お話を聞いた人:角野栄子さん
人生を大きく変えた「書くこと」との出会い
角野栄子さんは23歳でご結婚後、ブラジルへ2年ほど移住。その後、帰国してから、作家として活動をスタートされています。
「私は自分が作家になりたいと思って、なったわけじゃないの。34歳のときに、大学時代の先生から「ブラジルの経験を本にしないか」と誘われて書き始めたのがきっかけでした。偶然とはいえ「書くこと」に出会えたのはとても幸運でしたね」(角野さん)
それまでは「書くことが好きだ」と思っていなかったんですか?
「「これが私の人生を楽しくしてくれるものだ!」というほどではなかったですね。好きだと気付いたきっかけは、本を執筆する際に何度も何度も修正が入ったことです。普通、自分が書いた文章を「書き直し」って言われて差し戻されたらイヤでしょ。でも、私はそれさえもとっても楽しいと思っていることに気付きました。何度書き直しても、面白い発見ができて、ぜんぜん苦じゃなかった。そこで、自分は書くことが好きなんだ、って気が付いたの。心から自分の好きなことを見つけたから、これを一生やっていこうと思ったの」(角野さん)
首から画板を下げて、書き続けた
作家デビュー時、お子様はまだ3~4歳。つきっきりの時期は終わったけれど、まだまだ手がかかるお子さんを抱え、角野さんはどのように作家業と主婦業を両立されていたのでしょうか?
「画板ってあるでしょ? あのスケッチするときに使うやつ。あれを首から下げて、子どもと一緒に動きながら、暇を見つけては書いていました。好きなものをみつけられたって、すごい喜びですよね。もちろん、思うように書けない苦しみもありましたよ。でも好きなことをやっているんだから、苦しくても平気。だから、苦しいけれどやめないで、毎日毎日書いたの」(角野さん)
続けるために「誰にも見せなかった」
処女作が出た35歳の後、次作が出たのはなんと42歳。
「実は7年間毎日誰にも見せずに書き続けていました。なぜ、見せなかったか? だって、人に見せたら何かしらアドバイスとか、批判されるでしょ? イヤな気持ちになりたくなかったの。下手でもいい、好きなことを続けようという一心で書いていた。とにかく毎日続けるために、人に見せなかった。そうしていたら、自分の中でも納得できるものが書けた。初めて「人に見せたいな」って思う作品ができたので、編集の方に見せてみたの」(角野さん)
角野さんの作家としての人生が本格的にスタートしていきます。
好きなことを見つけたかったら「とにかく何でもやってみる」
角野さんが本格的に作家としての人生をスタートさせた40代は、一般的には人生のターニングポイントを迎える年齢です。仕事や育児・介護など日々のタスクに追われ、自分を見失ってしまっている人もいるのでは。角野さんのように人生を楽しく生きるために、何をすればいいでしょうか?
「やっぱり、好きなことを見つけることで、人生が輝くわよ。好きなことは飽きないもの」
「もしまだ見つからなくて、好きなことを見つけたかったら、なんでもいいから、まずはやってみること。思ってるだけじゃ、一歩も進まないわよ。だから動く。座って考えていても、やってみないと本当にわからないのよ。
何かやってみる。面白そうだとおもったら、なんでもいいのよ。絵を描くことでも、文章を書くことでも、走ってみることでもいい、植物を育てることでもいい、まずはやってみなくちゃ! 待っていても目の前に現れてこない。やっているうちに、どんどん楽しくなって、形になっていくのよ」(角野さん)
誰にでも1つ、魔法が使えるの
「『私は何もできないの』と言う人は多いけれど、必ずできるものがある。私は『魔法がひとつ、誰にでもある』と信じています」(角野さん)
せっかくの「魔法」に気付かないで人生を楽しめないのは、もったいない気がしてきますね。
天職を見つけ、自分らしいスタイル、ファッション……人生を思いっきり楽しんでいる角野さん。「今後やりたいことは?」の質問には、「いっぱいある」と即答。現在、長編2つを執筆中に加え、次回作の構想も。さらに同時進行で、「アッチ」や「リンゴちゃん」のシリーズも手がけ、落ち着いたら旅がしたいわ。と、常にエネルギッシュ。
年齢を素敵に重ねた角野栄子さん。常に「楽しい!」と言って生きる姿に尊敬と羨望が溢れました。
今回印象的だったのは「自分の好きなことは、自分の中で大切に育み、人に言いたくなるまで言わなくていい」と言うこと。SNSが身近になり、個人が自分のことを発信しやすくなった昨今、アウトプットすることの大切さが声高に叫ばれていますが「したくなければ自分の胸にしまって続ければ良いんだ」と目からウロコが落ちました。
人生100年時代。1つの仕事、子育てだけでは終わらない長い時間があります。それを「長いな……」と我慢しながら生きるか、「時間が足りないくらいだ」と日々を楽しむかは自分次第なんですね。
まずは人生を照らす「好きなこと」探しのために、重くなった腰を少し軽くしてみませんか。