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「長年の夢…カフェをやろう」やりたいことは後回しにしない。深い悲しみを乗り越えた藤井夫妻の物語│後編

家族・人間関係

 「長年の夢…カフェをやろう」やりたいことは後回しにしない。深い悲しみを乗り越えた藤井夫妻の物語│後編

2022.11.12

夫婦の数だけ、夫婦の形があります。多様なパートナーシップのあり方を紹介することで、これからの夫婦の時間をより豊かに前向きに過ごして欲しい。「夫だから/妻だから、こうしなければいけない」と思い込むことをやめて、もっと自由に、夫婦という"一番近い、他人との関係性"を楽しんでほしい。そんな思いからスタートした連載企画「夫婦は続くよ、どこまでも」。今回は、50代後半で「コミック&クラフトカフェ」をオープンした藤井ノブタカさん・マキさんご夫妻のインタビュー後編です。

同級生夫婦のふたり。山口での初めての出産を経て、滋賀での暮らしが始まりました。働き盛りで多忙な夫を支えつつ、家事と育児の合間にマキさんは、トールペイントや木工クラフトと出会い、自らの世界を拡げていきました。

子育て中に出逢った「トールペイント」

ムーミンカフェの看板は、マキさんの原点となったトールペイントの作品。
ポニーのマークは、新婚時代に長い髪をポニーテイルにしていた頃からのマキさんのシンボル。

念願だったノブタカさんの関西への異動は、本社のある大阪ではなく滋賀。生後11か月のユウキくんと3人の新生活がスタートしました。「たくさん散歩をしましたね。ユウキは歩くことや数を数えることが好きでした。野草の本を持って出かけては、植物を観察したり…。」当時若手社員のノブタカさんは出張も多く、育児はマキさんのワンオペ。出張から自宅に戻ると人見知りをするユウキくんに泣かれたこともあったとか。やがて次男のリュウスケくんも誕生し、ユウキくんが幼稚園に通いだした頃、PTAのイベントでマキさんはトールペイントと出会います。

トールペイント出典:www.ac-illust.com独特なタッチの花やドールなどを木製素材に描くのが
「トールペイント」の特徴です。

トールペイントとは、予め決められた下絵を木製の素材に写し、塗り絵の要領でアクリル絵の具で彩色するアートで、当時大人気の主婦の習い事のひとつでした。「普通は木の素材は専門店で購入して、そこに絵を描くのですが、オリジナルな木製素材を作りたくなって…電動の糸ノコギリで作っていました。」そうして木を切っているうちに、木工にも目覚め、木製雑貨や家具まで手作りするほどの腕前に!!

クラフト仲間と自宅ショップを開店!

自宅ショップ自宅を開放して、仲間たちと作品を持ち寄り販売する
「自宅ショップ」は開店前に大行列ができるほどの人気に!
この活動は、年に3回、5年間続きました。

持ち前の好奇心で、トールペイントや木工をきっかけにパッチワークやワイヤークラフトなど、どんどん活動の場を広げたマキさんは、クラフトで知り合ったママ友を誘い、手作り作品の「自宅ショップ」を始めることに。「10名のメンバーで10個ずつ持ち寄れば、それで100個になるでしょう?忙しい育児中に作品を作る張り合いにもなるし、購入してくれる人にも喜んでもらえるし…本当に幸せな時間でした。」回数を重ねるごとにメンバーのアイデアも冴え、スキルもどんどん上がり、いつしか「街では売ってない、おしゃれでかわいいものが手に入る」と評判を呼び、開店前に行列ができるほどの盛況となりました。

まこちゃんいつも優しい笑顔がトレードマークのマキさん。
作家活動をノブタカさんも誇らしく思われていたようです。

「ショップの前の日には、可愛らしく雑貨がディスプレイされたリビングで夕飯を食べたこともありましたね(笑)。喜んでくれるファンの方がいるというのは、スゴイこと、たいしたモンやなぁ…とは思っていましたよ。」と、語るノブタカさんはとても満足そう。マキさんの世界が広がっていくのを頼もしく、誇らしく思われていたようです。

クラフト作家・講師への道

クラフトマキさんのクラフトは、動物の骨格まで徹底的に調べて作られているので
どれも本物そっくり!

自宅ショップが人気になると、手仕事に興味のあるお客さんや友だちから依頼を受け、小さな教室を自宅で開きました。ホームページで作品を公開していると、口コミでそのクォリティと温かなマキ先生の人柄が評判を呼び、また家具や雑貨のオーダーの受注も始め、作家・講師としての道が拓けました。

突然夫婦を襲った悲しい出来事

悲しみ出典:www.photo-ac.com子を持つ親にとって子どもを亡くすことほどの不幸はありません・・・。

ノブタカさんの仕事もマキさんの活動も順調だった今から15年前、突然の不幸が藤井家を襲いました。高校3年生、長距離の練習に励んでいた陸上部も引退し、あとは卒業を待つばかりだった長男ユウキくんが8月のある日、突然自宅で倒れ、緊急入院。小脳梗塞を発症しており、治療が尽くされましたが、ご家族の祈りは届かず、短い生涯を終えてしまいました。
その時のご家族の思いを想像するだけで、胸が苦しくなる出来事です。そんな苦しみを、一緒に涙を流しながら、共に受け止め合いながら、お互い支え合いながら生きてこられたのでしょう。

空出典:www.photo-ac.com深い悲しみも、同じ思いを持った家族と一緒なら、乗り越えられる!

マキさんが振り返ります…「夫がユウキの入院中を家族で乗り越えようと決め『みんなで病院に泊まろう』と言ってくれたり、ユウキを見送るときに次男のリュウスケが『お母さんが泣いてたらお兄ちゃんが悲しむ』と声を掛けてくれて…しっかりしなくては!と思えるようになりました。いつもどんなときも家族の言葉が心の支えになってるなと改めて思いました。」

ユウキくんが教えてくれたこと

虹出典:www.photo-ac.com今までの生活を一新するきっかけは、もしかするとユウキくんが与えてくれたのかも。

ユウキくんが亡くなった翌年の春、マキさんは仕事帰りに体調不良をを感じて病院へ。「実はずっと体力自慢で(笑)不死身だと思ってたんです。寝なくても動けるし、忙しい時でもドリンク剤を飲めば大丈夫。自分でも『私ってすごい!』と思っていたんですが…ユウキのことがあってからは、身体に気を付けるようになりました。我が家に何事も起こっていなければ、この時点で病院へ行くことは無かったと思います。」

病院出典:www.photo-ac.com幸い、進行は無かったため、治療は2年で終了。
以降は「疲れをためないように」心掛ける生活を。

受診の結果筋無力症という病名が告げられ「進行すれば手や足の動きに制限がかかる病気」ということを知り、力のいる木工作業は全て辞めて、クラフトの内容を羊毛フェルトにシフトチェンジをすることに。それでも、以前の体力自慢のペースが続くこともあり、今度は大腸ポリープや憩室炎にも襲われ、入院や手術を経験。いよいよ「生活を変えないと!」と強く思うようになりました。

「長年の夢…カフェをやろう!」

ケーキノブタカさんの淹れたサイフォンコーヒーと、
マキさん自慢のキャロットケーキはお店でも大人気のセット。

「転機だと思った。」というマキさんは、複数のカルチャーセンターでの教室を辞めて、自宅教室のみでの活動に切り替えると、ノブタカさんに伝えました。ちょうど単身赴任の話が持ち上がり「会社でこのまま勤め上げるのか、思い切ってカフェに舵を切って第2の人生を歩んでゆくのか…」と、悩んでいたノブタカさんはマキさんに「夢だったカフェをやってみようと思う。教室もそこでやったらいいよ。」と告げました。

家庭では見られない、お互いのいいところ

教室カフェ2階のスペースでは、羊毛フェルトのレッスンが月6回行われています。
残念ながら、現在の所キャンセル待ちで生徒さんの募集はされていないとのこと。

現在は、週に4日カフェを営業しながら、月に6回の教室がカフェの2階で行われています。「生徒さんがたくさんいて、10年以上も通ってくださる方もいる…作品を通じて色んな人と出会って、苦労もきっとあっただろうけど、頑張ってきたんだなぁ…と、カフェを始めてからより深く理解できることができました。」「決められた仕事をきちんと毎日こなしてくれるし、資金のことも開業前にしっかり考えてくれたので、頼りになりました。」と、ふたりはお互いを認め合い、称え合い、頼りあっています。

夫婦で生きていく ということ

親子パンダマキさんの作品を見ていると、誰もが微笑みかけてしまいます。
パンダだけでなく、木馬もマキさんの作品です。

カフェを経営してから、ふたりとご縁が繋がった方々には、おそらく想像できないような道のりが…実は、藤井夫妻にはありました。幼稚園からの同級生が大人になって再会し、結婚、出産、子育て…趣味のクラフトを仕事にして、これから!という矢先に想像もできない悲しみに襲われたのです。しかし、ふたりは「いつ人生が終わってしまうかわからない。」「だったらやりたいことは後回しにせずやってしまおう!」と、同じ悲しみ、苦しみを抱えた者同士、支え合って生きてきました。

玄関看板やリースだけでなく、店先の植物たちもマキさんが丹精込めて育てています。

「お客さまのおかげで日々、いい時間を過ごさせてもらっています。親以外の年配の人と話す機会は今までありませんでしたが、それぞれの人生をお聞きしていると勉強になるし、とても楽しい。」「お客さま同士がここを通じて知り合ってくださり、輪が広がっている、というお話を聞くととても嬉しい。

ふたりの満ち足りた笑顔を見ていると、Pony Craft Cafeの行き届いたもてなしと、あたたかさが、これまでの夫婦の道のりで紡がれたことに気づきます。

お話しを伺ったのは…藤井ノブタカさん、マキさん夫妻

夫妻「なんか照れるねぇ」と言いながらの1枚。
開店から1年とは思えないほど、すっかりカフェのマスターとママが
板についています!

ともに1964年生まれ。姫路市立英賀保小学校の同級生。山口、守山(滋賀)、大津とノブタカさんの転勤により移り住み、現在はJR比叡山坂本駅前で、サイフォンコーヒーとマンガ、羊毛クラフトがテーマのカフェPony Craft Cafeを営む。


著者

みやむらけいこ

みやむらけいこ

ライター歴20年。「あなたに逢いに行きます」取材ではなく出会い、インタビューではなく会話。わかりやすい言葉で丁寧に「ひと」を伝えます。好きなものは、サーフィンと歌舞伎、主食はチョコレート。#人生はチョコレート