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「あまりにも"普通"すぎる光景が広がっていた…」大震災を経験した女性が語り部になることを決めた理由【前編】

カルチャー

 「あまりにも"普通"すぎる光景が広がっていた…」大震災を経験した女性が語り部になることを決めた理由【前編】

2021.01.17

子育て防災プロジェクトは、仙台での被災経験を伝える活動。活動を始めてから8年が経ちました。主なコンテンツは、小畑祥子(おばたさちこ)さんが語る「東日本大震災の被災体験」と、日ごろからの備えやちょっとしたアイデアの提案です。講演から伝わる震災の「真実」と乗り越える「知恵」に心を動かされた人々の口コミで、今では、赤ちゃんを抱えたママやバリキャリ女子、地域の自治会など、さまざまな団体から声がかかります。そんな小畑さんがなぜ「語り部」になることを決めたのか、その理由をインタビューしました。

「だってあまりに大阪が普通過ぎて…」

現在も講座で使う資料は、震災後間もない時期に書き留めたメモがベース。

まだ大震災の心の傷も癒えない中、原発の心配もあり、小畑さんはご主人を仙台に置いて1歳8か月の長女とふたりで実家へ行くことを決めました。飛行機で大阪へ到着したときには、機内は拍手に包まれたそうです。安堵の涙が流れたのもつかの間、迎えの車に乗り町の様子を目にしたときに「地震なんてこの町では他人事なんだ」と、強い違和感を感じたことが、語り部になる原動力になったようです。

充分な備えができなかった自分への悔しい思いや歯がゆさから「この思いと記憶を残しておかなくては」という使命感にかられた小畑さんは、避難生活に必要なものを書き出し、資料の作成に取り掛かったといいます。

―――この資料は、直後に書き上げたものなんですね。

小畑:記憶が鮮明なうちに、と思って一気に書き上げました。普段と何も変わらない様子の大阪を見ていると、当時の自分が味わった悲しい思いを、もう誰にも味わって欲しくないという思いが強くなって。

―――ずっと講座で使い続けていますよね

小畑:参加者が企業の方でも自治会でも幼稚園でもこれひとつです。私の講座は「被災体験を伝える」というコンテンツを通じて「大切な人を守ろう」というメッセージを伝えるのが主旨なので、どこへ出向いても伝える内容は同じです。

私にしかできない活動を

関西を中心に開催される防災講座は、「営業・売り込みなし」。あらゆる団体からのオファーが8年間途切れない。

―――全国で地震だけでなく台風や大雨の被害が続き、講座を受講する人たちの関心が高まっていますね。

小畑:実際に経験しないとわからないことが、私自身たくさんあって、備えていたつもりでも充分で無かったことや「こんなことに困るんだ。」という気づきもいっぱいありました。なので、関心を持つ方が増えると、災害で命を落とす人が減るに違いない、と思っているんです。

―――便利なグッズの紹介もされていますが、講師というより「語り部」という言葉がよりしっくりくる印象です。

小畑:4人家族が3日間自力で過ごすとなると、どれだけの水が必要で…という話は、すでに行政からのパンフレットなどでみなさんご存じですし、そういう講座なら、危機管理の専門家がされています。私は母親目線、主婦の目線で子どもを抱えながらどうやって不安な生活を乗り越えていくのか…を考えて過ごしたので、聞いてくださる方が自分のこととして「私ならどうするだろう」と考えてもらえたら、と思って続けています。

―――何度か講座に参加していますが、確かに小畑さんの話は「こうしてくださいね。」というレクチャーではなく「こういう状況でした。」という事実を説明することで聞く人に考えてもらう…というスタイルです。

小畑:毎回、当時のことを思い出して語るので、長い間、講座の後は心身の不調に悩まされていたんです。1週間寝込んでしまうことも、仕事に行けなくなることもあって…やはり辛い記憶を思い起こして「伝えなくては!」という使命感のような思いでお話しているので、無理をしていたんだな、と感じますね。

―――震災から間もなく10年ですが、何か変化はあったでしょうか?

小畑:私自身は毎年3月11日にテレビを一切見ないことで、少し不調からは遠ざかることができています。このごろではテレビでも「このあと津波の映像が流れます。」というテロップがでますが、映像を見るのが、というよりも3月11日がしんどい…そういう状態でした。思い切って「見ない」と決めてからはだんだんとダメージが少なくなり、最近では講座の後に熱心に質問をしてくださったり感想を伝えてくださる方と話していると、「受け止めてもらえたんだな。」と温かい気持ちになりますし、力を貰えるようになりました。

講座のスタイルはさまざま

子ども同伴OKなのは「小さい子を持つママにこそ聞いてもらいたい。」という思いから。

―――さまざまな団体から講演の依頼があるとお聞きしましたが。

小畑:企業や学校、子育て関連の団体や施設、自治会の災害に備えるための講座として開催されることもあります。どこに呼んでいただいても、私は同じ体験談を話します。話を聞いた方が何かを感じ取ったり共感してもらうことで、今後の備えに繋がり、自分や家族を守れるようになるといいなと思います。要望によっては体験談に加えてワークショップを行うこともあります。

大切なことは、言葉で伝えるよりも…

子どもたちや家族向けイベントでは、防災リュックづくりを体験。

―――小畑さん自身が体験談を話す、ということを大切にされているからだと思うのですが、ワークショップにも参加者が「自分で考えて備えにつなげる」仕掛けがみえます。

小畑:「リュックにはこれを入れましょう。ゲームは入れないで。」というよりも、実際にリュックに詰めながら「水は必要、食べ物も…」とひとつひとつ自分で選ぶことで気づきがあると思うんです。ゲームをしたくても「地震だよ、停電しちゃうよ。」というと、そこで「それは大変だ!懐中電灯がいるね、あ、電池もだ。」と気づいてもらえることで初めて備えに繋がるんです。子どものころにインプットされると、きっとずっとそういうことは忘れないんじゃないかと思っています。

―――大人向けのワークショップではどうでしょう?

小畑:災害時には、あらゆる場面でひとりで瞬時に判断しなければならないことがどんどん起こります。そんなときのために、自分や家族にとって正しい選択をすることができるようにゲームを取り入れています。さまざまな考え方や状況があって、どの選択が良いとか悪いとかではなく、自分にとって正しい選択ができるように、ちょっとしたヒントを出したりアドバイスをしながら体験してもらいます。

―――初対面同士でも、隣の人の考えに共感したり、自分と違う選択をする人の言葉に気づきを得たり…和気あいあいとした空気になりますよね。

小畑:周りの方と自分の感想や思いを話すことで、得られるものは多いと感じています。災害時でも「困るよね。」と誰かが口に出すことで「私もそう思ってた。」「じゃあなんとかしよう。」と知恵を出しあったり助け合うきっかけになるのでは?と思います。

 

小畑さんは「今でも話しながら泣きそうになる」といいます。そんな小畑さんが語り部になった裏には大きな覚悟がありました。

お話を伺ったのは、子育て防災プロジェクト代表 小畑祥子さん

2012年から母親目線で被災体験を語る防災講座や防災リュックを考える子ども向けワークショップなどを通じて、多くの地域や学校、企業などで活動中。高齢者介護施設で看護師として働く2人の小学生のママ。最近は、某所にて「島クリエイト」にハマり中。


取材と文:みやむらけいこ

著者

みやむらけいこ

みやむらけいこ

ライター

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