教えてくれたのは……藤野智哉先生
精神科医。産業医。公認心理師。
幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。学生時代から激しい運動を制限されるなどの葛藤と闘うなかで、医者の道を志す。現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。障害とともに生きることで学んできた考え方と、精神科医としての知見をメディアやSNSで発信中。
『「そのままの自分」を生きてみる』
著者:藤野智哉
価格:1,760円(税込)
発行所:ディスカヴァー・トゥエンティワン
一人でがんばらなきゃと思っていませんか?
職場や家庭でやることがありすぎて、いっぱいいっぱいになりそうなとき。まわりの人にサポートしてもらったり、協力してもらったりすることで、大変な状況をのりきれることがあります。とはいえ、そんな状況に陥ったときでも「助けを求めるなんて相手に申し訳ない」「これくらい一人でがんばらないと」と、自分を追い込んでしまうこともありますよね。
精神科医の藤野智哉先生は、「助けを求めるって、なんだか弱々しいイメージがあるかもしれませんが、人に頼った方がものごとがうまくいくケースって、じつは結構あるんです」とおっしゃいます。
藤野先生 「たとえば仕事の締め切りが迫っていて、一人では絶対に終わらないけど、誰かと分担すれば間に合うとします。この場合、人に頼むということは、仕事を効率的に進めるための“手段”ですよね。成功するための“武器”ともいえるかもしれません」
まずは許容できることから頼んでみよう
「人に助けを求めるのは、成功するための手段。そんな“ポジティブな言い訳”を自分にすると、頼みごとをしやすくなります」と藤野先生。それでも、はじめの一歩がなかなか踏み出せないこともあるかもしれません。
藤野先生 「相手に断られたらどうしよう、人にまかせるより自分でやったほうが安心できる。そんな気持ちが出るのは自然なことです。そういう場合は、いきなりタスクすべてをまかせるのではなく、自分がギリギリ許容できそうなこと、許容できる量を、まずは頼んでみましょう」
藤野先生 「たとえば家事なら、『日曜だけは昼ごはんを作ってもらえる?』『洗濯ものはTシャツだけたたんでほしいな』とパートナーや子どもに頼んでみましょう。職場であれば、『木曜日だけはどうしても残業ができないので、○○の業務だけお願いできますか』と同僚や上司に依頼してみてもいいですね。初めは不安かもしれませんが、実際に頼んでみると、意外とみんなすんなり引き受けてくれた、人にまかせても大丈夫だったという感覚を得られると思います。練習して大丈夫だったという経験を積み重ねていくことで、0から0.1、0.2……と、少しずつ頼めることが広がっていきますよ」
がんばらない方法を考えてみよう
藤野先生 「自分だけでなんとかしようとすると、今のままじゃダメ、強くならなきゃ、変わらなきゃという思考に陥りがちです。でも、一人でがんばるより、がんばらなくても同じ結果を出せる方法がないかと考えてみることも結構大事だと思うんです」
藤野先生 「木に例えるなら、添え木をしたり、真横にもう1本同じ木を立てれば風による負担は分散され、無理に1本の木の幹を太くしなくても済みますよね。自分の能力をよく把握して、状況に応じて人に頼るというワザを使える人は、むしろ優秀だと思います。持っている武器は、多いほうがいいですよ」
まずは小さなことを頼んでみる。それがうまくいったという成功体験を積み重ねることで、人に頼る力を養っていけるのですね。次回は、「自分の心のクセを知って人生をラクに生きるヒント」について、藤野先生に教えていただきます!