「大震災」を知ったのは翌朝の新聞だった
2011年3月11日午後2時46分
夫の転勤で仙台に移り住んでいた小畑祥子(おばたさちこ)さんは、1歳8か月の長女と友人宅に遊びに行き「そろそろおやつかな」と準備を始めようとしていたところ……次の瞬間、大きく長く家が揺れ、東日本大震災が起こりました。とっさに長女を抱えて玄関のドアを開け、外に飛び出しましたが、その後も何度も大きく地面は揺れ、家と車の中を往復しながら震えていたそうです。
すぐに停電してしまったため、車でテレビを見ながら「津波が来るんだ」と言葉としては目と耳で感じてはいるけれど、それがどういうことなのか想像がつかず、ただひたすらにわが子を抱えて余震の恐ろしさに震えていました。その日のうちにマンションの5階にある自宅を確認に行くと、大きな家具を置かずにいた寝室はほぼ無事であったものの、キッチンの吊戸棚や食器棚が倒れ、家電が床に転げ落ちてしまい手が付けられない状態…ひとまず友人宅で3家族の避難生活が始まりました。
石油ストーブでお湯を沸かしてカップラーメンを食べたり、停電で冷えなくなった冷蔵庫の中から冷凍食品を取り出して温めたり、トイレも何回分かを溜めてからお風呂の残り湯をバケツで流す…など、子どもを抱えた3家族が冷静な判断と知恵を出し合いながら、その夜は過ごしたそうです。
「東北全部が被害に遭ったんだ…」この地震の規模を正しく把握したのは、翌日の朝刊を見たときのことでした。
震災当日、そして翌日からは「情報を集めること」が重要になる
未曾有の大震災の経験から、小畑さんは次のように話します。
「災害の種類により判断は異なりますが、河川の氾濫や津波などの水害を受ける可能性がある地域なら、2階への垂直避難や早めに避難所へ行くことをイメージしておくといいと思います。地震の場合、キッチンは他の部屋に比べると食器棚や家電が倒れ、調味料が床にこぼれるなど被害が大きくなりやすいので、吊戸棚や床下収納などに備蓄品を保管すると取り出せなくなります。
避難リュックや水、食料などは玄関やベランダの掃き出し窓の近くに置き、家の中の被害が大きくても取り出しやすい場所に保管するのが良いです」
そして、あまり知られていないのが「避難所に行かず、自宅で避難生活を送る人でも、避難所の給水や物資、食事の配布を受けられる」ということ。炊き出しのお世話になるときには食器の準備があると便利です。
「停電や断水は地域によって状況に違いがあるので、避難所運営をする人や近所の人に断水、停電の情報を聞いてみるのもいいでしょう」とのこと。小畑さん自身は携帯が不通になり電話ボックスの長い列に並んだ際、ともに並んでいた見ず知らずの人に「ウチは水がでるよ」と教えられて給水をお願いしたそうです。まさにこれこそ命の水!心から感謝しながら、おせんべいを差し出すと、とても喜ばれて「こちらまでうれしくて」と困難な日々の中の心温まる想い出を語ります。
買い出しや移動だけでなく、車中避難のことも考えて、日ごろから車のガソリンを入れるときには満タンにしておきましょう」ガソリンスタンドに並ぶ車の長い長い列は、ニュースでも何度も目にした光景…避けられるに越したことはありません。
その避難グッズ、ホントに使える?もしもに備えておきたいモノ
「給水を受けるときには、防災リュックなどにセットされている折り畳み給水タンクよりも、2リットルのペットボトルを数本準備しておいたほうが便利です。給水タンクは10リットル以上のものが多く、満タンにすると10キロ以上になってしまいます。
必ずしも給水所が近くだとは限らないので、誰もが運べる方法を考えておくことも大切です」と小畑さん。確かに、2リットルボトルなら、高齢者や小学生でも1~3本は手に持ったりリュックに入れて運ぶことができますね。水は飲料、調理、洗面、トイレなど用途も多いので、少しずつ別の場所に置くこともできます。
また今後を踏まえて「防災リュックは市町村などから配布されるものもありますが、我が家用に中身のカスタマイズが必要です。常備薬やコンタクト、生理用品などに加えて、コロナを経験した今後は除菌ジェルやマスクも必要になるでしょう。そして、あなたならでは!の大切なもの、大好きなもの、心を落ち着けるものも必ず入れておきましょう」とアドバイスされています。
スマートフォンの充電も満タンに
停電は3日間続きましたが、友人宅の石油ストーブで暖を取り、一部屋に集まることが多く、寒さをしのげたそうです。
懐中電灯は何をするにも片手がふさがってしまうので、手を洗うだけでもかなり不便とのこと。「給油をするときには常に満タンに」と言いましたが、同じように携帯用バッテリーもできるだけ日ごろから充電して持っておくと安心です。
遠く離れた家族や知人に無事を伝えるためには、SNSを活用することもできますし、さまざまな面で2011年からは進化していると感じます。緊急地震速報や災害時の節約モードなど災害が起こるたびに非常時のための機能も充実していきますが、全て、充電ができなければ使うことはできません。
災害時のエネルギー確保は「日ごろの習慣にしておくことが大切」という言葉が、心に響きました。
お話を伺ったのは、子育て防災プロジェクト代表 小畑祥子さん
2012年から母親目線で被災体験を語る防災講座や防災リュックを考える子ども向けワークショップなどを通じて、多くの地域や学校、企業などで活動中。高齢者介護施設で看護師として働く2人の小学生のママ。最近は、某所にて「島クリエイト」にハマり中。
取材・文/みやむらけいこ
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