わが家の高校生の娘、韓流好きが高じてついにキムチを漬けたいと言い出した。なんでも、好きなモッパン(韓国の食動画)の女の子が、家族総出で一年分のキムチを漬ける様子を見て興味を持ったらしい。
娘の影響で昨年春のステイホーム期間以来、わが家の冷蔵庫にはキムチを常備している。そんな家庭が多かったのか近所のスーパーではキムチの売り切れが続き、夏前にはついに待ちきれずに工場直送キムチ5キロ入りを取り寄せてしまった。初めて届いた直送キムチはスーパーで買うものとは味わいが全く違う。すぐさまとりこになった。
届いたその日はできたての新鮮な味と香りで、原材料であるアミの塩辛や魚醤、唐辛子、にんにく、りんごなど素材ひとつひとつの味がくっきりと感じられる。韓国ではキムチを漬けた当日には茹でた豚バラブロック肉の薄切りと一緒に食べるのが習わしだそうだが、なるほど、豚バラ肉の強さと張り合えるほどの主張がある。若い個性のぶつかり合いとでも言おうか。例えるなら、デビューしたての若いバンドやアイドルグループみたいな、ひとりひとりのやる気がむき出しで、飛び出したりはみ出したりしながらこっちに迫ってくるような味だ。そんな荒削りなキムチと豚バラの組み合わせが最高のマリアージュを生み、食べているこちらも若々しいパワーをもらえるような気すらする。これはできたてキムチを取り寄せるまで知らなかった楽しみだ。
荒削りなキムチも数日経つと全体がなじみ、甘みが出て調和のとれた丸い味になってくる。スーパーで買えるパック入りのキムチは、大体ここの状態に仕上げられていると言っていいだろう。ほどよく熟成したまろやかな味わい。ここから1〜2週間は脂が乗り切った中堅バンドのような状態で、出せば出すだけすべての曲がヒットするのがこの時期のキムチだ。ごはんにも合う、そのままつまみにして焼酎と一緒に味わっても美味しい。肉と炒めてもスープに入れても美味しい。成熟した安心安定の味わいであらゆる食材を力強く受け止めてくれる。
さらに発酵が進むと、ある日突然に酸味が出てくる。徐々に酸っぱくなって来てはいるのだけれど、不思議なことに、ある日いきなりポーンと垣根を超えたように酸味がシュワッと進むのだ。この味わいが得も言われぬ奥深さで「酸味が出てからが本番」とわが家ではこの状態を楽しみにしている。全盛期を超え、いい時期もうまくいかない時期も超えて、でもずっと活動を続けているベテランミュージシャンのような練れた味わいは、じんわりと体の奥まで染み込んでくるような滋味がある。最初のとんがった味、途中の成熟した味を記憶のなかで反芻しながら「まあ、あなたも時間が経ってずいぶんとこなれましたね」と人生の先輩を見るような気持ちで、この熟れた酸っぱいキムチを味わっている。このキムチと汁で酸っぱいスープを作ると、二日酔いや胃もたれが驚くほどすっきりするのも嬉しい。