教えてくれたのは……藤野智哉先生
精神科医。産業医。公認心理師。
幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。学生時代から激しい運動を制限されるなどの葛藤と闘うなかで、医者の道を志す。現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。障害とともに生きることで学んできた考え方と、精神科医としての知見をメディアやSNSで発信中。
『「そのままの自分」を生きてみる』
著者:藤野智哉
価格:1,760円(税込)
発行所:ディスカヴァー・トゥエンティワン
新しい環境でストレスを感じるのは自然なこと
子どもの進学や家族の転勤、勤務先での部署異動など、フレッシュなスタートを切ったはずなのに、なんだか気持ちが重だるいという方もいるかもしれませんね。精神科医の藤野智哉先生は、「5月、6月にやる気が出ないのは自然なこと」とおっしゃいます。
藤野先生 「オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラーは『すべての悩みは対人関係の悩み』と話しています。新しい環境で、新しい人間関係に囲まれて、ストレスを感じるのはごく自然なこと。うれしいことやおめでたい変化であっても、環境の変化はストレスの原因になり得ます」
藤野先生 「ストレスを抱えると、多くの方が『このままじゃダメだ』『変わらなきゃ』と考えます。しんどい出来事や、うまくいかないことが、自分の力不足のせいで起きているのではないか。自分が弱いから、つらいと感じるのではないかと考えて、自分に対して否定的になることもよくあります」
藤野先生 「でも、生活環境が変わって、長い休みのあとって、どんな人でもしんどくなりやすいものなんです。まずは自分のしんどさに気づいて、自分をケアする、いたわることを大事にしてほしいなって思います」
自分のしんどさ・つらさに早めに気づこう
「自分のしんどさに気づいていない人はめちゃくちゃ多いです」と話す藤野先生。どのようにすると、自分が抱えているしんどさやつらさに気づくことができるのでしょうか。
藤野先生は、「一概に表現するのは難しい」としつつも、ストレスのあらわれ方の例として次の4つのパターンを挙げてくれました。
- 「感情」にあらわれる:悲しさやむなしさを感じる、イライラするなど
- 「欲求」が変化する:食欲の増減、睡眠時間の増減、性欲の減退など
- 「意欲」が低下する:お風呂に入りたくなくなる、朝なかなか起きられなくなるなど
- 「思考速度」が変化する:仕事でミスしやすくなる、料理や買い物など複雑な工程の作業ができなくなるなど
藤野先生 「しんどいときのサインは人それぞれで、疲れているとこうなりやすいというパターンは比較的多くの方にあるようです。たとえば、疲れてくると部屋が片付けられなくなったり、朝起きられなくなったり、お風呂に入るのがおろそかになったり。自分のパターンを知っておき、『郵便物がたまってきたから、いましんどいのかも』と気づけるようになると、しんどくなり過ぎずに済むかもしれません」
藤野先生 「もっとも有効なストレスケアは、しんどくなり過ぎたときにどうするかではなく、しんどくなり過ぎる前にどう対処するか。これができる人が増えれば、僕ら精神科医の仕事は少し減るかもしれませんね(笑)」
「今のままじゃダメ」をいったん手放す
では、新しい環境がスタートしてなんだかやる気が出ないと感じたとき、しんどさやつらさの見通しはどのように考えたらいいのでしょうか。
藤野先生 「適応障害の場合、ストレスの原因(ストレス因子)から症状が出るまで約3ヵ月ほどかかることもあり、ストレス因子がなくなってから半年以内には症状が落ち着くと考えられています。朝起きられない、まったく意欲が湧かないなどの明らかなうつ症状がないようなら、焦りすぎる必要はないと思います。裏を返せば、新生活に慣れるまで数ヵ月ほどかかるのは当たり前ということ。休み明けは誰でもしんどいものです。それほど心配せず、『今のままじゃダメ』『変わらなきゃ』という気持ちをいったん手放してみるといいですよ」
自分のしんどさ、つらさに早めに気づき、まずは自分をいたわりケアすることが大切なのですね。次回は藤野先生に、正しいストレス対処法について教えていただきます!