質の良い睡眠、休息、ポジティブ思考、運動、入浴なども効果あり
自律神経機能が脳疲労やストレスに関係
疲労回復の基本である睡眠・休息。質のよい睡眠をとって、1日ごとに疲れをリセットするのが理想ですが、中には「疲れが翌日に残ってしまう」と感じている人もいるのではないでしょうか。
そうした睡眠の質に大きく関係しているのが、自律神経の働きです。
自律神経には交感神経と副交感神経があり、日中は脳を興奮させる「交感神経」が優位に、夜はリラックスさせる「副交感神経」が優位になります。しかし、強いストレスを感じていると自律神経のバランスが不安定になり、夜になっても交感神経の働きが下がらなくなってしまいます。すると脳が興奮したままになり、なかなか寝付けなかったり、睡眠が浅く質の悪いものになったりして、疲れが回復できないという悪循環に陥るのです。
倉恒さんは、こうした自律神経の活動低下は、疲労感や睡眠、抑うつと関連していることが明らかになっていると話します。
寝る1時間前は、メール、テレビ、スマホ、激しい運動はNG
では、自律神経のバランスを正常に保ち、質のよい睡眠をとるためには、どうすればよいのでしょうか?
大切なのが、寝る1時間前には、仕事のメールを打つ、テレビを見る、スマートフォンを見る、激しい運動をするなど、交感神経を高めるような活動をしないということ。脳を興奮させずに、リラックスして過ごすことで、寝つきや睡眠の質が向上すると考えられます。
中には、平日は忙しくて睡眠不足になるため、休日にまとめて休息や睡眠とるという人もいるでしょう。現実を考えると、休めないよりはまとめ休みでもとる方が、まだよいといえます。しかし、毎日適切な睡眠時間を確保するほうが、疲労はより効率よく回復するということを、ぜひ頭に入れておきましょう。
休息は1時間おきに5分!
さらに、日中仕事などをしているさいに、効率よく疲れを回復する休息の取り方があるといいます。それは、「1時間同じ作業をしたら5分ほど休息をとる」こと。
リモートワークが増えているなか、在宅で仕事をしていると、つい長時間座りっぱなしになったり、効率悪くダラダラ仕事をしてしまったりすることもあるのではないでしょうか。
そんな人におすすめなのが、仕事を開始してから、55分後にアラームが鳴るようにタイマーをセットしておくこと。仕事に集中していても、アラームが鳴ったらトイレに立ったり、お茶を入れたりと、席を立って少しでも体を動かすようにしましょう。動くことで、末梢循環が良くなり、疲労の蓄積度が軽くなることが期待されます。
「ポジティブ思考」や「笑う」「泣く」でストレスに対処
疲労のもとになるストレスを処理するために、倉恒さんがすすめることが2つあります。
1つ目は、ポジティブシンキング。何事もネガティブに捉えると、ストレスの元になります。ストレスを長く引きずると、神経、免疫、内分泌系の悪循環につながります。そこで、嫌なことをしなければならないときは、「成長するための試練」だと都合よく解釈する、嫌なことはすぐに忘れる、などを心がけましょう。同じ事柄を体験しても、ポジティブにとらえることで、ストレスが軽減されます。
2つ目は、「笑う」「泣く」など、感情を表に出すことです。そうすることで、ナチュラルキラー(NK)細胞の免疫活性が高まり、免疫力が上がることがわかっています。
ストレスと感じることをやめたり、そのことから離れたりできる場合は、そうするのが得策かもしれません。しかし、ストレスの原因を考えても、現実的にどうしても解決できない場合は、自分の中で物事のとらえ方を変えことで、その影響を軽減できる可能性があります。
ウォーキングなどの有酸素運動も○
ストレスを解消し心身をリフレッシュするという意味で、適度な運動をして心地よい疲労を感じるのはよいことです。ウォーキングなどの有酸素運動は、末梢循環を良くし、細胞の修復を早めるため、疲労回復の効果があります。
ウォーキング以外におすすめなのが乗馬です。乗馬には、有酸素運動の効果とともに、アニマルセラピー的な癒しの相乗効果が期待できるといいます(※2)。倉恒さんによると、乗馬を取り上げた研究では、馬と触れ合うことで気分の落ち込み、イライラ、不安感に差が出ることなどがわかっているそうです。
ただし、思い疲労のときに無理して運動をすると、かえって疲れてしまうので注意が必要。運動は、疲労が軽いときに行うようにし、運動の習慣は、そもそも疲れにくい体をつくるために有効だと考えるのがよいでしょう。
入浴、アロマセラピーも高い効果が期待できる
倉恒さんたちが大阪府民1219人(15~65歳)を対象に行ったアンケート調査(※3)によると、最も多くの人が日常生活の中で疲労回復効果を実感しているのは「入浴」でした。
倉恒さんによると、入浴はマッサージ効果と温熱効果が得られ、通常の疲労の場合は、高い疲労回復効果が期待できるといいます。ただし、入浴にもエネルギーが必要です。重度の疲労の場合は、入浴によってかえって疲れてしまうことも。自分の疲労の状態を見極めたうえで、適切に入浴することが大事です。
また、香りについては、いくつかの動物実験の研究報告があります。
ネズミに負荷を加えて疲れさせるとネズミの活動性が落ちてきますが、その疲れたネズミに緑の香りをかがせると活動量が増加するという研究報告や、サルに緑の香りをかがせて単純作業をさせると、作業能率が落ちにくいという研究報告もあります。疲労によって活動が下がる脳の前帯状回(ぜんたいじょうかい)という部分が活性化し、活動が下がりにくくなると考えられています。
さまざまな疲労解消法を紹介しましたが、何をするにしても、自分が好きなものでなければ効果は得られません。いろいろと試してみて、自分に合ったものを取り入れることが大切だといえます。
とくに、自律神経に異常がみられる場合には、疲労解消法の前後で自律神経機能の変化をチェックして、自分にあった取り組みをみつけることも大切です。
2020年11月より、倉恒さんが代表を務める株式会社FMCCのアプリを用いて携帯電話を用いて調べることができるようになりました。ストレッチなどの取り組みの前後で調べることにより、自分の変化を客観的にチェックすることができますよ。自分ではわからない自律神経系の機能評価をご希望の方は、無料アプリ(脳疲労・ストレススキャン)(※4)でチェックしてみてください。
●参考文献
※1 "Fatigue Science for Human Health", Watanabe, Y., Evengard, B., Natelson, B.H., Jason, L.A., Kuratsune, H., Springer
※2 「馬介在療法の科学的効果」(「畜産の研究」第65巻第1号 2011年)
※3 生活者ニーズ対応研究:疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその制御に関する総合研究より
※4 無料アプリ(脳疲労・ストレススキャンはappのみ/2021年4月からandroid版リリース予定)
教えてくれたのは、倉恒弘彦(くらつね ひろひこ)さん
株式会社FMCC代表取締役、大阪大学招へい教授、大阪市立大学客員教授。1987年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。2003年より大阪市立大学客員教授。2009~2017年東京大学特任教授。2020年より株式会社FMCC代表取締役、大阪大学招へい教授。厚生労働省「慢性疲労症候群に対する治療評価と治療ガイドラインの作成」研究班代表研究者、日本疲労学会理事などを務める。著書に『危ない!「慢性疲労」』(共著、NHK生活人新書)など。
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