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ドーナツの定義、答えられる?「穴が空いていること」よりも、もっと大切なこと。【ドーナツ探求家が直伝】

カルチャー

2025.09.25

“ドーナツとは、油の中で夢がふくらむ、幸福な食べ物です。” こんなキャッチコピーを掲げて、「ドーナツ探求家」として活動している溝呂木一美です。 年間500種類以上のドーナツを食べ、食文化としても調査・研究しています。 そんな私が、ドーナツの雑学や知られざる魅力などを少しずつご紹介していきますよ。

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穴が空いていればいいの?

『ドーナツの定義』とは、なんでしょう?

これは私が〈ドーナツ探求家〉という看板を掲げているため、よく聞かれる質問です。
答えを言うと、「穴が空いてるからじゃなくて?」といった反応をされる人が多いことから、「穴が空いているものがドーナツ」と思っている人が大半であることは間違いないようです。

穴が空いたリング状の姿であることが『ドーナツの定義』だとすると、よく知っているあの食べ物が、みんな『ドーナツ』になってしまいます。
ベーグル、バームクーヘン、車麩(くるまふ)、マイナーなところではクグロフ、パリブレストなど。
これらは小麦粉で作っているという共通点はあるものの、『ドーナツ』であるはずがありません。

『ドーナツ』が食べたいときに、「どうぞ」と、車麩を手渡されたら、「これじゃない」と困惑するでしょう。

車麩出典:stock.adobe.com

アイデンティティは油で揚げていること

「煮える油の海を渡ってきた者こそ、真のドーナツである」と、高らかに言いたい。
ドーナツは揚げ物であると。

ドーナツ生地を油で揚げて、ドーナツが完成するさあ、煮える油へ飛び込むのだ!

『ドーナツ』とは、「小麦粉などで作った生地を油で揚げたもの」と定義づけるのが適切でしょう。

長い食の歴史の中で、リング状、ボール状、棒状など、形状を問わず、生地を油で揚げたものが『ドーナツ』として親しまれてきたこと。岩波書店の「広辞苑」をはじめ、複数の国語辞典でも「油で揚げた菓子」というように明記されていることからも、『ドーナツ』のアイデンティティは、「穴が空いていること」ではなく、「油で揚げること」といえます。

過去のコラムで、ドーナツの生地の違いについてご紹介しました。

ドーナツには、大きく分けて3つの生地、イースト生地、ケーキ生地、シュー生地があります。
これらの生地は、油で揚げると『ドーナツ』になりますが、焼くと別ジャンルの食べ物になることからも明らかです。

3種の生地を揚げるか焼くかで、できるものが変わる

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みんなに愛される“輪っか”

「油で揚げていることがドーナツのアイデンティティ」といっても、『ドーナツ』のパブリックイメージがリング状であるのは間違いありません。
その姿が多くの人を魅力し、広く認知されて、「ドーナツ=リング状の食べ物」として定着したのだと思います。
そういう私も『ドーナツ』と聞いて思い出すのはリング状のそれです。

私はイラストレーターとしても活動しています。
「ドーナツの絵」を依頼された場合、ドーナツを研究する者として、ボール状のドーナツやツイストドーナツなどを描いて、強力なパブリックイメージに抵抗しようかしらと、おかしな情熱をペンに託そうとします。
しかし、「わかりやすく伝える」という使命を持つイラストについては、そういった私情を込めてはいけません。
「いかん、いかん」と首を横に振り、冷静さ取り戻し、輪っかを描くのです。

ドーナツ出典:stock.adobe.com

輪っかというのは、なんとなくおおらかな印象で、悪気のない形で、どことなく楽しい雰囲気を感じさせたりもするものです。

丸くつながった状態から「途切れないもの」「無限」「調和」といったイメージが湧きますし、人間関係の「輪」といえば、友好なコミュニティを連想します。

「なんだか、いいカタチ」、それが輪っかのカタチをしたドーナツの魅力なのかもしれません。

誰しも『ドーナツ』と聞いて思い出すものはリング状のそれです。
しかし、「ドーナツとは何なのか?」「ドーナツの定義は?」という問いかけには「小麦粉などで作った生地を油で揚げたもの」ということを、思い出していただけたら嬉しいです。

さぁ、コラムを書き終えた。
あんドーナツでも食べましょうかね。
あ、ほら、穴はなくともドーナツですよ。

あんドーナツ日本で古くから製造されている、ころころとした丸いカタチのあんドーナツ

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著者

溝呂木一美(みぞろぎひとみ)

溝呂木一美(みぞろぎひとみ)

“ドーナツとは、油の中で夢がふくらむ、幸福な食べ物です。“というキャッチコピーを掲げ、国内外で年間500種類以上のドーナツを食べ、食文化としても調査、研究している。自身のブログや各種SNS、テレビやラジオ、雑誌、Webメディア等でも情報を発信。コンビニ、カフェなどの店舗で販売するドーナツの監修も行う。イラストレーターとしては「かわいい・おいしい・楽しい」をテーマに描いている。主なテレビ番組出演歴は『マツコの知らない世界』『ラヴィット!』(TBS系)、『バゲット』(日本テレビ系)など。著書に『私のてきとうなお菓子作り』(ワニブックス)、『ドーナツのしあわせ 年間500種類食べる“ドーナツ探求家“の偏愛ノート』(イースト・プレス)、『ドーナツの旅』(グラフィック社)あり。

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