備蓄は必要な量を持つことが大事
防災というと、真っ先にイメージするのが「備蓄」です。でも、今回お話を伺った、NPOプラス・アーツ理事長の永田宏和さんの著書「防災イツモマニュアル」(ポプラ社)に記載されているものを全部用意するのは、ちょっと面倒だし、正直なところ、そこまで必要ないのでは? と思ってしまいます。
「『備蓄』は、ただ持っていればいいのではなく『必要な量を持つ』ことが大事なんです。災害時は、先日のトイレットペーパーの買い占めなどと比較にならないぐらい、物資はなくなり、電気・ガス・水道も止まるという、遥かにハードな状況になります。そんなとき『ない』ではすまされない事態が起こるんです」(永田さん)
「備蓄」がない場合、一体どんなことが起きるのでしょうか?
水は「備蓄の基本」です
「まず、水が足りない場合。飲まないと、脱水を起こします。物理的にトイレも使えなくなるので、衛生面も急激に悪化。だからといって、トイレを我慢すると病気になるし、節水のために歯を磨かないと、肺炎などの感染症を引き起こします」(永田さん)
災害時の「水」は、飲むだけでなく、まさしくライフラインの要。災害から逃れられても、水がないことで、命を落とす可能性が高まるなんて! また、災害時は、つい後回しにしてしまいそうな「オーラルケア」。実際は、災害時だからこそ、口腔を清潔にしておかないといけないというのも、あまり知られてない情報です。
「あと知っておいて頂きたいのは、避難所には『子供用』の物資は届かない、と思っていた方がいいです。各企業が力を尽くしてくれていますが、支援物資として届くのは、かなり時間が経ってから。だから、お子さんのいる家庭なら、備蓄の中に子どもに必要なものも、入れておくことを忘れないでください」(永田さん)
実際、マスクが届いても大人用のみで、子供に付けさせることができない。履ける靴や、着替えがない、弁当はもらえるけど、おやつはない。と言うことが、避難所では長期間起こっているようです。
備蓄がないと理性が吹き飛ぶ
「さらに備蓄がないと、人は不安感が増し、心がトゲトゲしくなります。だから、ズルをしたり、誤魔化したりしてでも、配給品を余計に確保したり、自分さえ良ければという行動をとる。そのため、些細なことでケンカが絶えないと言う事態が起こっています」(永田さん)
平常時なら、絶対にしないと笑い飛ばせることも、非常時になると、理性は吹き飛んでしまうのでしょうか……。そんなことを自分が起こさないために、今できることはありますか?
「それが『備蓄』です。災害時を乗り切れるモノがあるだけで、心に余裕が生まれます。そして、切迫した状態になると、人は理性が壊れる行動をする、と言う事実を知っておくことが大事です。それならば、切迫した状態を作らないために、自分は何がどれくらい必要なのかを考えて、備蓄すればいいのですから」(永田さん)
人を壊すモノ、人を繋ぐモノ
「この前、数日間停電があったんです。僕は、ランタンを5つ備蓄していたので、特に困ることはなかった。でもご近所の方が備蓄なしで、夜不便だと聞いたので、貸してあげたらとても喜ばれたんです。モノは、取り扱い次第で『人を壊す』こともできるし、『人を繋げる』こともできる。備蓄には、モノ以上の価値があります。自分や大切な家族を、悲惨な状況に会わせないために、必要量の備蓄は必須です」(永田さん)
必要な備蓄の種類や最新の避難情報は
必要な備蓄の種類や最新の避難方法がわかる情報は、永田さんの著書により詳しく紹介されています。
防災イツモマニュアル
編/防災イツモプロジェクト
絵/寄藤 文平
監修/NPO法人プラス・アーツ
ポプラ社
教えてくれたのは:永田宏和さん
永田宏和さん
NPO法人プラス・アーツ理事長。デザイン・クリエイティブセンター神戸 副センター長。日本や海外の行政、企業と連携し「イザ!カエルキャラバン!」「地震ITSUMO」「レッドベアサバイバルキャンプ』など、多くの防災イベントを実施。著書「防災イツモマニュアル」は、被災者・被災関係者からの声を元に、何度も最新情報に改訂し続けている。
Text:池田ゆき
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