教えてくれたのは……中澤佑介(なかざわゆうすけ)先生
金沢医科大学医学部医学科卒業。日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医。
「患者さんに近い立場で専門的医療を提供したい」という思いで2021年、なかざわ腎泌尿器科クリニックを開設。2023年6月、JR金沢駅前にメンズヘルスクリニック(Gran Clinic)を開院。
「男性更年期」受診のきっかけとなる“変化のサイン”7つ
前回の記事では、「男性更年期を発症しやすい年齢」や「よく見られる症状」についてご紹介しました。近年増えているとされる男性更年期。実際に、どのようなきっかけで受診に至る方が多いのでしょうか。
中澤先生によると、以下のような変化を感じて受診するケースが多いのだそうです。
- 眠れない
- すぐに疲れる
- 仕事の能率が落ちた
- パートナーとの関係に影響が出てきた
- メタボ検診で引っかかった
- 朝の勃起が減った
- 性欲が明らかに落ちた
中澤先生「なかでも『朝の勃起が減った』『性欲が明らかに落ちた』といったサインは、男性更年期の重要な手掛かりになります。3か月以上続いて生活の質が落ちていると感じたら、受診のタイミングです。」
診断から治療までの一般的な流れ
男性更年期の診断では、「症状があるから」「数値が低いから」だけでは判断できず、症状とホルモン値の低下の両方がそろっていることが診断のうえで重要なポイントだと、中澤先生は言います。診断方法や主な治療方法について教えていただきました。
中澤先生「初診では、症状や生活習慣、持病・服用薬(育毛薬、睡眠薬、ステロイド、オピオイドなど)を丁寧に確認します。次に、午前中(できれば11時前)の空腹時に別日で2回、総テストステロンを測定します。必要に応じて、体内で実際に使われている男性ホルモンの状態や、ホルモン分泌をコントロールする脳の働き、ほかのホルモンバランスに異常がないかを調べる検査も行います。
これらの結果と合併症の有無を踏まえ、生活習慣の立て直し(減量、運動、睡眠、飲酒・喫煙の是正)を優先し、適応があればテストステロン補充療法(TRT)やED治療薬などを検討します。開始後は3~12か月で効果と副作用をチェックし、長期は6~12か月ごとにフォローします。」
診断方法
中澤先生「診断は、『症状』に加えて『一貫した低テストステロン』の両方が必要です。具体的には、午前中の別日2回の総テストステロン測定が基本で、数値が“低いとも正常とも言い切れない範囲”にある場合や、ホルモンの結合状態に問題が疑われる場合には、体内で実際に働く男性ホルモンの量をより詳しく評価する検査を併用します。
LH/FSH で精巣性か下垂体・視床下部性かを鑑別し、必要に応じてプロラクチンや甲状腺機能、糖代謝、睡眠時無呼吸の評価を行います。治療は、症状が明らかで検査でも低値が繰り返し確認でき、他の原因(薬剤性、急性疾患など)を除外した場合に検討します。」
主な治療方法3つと、その特徴
1.生活習慣改善:すべての患者さんに推奨される基本のアプローチ。減量(特に内臓脂肪のコントロール)、レジスタンス+有酸素運動、睡眠衛生、飲酒・喫煙の是正、薬剤見直し(オピオイド・ステロイドなど)を行う。
2.テストステロン補充療法(TRT):注射や経皮(ゲル/クリーム/パッチ)などの方法があり、ホルモン値を基準範囲の中ほどに維持して症状の改善を目指す。
3.併用療法:ED治療薬(PDE5阻害薬)や、挙児希望(子どもをもちたいと思っている)がある場合にはTRTを避け、hCGや選択的エストロゲン受容体調節薬(例:クロミフェン)を検討することがある。適応や入手は施設に確認が必要。
※挙児希望がある方は、TRTは原則避けます。重度の睡眠時無呼吸がある方は、その治療を先行します。
見逃されがちな症状に要注意。じつは別の病気であるケースも
男性更年期は、典型的な症状が目立たないケースもあり、以下のような背景がある場合も慎重に評価を検討する必要があるとのこと。また、男性更年期だと思って受診したら「じつは別の病気だった」ということもあるため、気になる症状がある場合には、専門医の診察を受けることが健康な毎日への第一歩につながります。
意外と知られておらず、見逃されがちな男性更年期の症状
中澤先生「男性更年期に関連する所見として、原因不明の貧血、繰り返す骨折や骨粗しょう症、脂肪型内臓肥満の憎悪、糖代謝の悪化、いびき・日中の眠気(睡眠時無呼吸)、不妊や性腺機能低下の既往などが挙げられます。こうした背景がある方は、典型的な症状が目立たなくても評価を検討します。」
別の病気が隠れている場合
中澤先生「代表例は、うつ病・不安障害、甲状腺機能低下症、重症の睡眠時無呼吸、慢性肝疾患・腎疾患、貧血、薬剤性(オピオイド、ステロイド、抗うつ薬など)、高プロラクチン血症、アルコール関連障害などです。症状が重く急に悪化した場合や、神経学的所見・著明な体重変化がある場合は、内分泌腫瘍や重篤な心身疾患の鑑別が必要です。」
男性更年期を改善するために「家庭でできる生活習慣」の見直しポイント
最後に、日常生活の中で取り入れやすい対策について教えていただきました。サプリメントや未承認ホルモンに頼るのではなく、「生活介入+医療(適切な診断とモニタリング)」を組み合わせることが大切だと、中澤先生は言います。
中澤先生「最優先は、減量(腹囲のコントロール)と睡眠の是正です。夕食の時間帯を早め、糖質とアルコールの過剰を避け、たんぱく質と食物繊維を十分に摂ることを意識しましょう。運動は、週150分以上の中等度有酸素運動と、週2~3回の筋力トレーニングを目標にします。就寝前のスマホの使用やカフェイン摂取を控え、寝室環境を整えることも有効です。サプリや市販の“テストステロンブースター”は、効果や品質が一定でないため推奨しません。」
男性更年期は、早めに気づいて向き合うことで、心身の不調を軽減し、日常生活の質を取り戻すことができます。とはいえ、パートナーに「もしかして更年期かも?」と伝えるのは、少し勇気がいるもの。次回の記事では、夫に上手に伝える方法について、中澤先生に“言葉選び”のコツを教えていただきます。
参考文献:
1. 日本泌尿器科 /日本学会 Men’s Health 医学会. LOH 症候群(加齢男性性腺機能低下症)診療の手引き. 2022.
2. Bhasin S, et al. Testosterone Therapy in Men With Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab.2018.
3. Mulhall JP, et al. Testosterone Deficiency: AUA Guideline (2018; 2020amendment). J Urol. 2018.
4. Wu FCW, et al. Identification of late-onset hypogonadism in middle-aged and elderly men. N Engl J Med. 2010.
5. Nissen SE, et al. Cardiovascular Safety of Testosterone-Replacement Therapy (TRAVERSE). N Engl J Med. 2023.
6. 体重減少・運動の効果に関する総説・メタ解析(例:Corona G, et al. Obes Rev. 2013 ほか)。
※本回答は医学的根拠に基づいて作成しています。個別症例の診断・治療は実際の受診と検査に基づき医師が判断します。





