学/コーチング)。
「フィードフォワード」という未来志向のコミュニケーション技術を開発し、フォレスト出版より『いつも結果を出す部下に育てるフィードフォワード』を発刊。「世界中のすべての子どもたちにフィードフォワードを無償で届ける」というビジョンのもとでオンラインサロンのメンバーと共に活動を続けている。
子どもの自信を奪う「2つのNG言葉」
受験を目前にして親のほうに余裕がなくなってくると、子どもを問い詰めてプレッシャーをかけてしまうことが増えるかもしれません。
「自信を奪ってしまう言葉は、意外と身近にある」のだと、久野さんはおっしゃいます。親が子どもによく言いがちな2つのワードを教えていただきました。
NG1.「どうしてできないの?」
久野さん「模試やテストで解けない問題があったとき、子どもに『どうしてできないの?』と理由を聞いたり、考えさせたりすることは好ましくありません。一生懸命にやっていても、できないからできないのであって、その理由を聞いても仕方がないからです。どうしてできないかを考えるのではなく、『どうしたらできるか』に目を向けたほうがよいでしょう」
NG2.「〇〇ちゃんは▲▲なのに」
久野さん「『〇〇ちゃんは、こうなのに』など、人と比べることにまったく意味はありません。みなさん頭の中ではわかっているのですが、つい言ってしまうことも多いのではないでしょうか。親が思っている以上に、言葉にすることで失うものはとても大きいと思います。
なぜかというと、自信は自分でもつものなので、人と比べる自信は必要がないからです。人がどうかはわからないけれど『自分はできる』ということが大切なのです。
心理学用語では“セルフ・エフィカシー”というのですが、セルフ・エフィカシーが高い=人との比較が入らないことが条件とされており、人と比較した時点で自己評価が下がるのです。
とはいえ、テストの点数で順位を競争するような場面もありますよね。全体の中の自分の位置づけを把握するのは悪いことではないのですが、その序列の中に自分を置くのではなく、例えば前回の順位から自分がどれだけ上がったのか把握するなど、あくまでも自分が向上していくための目安として考えることが望ましいです」
親は子どもを「大丈夫な存在」として見ることが重要
“受験”という山を乗り越えるときに、子どもにいつもの力を発揮してもらうためには、親はどのようなことを意識するとよいのでしょうか。
久野さん「『どうなっても、あなたはうまくいく』と、絶対的な信頼を子どもに寄せることが大切だと思います。『結果はどうにでもなる』『自分にはできる』と思って臨む状態が、脳と心が安心して力が発揮できるのだと、脳科学や心理学でもわかっています。
親子は今後も長い関係が続いていくものです。受験シーズンだからと限ったことではなく、親が子どもを絶対的に信頼する必要性を再認識するよい機会だと捉えるとよいのではないでしょうか。
“子どもをダメな存在として見るのではなく、大丈夫な存在として見る”。
大丈夫な存在として見ているつもりでも、できていない方も多いので、私自身も含めて気をつけないといけないと思います。『わが子は大丈夫』と信じられるように、親も強くなれるとよいですね」
自信は根拠がないものだからこそ、伝える言葉はシンプルでいい
子どもに自信をもってもらうためには、親の声がけの仕方がポイントになるとのこと。子どもの心の支えになる言葉は下記のとおりです。
1.「きっと大丈夫」
2.「できると思うよ」
3.「ベストを尽くそう」
4.「最後までやりきろう」
5.「粘り強くやろう」
6.「応援しているよ」
久野さん「親が子どもを客観的に見て、無理そうだと思う場面はきっとあると思います。しかし、そのときでも『大丈夫』だと伝えることが必要です。
基本的に、“自信は根拠がないもの”です。根拠は過去からくるものですが、過去にそうであっただけであって、明日が同じとは限らないですよね。『明日ベスト出そう』『できると思うからできる』と、シンプルでよいのです。
もちろんお子さんの性格にもよるので、思い詰めてしまったり、焦ったりしているお子さんには上記のような声がけでよいと思いますが、楽観的なお子さんには『ちゃんと足元を見よう』と伝える必要もあります」
最後に、受験前によく見られる場面での適切な声がけをご紹介します。
子どもが緊張しているとき
久野さん「緊張していたら『緊張するよね、わかるよ』『それが普通だよ』と、子どもの状態に共感してあげることが大切です。もっているものを本番に出しきるだけなので、『始まったら大丈夫だから、心配しないで思いきりやろう』と、子どもが積み重ねてきたものをいかに当日に出しきれるのかを一緒に考えてあげるとよいと思います」
複数の試験を控えていて、試験初日の手ごたえがなかったとき
久野さん「私自身も経験がありますが、できたと思っていたのに通らなかった、その反対に厳しかったと思っていたら通ったこともあります。本人の思い込みの可能性も高いので、うまくいかなかったところを掘り下げても仕方がありません。『そう思っているだけかもしれない』『失敗は次に活かそう』など、次にどうするかを考えるような、気持ちを切り替える手助けができたらよいと思います」
子どもに自信をもって試験本番に臨んでもらうためにも、親の声がけひとつが大切なのですね。久野さんに教えていただいたポイントを意識すると、親子がよりよい関係に変わっていけるのではないでしょうか。