今回お話を伺ったのは、木村章子さん(49歳)
幼少からバレエに加え、8種類を超える楽器を習い、お嬢様大学を卒業。その後は、社会人バレエダンサーとして活動すると同時に、自らの衣装を製作し続ける三刀流生活を、なんと20年超! その反面、会社の仕事は自分の適性と合わず、悶々とする日々……。そこで、洋裁の基礎を学ぶために、自ら動き出した結果、人生を大きく変える第一歩を踏み出すことができました。
8歳から始めたバレエ、衣装を作るのは当たり前だった
ーー最初に、バレエ衣装について教えてください
木村さん:バレエは、8歳からやっていました。今は、レンタル衣装が流行っていますが、当時はそのシステムがなくて、バレエ団で自作するしかなかったんです。もしくは、当時の先生方が、横の繋がりを駆使して、手持ちの衣装を貸し借りし合っていました。
余談ですが、衣装作りに王道のメソッドって、ないんです。日本で初期にバレエ衣装を作り始めた方は、ロシアのバレエダンサーの衣装を借り、それをほどき、型紙を取って作ったのだそう。そこから、作り方が全国に広まっていったので、各バレエ団それぞれ独自の衣装製作方法があるんですよ。
実は、今もダンサーとしても、年1回は舞台に出ることを目標に踊っているんです。そのたびに、衣装の構造をマイナーチェンジしながら、自分の体で仕様やデザインの研究をしています。
こうさらっと語る木村さんですが、バレエ業界で「踊れて衣装を作れる人」は、かなり希少な存在です!
作ってみたら……できちゃった、バレエ衣装!
ーー本格的に衣装を作ったのは、いつ頃ですか?
木村さん:小学生ぐらいまでの発表会は、バレエ団の先生が生徒に合わせて、衣装を作ってくれていたんです。だから、子どもの頃から「衣装は作れるものだ」と、思っていました(笑)。
26歳の頃、バレエスタジオを移籍して、衣装はバレエ団が用意するのではなく、ダンサー自身で用意するスタイルになったんです。そこで「だったら、自分で全部作ってみようか」と思って、実際に作ってみたらできちゃった、という感じです(笑)。
ーーいきなり衣装が作れたのは、なぜだと思いますか?
木村さん:幼い時からずっと、先生方が作っていた衣装を見ていたこと。元々、子どもの頃からミシンで何か作ったり、絵を描いたり、創作することが好きだったんです。それに加えて、子ども向けですが、ちょうどバレエ衣装の手作り本が発売されたので、それを参考にできたのも大きかったと思います。
バレエダンサー・衣装製作者として創造性を満喫していた木村さん。でも実は、他にやりたかったことがあったそうです。
ーー高校卒業時、何がやりたかったのですか?
木村さん:私、美しいお菓子を作ることが好きなんです。バレエもそうですが、非日常的でキラキラしたものに惹かれてしまいます。だから高校卒業後は、バレエかパティシエの専門学校に行きたかった。でも、家庭の環境的に、大学に進学するという選択肢以外は考えられませんでした。就職先も、親の紹介。自分の人生なのに、自分の意志ではなく、周りの大人が喜ぶであろう結果を先読みして選ぶ生き方をしてきました。
そんな木村さんですが、ついに30歳の時に一人暮らしを始めます。
プライベートは充実、でも会社員としてはイマイチ
ーー30歳で一人暮らし、当時の状況は?
木村さん:バレエに関しては、セミプロとしてソリストの役をいただいたり、人生初のパリ・オペラ座を生鑑賞したりと、まあまあ順調だったのですが……。仕事は、自分の適正に合わない部署に異動になり「会社やめようかな」と落ち込むようなことがありました。
その後、幸いにも異動の話がありECサイトを管理する部署に移ったのですが、そこも徐々に合わなくなり、ついに会社を辞めてしまおうかと思うまでに。そこで、ちゃんと勉強したいと思って、洋裁の基礎(パターンと縫製)を学ぶために、専門学校の社会人コースに入学することにしました。
ーー洋裁の基礎を学んで、わかったことは?
今まで感覚的に作っていたんですが、ちゃんと学んだことで、理論に裏付けされた技術を身につけることができました。だから、今は躊躇なくパターンが引けるようになったんです。
そのころ、再度部署が変わり、木村さんは、やっと働きやすい職場環境を得ることができたそうです。その後、ホームページを立ち上げ、衣装製作者としての活動もますます盛んに!
ーーホームページを立ち上げて、うれしい誤算があったそうですね!
木村さん:ホームページが、勝手に営業してくれるんです(笑)。それは、本職でやっているECサイト運営で養った知識のおかげ。そのあと、インスタグラムも立ち上げ、問い合わせや注文が国内外を問わず入るようになりました。
そこで、さらに衣装製作の技術を高めるため、「いつか勉強してみたい」と思い続けていた、東京の文化服装学院のバレエ衣装製作講座に通うことにしたんです。ほぼ毎週、約1年間、大阪から新宿まで通っていたので、受講料の5倍交通費がかかりましたが(苦笑)。このころから、なんとなく自分の本業を「バレエ衣装」にしてもいいのかもという気持ちが高まってきたのを覚えています。
ーーその後、会社を辞めるきっかけになった、出来事があるそうですね
小中高の同級生だった友人が、急性白血病で亡くなってしまったんです。その友人は起業していて、年々規模も大きくなるほど、仕事を頑張っていた人でした。そんな人の人生が、急に終わりを迎えるなんて……。「よく考えたら、私ももうすぐ50歳やし、残り時間少ないやん」って、気づいたんです。
実はその数年前、会社で希望退職を募る機会がありました。でも、同期でたった一人、私だけその対象条件から外れていて。その時「(退職のために)何も準備してないから、対象者やないんやで」って、天の声が聞こえたようが気がしたんです。事実自分は、ただ作りたい衣装を作っていただけで、起業に向けての準備は、一切やっていなかったから。
その頃から、ようやく本気で起業のための準備を始めました。
ーー具体的には、どんなことをされたのですか?
衣装製作は水物です。注文が入らないと収入にはならないため、もう1本収入の柱が必要だと思いました。でもそれが何かわからなくて、悶々としているとき、お風呂で閃いたんです。「あっ、そうやん、人に教えればいいんちゃう!?」って。衣装って、色と形のバランスがよかったら、カッコよく見えるんです。これは、プロダクトやグラフィックデザインの基本ですが、衣装の世界では知らない人が案外多いことに気がついて。
その後、木村さんは専門学校での講師のお話などもあり、昨年退社。現在は大阪で「Costume Lab.」という講座を行いながら、ついに衣装製作を本業として活躍されています。
ーー独立した、今のお気持ちを聞かせてください!
2018年から「自分の手足を使って動く」ことを始めたら、ガラガラと世界が変わってきました。長年無意識レベルで縛られていた「周囲の顔色を見ながら動く」という固定観念もなくなって。「自分で動けば、何かが変わる」という感覚が掴めたので、これから何があっても、なんとかなるだろうと思っています。
saita読者へアドバイス
そんな彼女から、saita読者にエールをいただきました。
木村さん:私みたいに、何十年も会社員として働いている方が、会社を辞めて起業するとなると、ものすごいパワーが必要です。だから、もし起業を考えているなら、できるだけ早い方がいい。年を取るほど、体力もなくなってくるので、人の力を借りてでも、早く動いた方がいいです。
同時に、人生に悶々としている人がみんながそこ(起業)までする必要もないと思っています。
ただ双方に1つだけ共通するのが「自分の頭で考えて、自分の手足で動くこと」。この実感を持つことができれば、ワクワクする時間につながっていくと思うんです。
私もそうでしたが、同年代には「周りの期待に合わせようとする方」が多いように感じます。でもそれじゃ、もったいない。自分の頭で考えて動くと、すごく楽しいですよ。最初は小さいことでもいいので、自分で考えて、実際に動いてみてください。
5月27日(土)~29日(月)まで、大阪市内で「バレエ衣装展示会&撮影会」というイベントを開催されるそう。
バレエをやっていない人でも楽しめる企画や、展示会で初めて公開するアイテムもあるとか!
(詳細はHPまたはInstagramでご確認を!)
人生は100年時代に突入しています。40代だって50代だって、何かを始めることに遅いなんてことはないんですね。
木村さんのバレエ衣装ブランド
Jardin des Costumes(ジャルダン デ コスチューム)
HP:https://jardin-des-costumes.com/
Instagram:https://www.instagram.com/jardindescostumes/