教えてくれたのは……石幡 一樹(いしはた かずき)先生
医療法人社団樹伸会 いしはた歯科クリニック 院長。
医療法人社団樹伸会 理事長、日本補綴歯科学会 専門医、日本顎咬合学会 認定医。2012年に埼玉県久喜市にて開業の後、医療法人化。現在は本院と分院の2クリニックを運営。「患者が80歳に達した段階でしっかり噛める治療」を理念に診療を行っている。
糖尿病と口腔トラブルの意外な関係とは
糖尿病(または糖尿病予備軍)と口腔トラブルが結びつかず、意外だと感じる方も多いと思います。どのような関係があるのでしょうか?
石幡先生「糖尿病により、からだを守るマクロファージの機能低下、結合組織コラーゲン代謝異常、血管壁の変化や脆弱化(細小血管障害)、創傷治癒の遅延などの免疫力の低下が起こります。それに伴って抵抗力が低下するため、歯周病の発症・進行に影響を与えるのだと考えられています。
さらに、糖尿病で高血圧・心臓や動脈硬化症・腎障害のある人への多くの薬は、主な副作用として口内乾燥を引き起こすことがあります。そのため、糖尿病になると口の中が乾きやすい、唾液の分泌が減る、歯周組織の破壊が促進されることにより、口内炎、歯茎の出血などの合併症が起きやすくなるのです」
「歯周病」は、糖尿病の6番目の合併症として考えられている
石幡先生によると「糖尿病のさまざまな合併症の中でも、罹患率が高い可能性があるのが歯周病」なのだそうです。
石幡先生「まず大前提として、歯周病は40歳以上の成人の8割以上が感染していると言われ、非常に感染率の高い疾患です。
現在、糖尿病の3大合併症『神経障害』『糖尿病網膜症』『糖尿病腎症』、それに加えて『細血管障害』や『大血管障害』などと合わせ、歯周病は糖尿病の6番目の合併症として捉えるべきだとされています。
腎臓、目、神経に生じる上記の疾患と歯周病がどちらが多いか明確に示す論文は把握していませんが、8割以上が感染している歯周病のほうが罹患率は高いと考えるのが自然だと思われます」
歯周病を放っておくと糖尿病が悪化することも
神経障害などの合併症と比べると、歯周病は軽視されてしまう症状かもしれません。しかし、「放置すると糖尿病を進行することになりかねない」と、石幡先生はおっしゃいます。
石幡先生「歯ブラシにより、出血や膿が出ているような歯周病が進行した状態では、歯周ポケットからタンパク質の一種である炎症性サイトカインが産生されます。
中等度以上の歯周病が口腔内にある場合、そのポケット表面積の合計は手のひらと同じサイズと考えられています。手のひらサイズの炎症が治療なしで放置されていると考えると、異常な状況であることが理解できると思います。
この炎症性サイトカインが口腔内の毛細血管を伝って血中に入ると、ますますインスリン抵抗性が増すことになり、糖尿病の症状の進行につながるのです」
日常生活の中で気をつけるべき「3つのポイント」
最後に、歯周病によって糖尿病を悪化させないために、日ごろから気をつけるべきポイントについて教えていただきました。
- バランスのよい食生活を心がける。
- ゆっくりよく噛んで食べる。
- 歯科医院を定期的に受診する。
石幡先生「糖尿病を悪化させないためには、バランスのよい食生活を心がけましょう。さらに、ゆっくりよく噛んで食べることで、食べ過ぎを防ぐことができます。
また、歯を失わずに保つことは、生活の質を低下させないだけではなく、生活習慣病の予防や管理にも繋がります。歯周病コントロールのためには、歯科医院を定期的に受診することが大切です。歯周病を進行させずに安定した状態に保つための予防ケアや専門的アドバイスを受けるのが有効です」
相互に悪い影響を及ぼすとされる糖尿病と口腔トラブル。これからの健康を守るためにも、自身でできることを意識してみてはいかがでしょうか。