教えてくれたのは……加藤大也院長
糖尿病専門医・総合内科専門医・甲状腺専門医、医学博士。藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業後、同大学院医学研究科内分泌・代謝内科学修了。同大学医学部内分泌・代謝内科助手、JA愛知厚生連豊田厚生病院内分泌代謝内科病棟部長などを経て2022年5月、たいや内科クリニックを開院。
「発汗・不眠=更年期の症状」とはかぎらない
40代以降は、女性にとってからだの不調を抱えやすい時期だといわれています。たとえば、いま次のようなことに困っている方はいるでしょうか?
- 疲労感
- 動悸
- 手が震える
- 過度の発汗
- 不眠
こうした状態は、更年期によって引き起こることが知られています。しかし、「こうした症状がある=更年期である」とはかぎりません。ふだんはあまり耳にしない「ある部位」が原因であるケースもあります。
「女性、とくに40代以降の女性は、『甲状腺』の病気にとくに注意が必要です」と解説するのは、愛知県豊田市にある「たいや内科クリニック」の加藤大也院長。
甲状腺とは、首の下部中央、いわゆる“のどぼとけ”の下あたりにある、重さ10〜20グラムの小さな臓器です。
蝶の羽のような形をしているこの臓器は、甲状腺ホルモンを作り、全身の代謝を調整する役割を果たしています。
加藤院長 「甲状腺の病気の多くは自己免疫疾患です。本来はウイルスなどの病原体からからだを守るはずの免疫系が、甲状腺を攻撃して、さまざまな不調を引き起こします。こうした自己免疫反応が女性に多く起こる理由はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的・環境的・ライフスタイルの要因が関与していると考えられています」
加藤院長 「女性ホルモンのひとつであるエストロゲンは、甲状腺ホルモンの活動を刺激します。そして、月経・妊娠・授乳・更年期といったライフステージの変化にともなってエストロゲンのレベルが変化することにより、甲状腺の病気のリスクが高まるのです」
40代女性が注意したい甲状腺の病気とは
甲状腺の病気として代表的なのが、「橋本病」と「バセドウ病」。それぞれ次のような特徴があると加藤院長は解説します。
橋本病
- 甲状腺ホルモンの分泌が不足する状態を引き起こす自己免疫疾患
- 20〜40代の女性に多く見られる
- 「からだがだるい」「寒がりになる」「からだが冷える」「忘れっぽくなった」「体重が増えた」「声がかすれる・肌が乾燥する」「便秘ぎみ」「髪が薄くなる」などの症状があらわれる
- 治療には主に甲状腺ホルモンの補充療法が用いられる
バセドウ病
- 甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態を引き起こす自己免疫疾患
- 20〜40代の女性が多く発症する
- 「人より暑がり」「汗をたくさんかく」「動悸や息切れを感じる」「イライラして落ち着かない」「よく食べているのに体重が減っている」「手足が震える」「首が腫れている」「目が出てきて目つきがきつくなった」「疲れやすくなった」などの症状があらわれる
- 治療法としては、抗甲状腺薬による甲状腺ホルモンの生産を抑える治療、放射性ヨウ素による甲状腺組織の一部を破壊する治療、必要に応じて甲状腺を外科的に切除する治療の3つがある
加藤院長 「橋本病やバセドウ病の症状は、更年期障害や自律神経失調症による症状と類似していて、勘違いしやすい点に注意が必要です。自宅でのセルフチェックとしては、首の前面にある甲状腺の腫れを目で見て、手で触って確認すること。このセルフチェックを習慣化して、いつもより腫れているなど異常を感じたら、早めに医療機関を受診しましょう」
セルフチェックを日々の習慣に
バセドウ病と橋本病は決してめずらしい病気ではなく、成人女性の10人に1人が橋本病というデータもあります※。現在は、それぞれの治療法や自己管理のノウハウも確立しています。
※参考:一般社団法人日本内分泌学会ホームページより
加藤院長 「橋本病の自己管理としては、栄養バランスの良い食事、定期的な運動、ストレスの管理が重要です。ヨウ素を含む食品(海藻類など)の摂取量に注意することが推奨されることもあります」
加藤院長 「一方、バセドウ病は、十分な休息をとる、ストレスを軽減することが大切です。橋本病もバセドウ病も、生活習慣の見直しと、医師の指示のもと定期的な血液検査でホルモンレベルをチェックして、適切な治療を続けることが大切です」
からだの変化にはふだんから注意しておきたいものですが、首元にある「甲状腺」にも、意識を向けていきたいですね。スキンケアやメイクアップのときなど、毎日の生活にセルフチェックをうまく取り入れていきましょう!