メルちゃんが原点? 世界を変えた1本

お風呂に入ると髪の色が変わるメルちゃん。
缶ビールを冷やすと模様が現れるシール。
そんな不思議な仕掛けに使われている温度で色が変化するインクを、パイロットは1975年にすでに開発していたという。
池澤知香さん パイロットコーポレーション広報部課長補佐
子どもの頃からカラフルなものが大好きで、さまざまな色のペンを収集していた。
好きな筆記具はフリクションシナジーノック3
休日はサッカーをスタジアムで観戦! カフェ巡りがマイブーム
「最初は、この温度で色が変化するインクを筆記具にしようなんて誰も思っていなかったんです。なぜなら書いた文字の色が変わらずに残るものが『良いインク』とされてきたからなんです。」
そう話してくれたのは、広報担当の池澤さんだ。
世界中で愛される「フリクション」の物語は、実はこのインクから始まっている。
「透明にできない?」
転機は2002年。ヨーロッパの担当者から寄せられた一言だった。
「インクを別の色に変えられるなら、透明にすることはできないか?」
当時のヨーロッパでは、学習時は、ボールペンや万年筆を使うのが当たり前だった。鉛筆は「絵を描く道具」という認識で、ノートやテストはペンで……というのが、小学校からの常識だった。
書き間違えた時はインク消しで消し、乾くのを待ってから書き直す。そんな子どもたちを見て、
「もっと便利なものを届けられないだろうか」という発想が生まれたという。
書けて、消せる。そしてもっと濃く!
ところが、それは簡単なことではなかった。「フリクション」のインクは熱で色が変化する特殊な仕組みを持つため、普通のボールペンのインクとは少し性質が違う。そのためボールペンの先から安定してインクを出し、筆記具として使えるようにするには、とても難しかった。
試行錯誤の末、2006年にようやく消せるボールペン「フリクション」が誕生した。(筆記具として使えるよう進化した、摩擦熱で消えるインクを「フリクションインキ」と呼ぶ)
けれど開発はそこで終わらなかった。
「フリクション」が登場した当時、「便利だけれど少し色が薄い」「インクの減りが早い」と感じた人はいないだろうか?
ところが今回、取材中に試し書きをさせてもらうと……
「あれ? 全然違う」
正直に言うと、発売当初のフリクションとは別モノだ。
2022年、鮮やかな色味となめらかさが自慢の「フリクションボールノックゾーン」が誕生していたのだ。池澤さんは、「きれいに消せる限界を保ちながら、どこまでインクを濃く、長く書けるようにするか……が、本当に難しかったんです」と振り返る。
焼き芋で消えた文字
そんな「フリクション」には、実は少しユニークな一面も……
60度以上になると文字が透明になるため、思わぬ「事件」が起こることがあるようだ。
「カバンに買ったばかりの熱い焼き芋を入れていたら、その形に書類の文字が消えちゃったというお話がありました」と、池澤さん。
とはいえ、もちろん消えてしまっても大丈夫。マイナス10度以下になると、文字は再び現れる。
「もし消えてしまったら、ビニール袋に入れて、冷凍庫で一晩冷やしてみてくださいね」
世界中で50億本(※)も売れた、20年も愛されている英知を極めた逸品が、時には焼き芋に負けてしまう。そんなところもちょっと微笑ましい。(※2025年末現在)
「失敗しても大丈夫」
フリクションユーザーの手帳
取材の最後に、私はこう伝えた。
「フリクションだから手帳が続いている、という声をよく聞くんです」
池澤さんはこの日1番の笑顔で頷いてくれた。
間違えても大丈夫。消して書き直せばいい。
そんな安心感のおかげで、今日も手帳を開くひとがいる。
やっぱり、「書いてみるとちょっといい」。
●パイロットコーポレーション https://www.pilot.co.jp/
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