教えてくれたのは……鈴木教大さん
社会保険労務士法人レクシード代表。特定社会保険労務士。医療労務コンサルタント。
沖縄から北海道まで数百社にのぼる顧問企業を支援。労使トラブル対応などにおいて、現実的な解決策提示・予防措置提案を行うエキスパートとして定評がある。企業の労務を“予防”という視点からサポートすることに力を入れている。
そもそも「パワハラ」の定義とは?
職場で上司から不快なことをされて、「あれは絶対パワハラだ!」と憤りつつも、「もしかしたら、私が敏感すぎるのかな」「そういうつもりじゃなかったのかも」などとモヤモヤした経験はありますか? 「パワハラ」という言葉は広く浸透していても、「受け手が嫌だと感じれば、どんなことでも“パワハラ”なの?」「どこまでは指導で、どこからがパワハラなの?」と、具体的な線引きに悩むこともあるかもしれません。
社会保険労務士として、さまざまな企業の労使トラブル対応を担当している鈴木教大さんは、パワハラの定義について次のように解説しています。
鈴木さん 「『パワハラ』は、一般的には職場などにおいて、上司や同僚、先輩など、立場の上の者が、その立場や権力を濫用して他者に対し業務の適正な範囲を超えて不適切な言動や行動を行うことを指します」
鈴木さん 「具体的には、暴言・侮辱、仕事の不当な要求、仕事上の権利を侵害する行為、心理的な圧力など、身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害することをいいます」
「業務の適正な範囲を超えているか」が判断ポイント
パワハラかどうかを判断ポイントは、「業務の適正な範囲を超えているか」だと鈴木さんは解説します。「業務の適正な範囲」とは、具体的にはどこまでを指すのでしょうか。
鈴木さん 「通常業務や、通常の業務に付随することが、業務の適正な範囲となります。業務に必要な指導も、人格を否定するなどの発言がない限り、業務の適正な範囲に含まれます」
実際にアラフォー女性から寄せられるパワハラ相談には、次のようなケースが多いそうです。
- 帰り際に、絶対間に合わないような期限の仕事を押し付けられた
- 無視された
- 業務で必要な情報を渡してもらえない
- 「おばさん」と呼ばれた
鈴木さん 「そのほか、上司や同僚からの性別に基づく嫌がらせや差別的な発言を受けるケースもあります。たとえば、『女性であることを理由に仕事の評価や昇進の機会を与えられない』こともそのひとつ。仕事上の成果を無視される、軽視されるなどの相談を受けることもあります」
パワハラとセクハラの違いも気になるところですよね。「パワー・ハラスメント」と「セクシャル・ハラスメント」の境界線については、どう考えたらいいのでしょうか。
鈴木さん 「セクハラは職場の地位に関係なく、性的ないやがらせを受けた労働者が不利益を受けた場合に該当します。性的な嫌がらせを受けた場合は、パワハラでなく、セクハラになります」
「パワハラされたかも?」と思ったときにやるべき「3つの行動」
職場で「パワハラかも?」と思うことをされたら、どのように対処したらいいのでしょうか。鈴木さんに教えていただいた「3つのできること」を紹介します。
1. メモをとる
パワハラに該当するような行為をされたときは、「日時・場所・されたこと」を具体的にメモしておきましょう。誰かに相談したいと思ったときの材料になります。
2.直属の上司、または職場の相談窓口に相談する
メモした内容をもとに、直属の上司に相談しましょう。直属の上司に相談しづらいときは、勤務先の「ハラスメントに関する相談窓口」に連絡するのがおすすめです。パワハラ防止法が施行されたことにより、企業にはパワハラ対策のための相談窓口を設置することが義務付けられています。わからないときは、人事担当者などに確認しましょう。
3. 勤務先のある都道府県の「雇用環境・均等室」に相談する
上司や相談窓口に話しても適切な対応が受けられないときは、各都道府県の労働局内にある「雇用環境・均等室」へ相談してみましょう。
「雇用環境・均等室」は、労働者と事業主とのあいだで、男女雇用均等の取扱い、育児・介護休業、パートタイム労働者・有期雇用労働者の雇用管理、職場におけるパワーハラスメントなどにおいて民事上のトラブルが生じた場合、解決に向けた援助や働き方改革に関する総合的な施策の企画、総合労働相談、あっせんなどを行う組織です。全国47ヵ所に設置されています(2023年9月時点)。
パワハラを受けたときにできることがあると知っていると、万が一のときでも気持ちを少し強く持っていられるかもしれませんね。鈴木さんに教えていただいたポイントを、心に留めておきましょう!