境界知能とは?
「境界知能」という言葉はご存じでしょうか。知能の測り方は一つに限られておらず、様々な指標があるのですが、多くの検査において知能指数(IQ)の平均は100とされています。
一般的に知能指数が70を下回ると支援が必要とみなされ、配慮が受けやすくなります。要支援とはみなされない一方、同年齢の子よりも少し難しさを抱えるゾーンが「境界知能」と呼ばれています。
普通級にいても、周囲と同じように課題をこなしたり、スムーズに生活を送ることは難しい子はとても多く、7~8人に1人の割合ともいわれているんです。
困る範囲や程度は人それぞれですが、「境界知能」のゾーンにいる子は様々な苦労があります。まずは大人が理解し、どんな難しさがあるのか、どんな支えが必要なのかを知っていくのが重要です。
「境界知能」の子が抱えやすい困りごと
学習面での困りごと
書く・読む・計算するが苦手でついていけない子は多いです。どんなに書き取りの練習をしても、漢字の形の認識や記憶の難しさがあるので、苦痛で仕方ないんですね。
また、「先生の話を聞きながら板書する」「複数の指示を覚えて行動に移す」などが苦手な子も多いよう。
授業に全くついていけないと、隣の子にちょっかいをかけたり、落ち着きなくそわそわするなどの行動を取る子もいます。
生活面での困りごと
身の回りの整理整頓や持ち物の管理が苦手な子も多いです。また、先生に言われた持ち物を連絡帳などに書き、忘れずに準備するのも一苦労。多くの子が何気なく行っている暗黙のルールが理解しにくい子もいます。
例えば、
- 最後に部屋を出た人が電気を消す。
- クラスで共有している物を一人で使い続けない。
- 机をみんなで使うときは自分の物を広げ過ぎない。
明示されていないルールを「なんとなく」理解し、周囲に合わせて守っていくことに苦労しやすいんですね。
友だち関係での困りごと
小学校中学年以降くらいになると、「AちゃんとBちゃんは以前喧嘩したから、Aちゃんの前でBちゃんの話はタブー」など、大人と相違ない人間関係も生じてきます。
そんな中、空気を読んだり、間合いや相手の表情を察するのが難しい子は本当に多いです。
他にも、約束をしたときのスケジュール管理や、曖昧なコミュニケーションの理解、状況に応じた行動などが苦手な子もいます。
子どもに適切な対応を伝えていく
「普通級に通っているんだから、みんなと同じようにできるだろう」という認識するのは少し危険。小学校の普通級にはIQが70の子もいれば、120の子もおり、みんなが100で過ごしているわけではないからです。
周囲と同じようにできないと、子ども同士の目からは「変わっている子」と思われるかもしれません。また、「〇〇君はわかってないから」「〇〇ちゃんとは話が噛み合わない」と仲間外れにされやすくもなってきます。
しかしその理由は本人の性格でも、親の育て方でもなく、その子なりの難しさが背景に隠れているからかもしれません。
「人それぞれ苦手なことがあること」「手助けできそうなときはフォローし難しいときは先生に声をかけてあげること」などを年齢に合わせて伝えていけるとよいでしょう。
また、「人と違うからといって、仲間から外したり相手を非難するのは良い行いではないこと」「差別はされる側よりする側の方が恥ずかしいこと」なども、必要に応じて教えていけるといいですよね。
困っていそうな親子には病院を勧めてあげたほうがいい?
また、親御さんのお話を聞いている中で「クラスで明らかに輪になじめていない、勉強についていけていない子がいる。親御さんは病院に連れていくべきじゃないのか?」という声も時折耳にします。たしかにその子自身や周囲への影響を心配する気持ちはあるかもしれません。
しかし子どもの発達に関する捉え方はとてもセンシティブな話題で、病院に対するハードルも人それぞれ。家庭内でどんな話し合いが行われてきたかなど、その親子の背景は表面的に見ても図りえないものです。
どうしても心配なときは担任の先生やスクールカウンセラーに相談してください。直接的なやり取りではなく、専門家である第三者を通すのがよいでしょう。
参考文献
「境界知能の子どもたちー「IQ70以上85未満」の生きづらさ」宮口幸治