お話を伺ったのは…ともこさん
「寅さん」ファンが高じて映像制作に挑戦したり、ファッション系の学校でイラストを学ぶなど好奇心旺盛な37歳。企画・デザイン、ショップディレクション等を行う会社を経て、現在はIT企業勤務。骨董市巡りで古い雑貨を探すのが大好き。最近の癒し&推しは、幼なじみのところに生まれた赤ちゃん。すくすく成長する様子を愛でることにハマっているとのこと。金継ぎ歴は4年ほど。
そもそも金継ぎって?
「金継ぎ(きんつぎ)」と聞いてすぐ理解できる人はどれほどいるでしょうか?なんとなく「割れたお皿をくっつけるのよね」くらいはわかるものの、陶芸に比べると、習い事としてはマイナーな印象がありますよね。
一見、どこが割れていたのか分からないほどですが、左上の赤と金色の部分に注目。では、種明かしは後ほど…
会社の備品を直すために金継ぎ教室へ
ともこさん「実は以前勤めていた会社で、社長がとても大切にしていた来客用のお茶碗があったんです。ある日、お客さまにお茶を出そうとしたら、少し欠けていて慌てました。作家もので、しかも1点ものの貴重なものだったので、どうにかできないか…と調べていたときに、辿り着いたのが金継ぎだったんです。」
※写真は、ともこさんの金継ぎ作品ですが、当時の会社のものではありません。
気軽に楽しめるモダン金継ぎ
ともこさんは、最近人気のモダン金継ぎ(英名:Modern Kintsugi)という技法で金継ぎの技術を学び始めました。その他にも長い歴史を誇る、伝統金継ぎ/本漆金継ぎ(Traditional Kintsugi、あるいはKintsugi)という技法もあり、こちらはパテや接着剤などを使用せず、天然素材だけを使う本格派。ただし、完成までに時間と費用が簡易金継ぎよりも必要になり、漆(うるし)を用いるので作業中に肌に付着するとかぶれの原因になることも。
会社のお茶碗を復元するために同僚と一緒に金継ぎを習い始めると、想像以上の満足感と達成感、そして「ドはまり」の予感がしたそう…。その後同僚たちがそれぞれ「卒業」していったあとも教室に通い続けています。
愛着ある器に新たな命を
ともこさん「バラバラに割れてしまっていたのに、どうしても捨てられず紙袋にいれたまま取っておいたのがこのお茶碗です。これがまた使える!と思うと嬉しくて、全ての作業に没頭しました。破片の断面を丁寧に削って整える作業では無心になれるし、それらを組んで元の形にしたときのときめき、漆で割れた箇所に慎重に線を引くときの緊張感…これらは映像やイラストでは味わえなかった感覚でした。それに飾るだけじゃなくて日常の道具としてまた使える!というところにも器だけじゃなくて、自分自身も救われました。」
ゼロからイチを生み出すのは苦手
小さい時から絵が好きで、美術系の進路を考えたこともあるほど。しかし「意図しない方向で作品が評価される、ということになじめなかった。」と振り返ります。そして「映像制作も絵を描くのも好きだけど、そこに自分自身を投影するとか、自己表現をすることは望んでいなくて…きっとゼロからイチを生み出すタイプではなく、私は材料やお題がある中で自分なりのセンスや個性を出す方が向いているみたいです。」と自己分析します。
修理を超えた金継ぎの世界
最初にお見せしたお皿の裏がこちら。失われた破片部分をパテで補い、表には柄を描き、裏には彫刻刀で模様を掘っています。ここまでくると、もう修理や復元ではなく立派なアート。ともこさんの感性が充分に発揮されています。
こちらはお友だちと旅行中にフランスで購入した思い出の品。数枚あるうちこの1枚が数か所欠けてしまい金継ぎの技でしっかり修復。
このように欠けを直して、無事にお気に入りのお皿として活躍中。
こちらも欠けた部分にパテをこんもりと盛って、アクセントに。とても使いやすそうなサイズの浅鉢です。
「えっ?これも金継ぎ?」と驚いたのが、この抹茶茶碗。失った破片部分をパテで埋め、ビーチグラスや古いお皿の欠片、ビーズなどで飾り、唯一無二のアート作品となって生まれ変わりました。普通なら割れて、しかも欠片が無くなってしまえば、間違いなく捨てられる運命ですが、金継ぎの技術とともこさんのセンスによって新たな命を与えられました。
習い事からライフワークへ
器が欠けたことがバレないように修復するために習い始めた金継ぎが、今ではともこさんのライフワークとなっています。「先生がとても褒めてくださるのでやる気も出るし、習いに来られている方々が素敵な方ばかりなので、教室の雰囲気がとにかく好きで…」と、金継ぎ教室がともこさんにとって大切なサードプレイスになっていることが伺えます。技術を学び作業に没頭できることはもちろん、それ以上に「大切な居場所」を得られるのは、もっと幸せなこと。
そんな心休まる場所を見つけるために、ちょっと気になる習い事をこの春から思い切って始めてみるのもいいかもしれませんね。