教えてくれたのは……菅原 健(すがわら たけし)先生
健友堂クリニック院長。健康科学大学特任教授・山梨大学医学部非常勤講師。
漢方専門の診療所/健友堂クリニックの院長を務め、毎日の診療の傍ら、漢方医学を多くの人に知ってもらうために医学部や看護学部での講義や本の執筆も行う。著書に『方輿輗解説』(たにぐち書店)『知られざる日本漢方の力』(幻冬舎)など。
更年期の気になる症状1:「ホットフラッシュ」
更年期の症状のひとつとされる「ホットフラッシュ」。暑くないのに「ほてり」や「のぼせ」などの不快感があり、つらい思いをしている方も多いかもしれません。
菅原先生によると、ホットフラッシュには2つのタイプがあるのだそうです。
- からだの水分が多いことによる「むくみ」が原因のもの……発作時に大量の汗をかくのが特徴。
- 血管緊張性によるもの……頭は熱くのぼせるけれど、普段足は冷たいことが多い。発作が起こると頭の熱さは数倍になるが、汗はそれほどかかないのが特徴。
ホットフラッシュに有効な食材とは
2つ目の汗をかかないタイプのホットフラッシュに有効とされるのが「カカオ」とのこと。なぜカカオが効果的なのか、その理由を教えていただきました。
ホットフラッシュのほかに、緊張性ののぼせにも効果的なのだそうですよ。
菅原先生「カカオは、神経緊張や血液循環安定作用が期待できる食物です。カカオにはトリプトファンやテオブロミン、カカオポリフェノールといった成分が入っています。精神緊張を緩め、自律神経を安定化させて、さらに血液の流れを整える効果があります。
緊張性ののぼせの場合は、緊張しそうなときの1~3時間前に摂取するのがおすすめです」
「カカオ」の上手な摂り方
菅原先生「カカオについては、明治製菓と愛知学院大学大沢教授の研究に書いてありますが、研究対象者にカカオ72%のチョコレートを1日5枚(25g程度)を4週間食べてもらったところ、血圧が下がり(自律神経調整作用)、悪玉コレステロールの値も下がり、うつや不安症の抑制に関係するBDNFという因子までも増えたという実験結果があります。
更年期になると不安が増して自律神経も安定しなくなるので、チョコレートは効果的です。この実験結果ではカカオの適正量まではわかっていませんが、1日約20g相当のチョコレートやココアを摂取するとよいでしょう」
参考:明治製菓「チョコレート摂取による健康効果に関する実証研究」
更年期の気になる症状2:「性交痛」
更年期を迎えた女性は、性生活でも変化が出やすい時期だと言われています。他人に相談しにくいのが「性交痛」ではないでしょうか。
「中年以上のセックスレスの原因の多くは痛みによるものであり、潤滑をよくする漢方薬を処方すると驚くほど感謝されるため、私たちが思っている以上に性交痛の悩みを抱えている女性は多いのだと思います」と、菅原先生はおっしゃいます。
性交痛に有効な食材とは
そこでおすすめなのが、膣や肌の乾燥に有効とされる「ふのり」を摂取することなのだそうです。なぜふのりが効果的なのか、その理由を教えていただきました。
菅原先生「ふのりは海藻の一種です。乾燥した状態で売られており、味噌汁などに入れて食べるのが一般的です。お湯に戻すと、ヌルヌルした状態になります。実は、ふのりはかつて遊女が性交する際の潤滑剤として使用されていました。
海藻の滑る性質がよいとされているので、メカブや松前漬けの昆布などでも同様の効果はあると思われます。しかし、ふのりの独特なぬめりの成分であるフノランは凝固しにくい特徴があり、寒天などとは異なります。さらに、抗酸化作用やコレステロール低下作用もあるため、海藻類ではふのりがベストだと言えるのではないでしょうか。
また、麦門冬(ばくもんどう)という潤滑成分の多い生薬でも膣や唇の乾燥に効果があるとされているので、メカブやツルムラサキ、サトイモなども潤滑の効果はあると思われます」
「ふのり」の上手な摂り方
菅原先生「夜に必要なので、夕食時に多くて4g(目安)を汁物に入れて食べるのがよいと思います。
ふのりは粘膜の乾きに対しては即効性があると思いますので、明確な日数は不明ですが、まずは一週間から一ヶ月試してみてはいかがでしょうか」
誰もが通る道の更年期。「更年期だから」とあきらめてしまわずに、改善に有効な食材を食生活に取り入れてみませんか? 少し意識をするだけでも、QOLの向上につながるかもしれませんよ。
参考文献:校正方輿輗解説講義(婦人門) 著者:菅原健