教えてくれたのは……整形外科医・歌島大輔先生
フリーランス整形外科医として、常に磨き上げ続けている肩関節鏡手術スキルを駆使し、五十肩・腱板断裂などを対象に治療を行っている。また、情報発信ドクターとしての顔も持ち、「正しい医学情報をわかりやすく」をモットーに、情報発信・オンライン教育事業を積極的に展開している。YouTubeチャンネルすごいエビデンス治療 | 整形外科医 歌島大輔でも活躍中。
「背中の痛み」はつかみどころがないことが多い
今回は背中の痛みの中でも、特に右肩甲骨あたりの痛みの原因をお届けします。
背中の痛みは、ずっと同じ場所がピンポイントで痛い人もいますが、多くの場合、痛みが移動したり、出たり消えたりして、つかみどころがないことが多いです。
それゆえ悩ましいのですが、さらに悩ましいのが、背中の奥には大切な臓器、内臓がたくさんあり、命に関わる最初のサインが「背中の痛み」として現れることがあります。
今回は、背中の痛みをTOP5でご紹介します。(医学論文を交えつつ、歌島先生が独断と偏見でつけたランキングです)
5位 膵臓(すいぞう)
・膵(すい)がん
可能性は決して高くありませんが、重い話をすると、膵臓(すいぞう)の中でも膵(すい)がんです。膵(すい)がんは、症状が出にくく、見つかったときにはステージが進んでしまって、治療が難しいことが多い病気です。それを裏付ける以下のような研究もあります。
背中の痛みがある膵がんは予後つまり、生存率や生存期間がよくない
【参考論文】 G J Ridder, et al. Scand J Gastroenterol. 1995 Back pain in patients with ductal pancreatic cancer. Its impact on resectability and prognosis after resection
上記の内容が示すのは、背中の痛みが出るほどに膵がんが重症化してしまったということです。ただ、あくまで統計上の話で、背中の痛みがあっても治療がうまくいく事例もたくさんあります。
・膵炎(すいえん)
もっと一般的な膵炎(すいえん)があります。急性膵炎と慢性膵炎がありますが、いずれもお腹の上の方の痛みとともに、背中の痛みも典型的です。暴飲暴食や飲酒が原因になりやすいので、生活習慣が心配な方は膵臓(すいぞう)をチェックしてみるのも選択肢です。
<受診すべき診療科>
背中の症状が心配な方は、内科の先生に相談しましょう。
膵臓(すいぞう)に関しては、消化器内科が一般的です。消化器内科や消化器外科にもさらに専門があり、胃腸(消化管)と肝臓・胆のう・膵臓(すいぞう)に分かれます。
4位 心臓・大血管
可能性の高さでいえば第4位にしましたが、緊急度では断トツ一位です。救急者を呼ぶ緊急度です。
主に2つの病気が要注意です。
- 大動脈解離(だいどうみゃくかいり)
- 心筋梗塞(しんきんこうそく)
どちらも緊急度が高く、命に関わります。以下の研究は大動脈解離(だいどうみゃくかいり)についてです。
大動脈解離(だいどうみゃくかいり)のほとんどは「突発的な痛み」に襲われている。具体的には、突発的な胸の痛み、背中の痛みですが、この症状だけで大動脈解離(だいどうみゃくかいり)の診断の感度が84%と高かったとされています。
【参考論文】 Michael Klompas. JAMA. 2002 Does this patient have an acute thoracic aortic dissection?
この論文の意味は、突発的な痛みがない大動脈解離(だいどうみゃくかいり)は、16%しかないという意味です。
そして、以下の研究は、心筋梗塞(しんきんこうそく)の症状についての統計です。
圧倒的に多いのは、女性も男性も「胸の痛み」なのですが、女性は、胸の痛み以外にも症状が現れることが多いのです。
女性の心筋梗塞で報告が多い胸痛以外の症状(多い順番)
- 嘔吐(おうと) 58.3%
- 背中の痛み 42.3%
- めまい 17.3%
- 動機 11.5%
【参考論文】Johanna Berg, et al. Gend Med. 2009 Symptoms of a first acute myocardial infarction in women and men
<こんな症状に注意>
・突然の痛み
・胸など背中以外の部位も一緒に痛い
・いつもの背中のコリとは違う違和感がある
・症状が持続する
<受診すべき診療科>
内科で心電図やレントゲン、それ以上の検査を検討しましょう。
3位 神経(首・帯状疱疹)
・椎間板(ついかんばん)ヘルニア
背中に限らず、皮膚には支配する神経というものが、ある程度決まっています。
背中の痛みは、首の下から胸椎の上の方の神経に異常が出ると痛くなります。その代表的は、椎間板(ついかんばん)ヘルニアです。首のヘルニアの多くは、腕や手の痛みやしびれが現れますが、首といっても、背中よりの首になると、症状も背中にでてきます。MRIを撮らないと、なかなか見つかりにくい病気です。首をそらしたり、傾けたりすると痛みが強まるのが特徴です。
<受診すべき診療科>
整形外科を受診しましょう。
・帯状疱疹
神経といえば、もうひとつ帯状疱疹も有名で、頻度も低くない神経の病気です。「皮膚の病気ではないの?」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか? 帯状疱疹は、皮疹(ひしん)が出るため皮膚科で治療しますが、神経節(しんけいせつ)に潜んだウイルスが原因です。
左右どちらかの神経に沿って症状が出て、皮膚に異常が出る前に痛みが出ることが多いです。皮膚の症状が落ち着いても痛みが続いてしまうこともあります。
<受診すべき診療科>
皮膚科を受診しましょう。
2位 胆石・胆嚢炎
続いては、胆嚢(たんのう)です。
胆石(たんせき)ができて、ものすごい痛みに襲われるケースがあります。典型的には右の腹痛です。以下のような報告があります。
右の背中や肩甲骨(けんこうこつ)下の痛みが症状の胆石・胆嚢炎(たんせきたんのうえん)を報告。
・痛みは1日中続き、特に夕方から夜にかけて激しく悪化すること
・悪化した激痛は、通常4~6時間続き、息を吸うと強まる
【参考論文】Francesc Bobé-Armant, et al. J Family Med Prim Care. 2014 Cholelithiasis presented as chronic right back pain
このようなただものではない症状のような言語化が難しい違和感というのも大事だったりします。言語化できない痛み・違和感も医師に伝えてみてください。
<受診すべき診療科>
消化器内科を受診しましょう。
消化器内科の内、肝臓・胆のう・膵臓が専門領域になります。ただ、自身で絞って受診することは難しいので、「○○内科」のような開業医さんに相談してみてもいいと思います。
1位 筋・筋膜性(きん・きんまくせい)
背中の痛みのほとんどは、筋・筋膜性(きん・きんまくせい)の痛みになります。レントゲンを撮っても筋肉も筋膜(きんまく)も写りませんし、MRIを撮っても筋・筋膜性の痛みのときに異常がでないことが多いです。
筋・筋膜性の痛みは、診断できる検査が基本的にありません。極論ですが、検査をやりつくして、膵臓や心臓血管、神経、胆嚢、その他内臓も大丈夫……となってはじめて、筋・筋膜性の診断となります。
しかし、すべての検査をすることは現実的ではありません。では、どうしたらいいのでしょうか?
- 疑うべき症状はないか
- 痛くなったエピソードはどんな感じか
- 診察テストの結果はどうか
など検査する前にある程度、必要な検査をしぼる必要があります。例えば、心臓・血管だったら、胸の痛みや、痛みが突発的ではないか、胆嚢(たんのう)であればお腹の痛みや、押した時の痛みがどうかなど、いつもと異なる症状を観察することが大事です。
このように、ほかの可能性も念頭に入れながら、筋・筋膜性と判断されます。
自分で知識をつけることが大事!
患者さんが知識をつけて、自分のからだに意識を巡らせて、相談するべき専門家を選ぶという視点が、今の日本においてはとっても大事になってくると考えています。
医師や専門家を自由に選べるという恵まれた環境ともいえますが、誰を選んでいいか、正解がない環境ともいえるので、自分は自分で守るという意識が必要です。そのために健康や医療に対する情報の集め方、選び方が上手になる必要もあります。
いかがでしたか? 気になる「背中」の痛みにもいろいろなことが考えられます。医学的な正しさを身に着けて、相談するべき専門家を正しく選べるようになることも大切ですね。
▼詳しい背中の痛みは動画でも確認できます。
※こちらの記事は元動画の提供者さまより許可を得て作成しております。