どんなカタチでも、揚げればドーナツ
『穴があいているからドーナツ、というわけではない。ドーナツのアイデンティティは油で揚げること』と、声高に叫んだのが、前回の『ドーナツの定義』についてのコラムでした。
小麦粉などで作った生地を油で揚げたものが、「ドーナツ」とされます。
生地の種類が多いだけでなく、カタチもバリエーションに富むことが、ドーナツの世界の奥深さです。
リング状だけではない、多様なカタチのドーナツをご紹介します。
【扁球】
昔ながらのあんドーナツは、“街のパン屋さん”では定番メニューです。
扁球(へんきゅう)とは、まん丸い球体を上下に潰したようなカタチです。明治の「マーブルチョコレート」のようなカタチ、といえばわかりやすいでしょうか。
ベーカリーで販売されていたり、大手パンメーカーが製造している「あんドーナツ」が、日本においての代表選手といえます。
ミスタードーナツのクリーム入りドーナツである「エンゼルクリーム」「カスタードクリーム」も、扁球ですね。
丸く整えた生地を揚げ、クリームや餡などを詰めることが多いドーナツです。
もちろん、中に何も詰めていない扁球のドーナツも存在します。
一般的ではありませんが、メーカーなどでは「ビスマルク」という名前で分類することもあります。
【球体】
コロコロのまんまるドーナツは、小さいサイズであることが多いです。
まんまるのボールのようなカタチです。
ピンポン玉くらいの大きさの「あんドーナツ」や、リングドーナツを作るときにくり抜いた「穴」の部分を揚げたものとしてよく見かけます。
ミスタードーナツで1987年から2013年まで販売されていた「D-ポップ」を覚えていますでしょうか。
6種のコロコロとした球体のドーナツがセットになっていました。
現在は「ドーナツポップ」という名前で、自由に詰め合わせることができるメニューとして人気です。
インドの伝統的なデザートで“世界一甘い”といわれる「グラブジャムン」は、球体のドーナツを、とってもあま〜いシロップに漬けたものです。
確かに、とっても甘いのですが、辛いカレーのお供として最高です。
【ツイスト・ねじり】
砂糖をまぶしたものがポピュラーですが、きなこをかけたものも見かけます。
「ツイストドーナツ」「ねじりドーナツ」などという名前で販売されています。
名前のとおり、生地をねじって揚げています。
お店によって、ねじり方に個性が出るところが面白く、その違いを見るのは、私の“ドーナツ探求活動”においての楽しみです。
ドーナツ専門店よりも、ベーカリーでお馴染みのドーナツです。
日本に古くからある“街のベーカリー”では、「ツイストドーナツ」と「あんドーナツ」を一緒に販売しているお店が多く見受けられます。
韓国で古くから食べられている「クァベギ」というドーナツも、このカタチです。
「クァベギ」は日本でも食べられる機会が増えました。
専門店が存在し、大手コンビニから発売されたこともあります。
【多角形】
日本に戻ってきてほしい!ドーナッツプラントの四角いドーナツです。
多角形のドーナツとして、最もよく見かけるのは四角形です。
四角形のドーナツは、2004年に日本上陸し、2021年に残念ながら日本から撤退してしまったドーナッツプラントでお馴染みのカタチでした。
2014年から山崎製パンで製造されていたクロワッサンドーナツ「ドーワッツ」も四角形でしたね。
アメリカでは「ロングジョン」という名前の長方形のドーナツが愛されています。
リングドーナツを型抜きで作る場合、必ず切れ端が出てしまいますが、四角形に作れば切れ端が出ないというメリットがあります。
もちろん、三角形、六角形のドーナツも存在します。
生地を六角形に型抜きする場合、ハニカム構造を用いると、四角形と同様に切れ端が出ません。
【モチーフ】
アーノルドのハート型ドーナツは、プレゼントにしてもいいですね。
ハート・星・動物など、さまざまなモチーフのカタチをしたドーナツは楽しいものです。生地は揚げると膨らむので、複雑なカタチを表現するのは難しく、単純なカタチであることがほとんどです。
ここ数年、ミスタードーナツの冬の定番となっている「ピカチュウドーナツ」もそのひとつですね。ピカチュウの耳の部分が、かわいらしく表現されています。
クリスピー・クリーム・ドーナツでは、毎年冬に雪だるま型のドーナツが登場しています。
私がドーナツ探求活動を始めるきっかけとなった、アーノルドというドーナツ専門店では、レギュラーメニューにきれいなハート型のドーナツがあります。
【棒】
一本だけなら「チュロ」、複数あると「チュロス」。
「チュロ(チュロス)」のように、棒状の細長いドーナツがあります。
水分量が多くやわらかい生地を、専用の器具などを用いて絞り出して揚げると、細長いドーナツを作ることができます。
絞り出して作る特性を活かし、ハート型などの図形や、文字を表現したりと、さまざまなバージョンが販売されています。
次々に生まれる、新しいカタチ
ここで紹介したものは、“よくあるドーナツのカタチ”であって、基礎的なものです。
まだまだたくさんありますが、これだけでも、いかにドーナツが多様であるかがわかると思います。
これまで、生地の特性などを活かして、さまざまなカタチのドーナツが誕生してきました。
作り手のクリエイティブな心があれば、今後も想像もできないようなカタチのドーナツが登場するかもしれませんね。
ドーナツのカタチが多様であることを知ったあと、誰かが「ドーナツ型」という表現をしたときに、「いろいろなカタチがありますが、どれのことですか?」などと絡んではいけませんよ。
パブリックイメージはリング状なのですから、くれぐれも。
「面倒な人だな」と思われますよ。