お話を聞いたのは……小池紀子さん
「写真好き」が縁で、結婚式も指輪もないまま“0日婚”をした小池徹さん、紀子さん夫妻。結婚生活20年となる2024年春、小池夫妻を突然の出来事が襲う。それから1年余。紀子さんは、趣味であった“ライカ(クラシックカメラ)”片手に撮り続けた、つつましくもあたたかな日々の写真を文章と共にSNSで発信。そのうちの1枚の写真に16万人が涙した。
『ふうふ写真散歩』飛鳥新社
著者:小池紀子
定価:2,640円(税込)
出会ったその日に”ビビッ”ときた
――書籍に、お二人は “0日婚”と書いてありました。“0日婚”を選ばれた理由は?
ただ、一緒にいたかったから。それだけです。私たち夫婦は、写真展の会場で出会いました。その時に、2人で散歩する機会があったのですが、話すうちに、心の優しい陽だまりのような人だというのが伝わってきて、「一緒になるのはこの人だ!」と、ビビッときたんです。
東京の写真展で初めて徹さんと出会った時に撮ってもらった1枚
――ビビッときた紀子さんは、どのような行動に?
出会ってから2ヶ月、どんどん「絶対にこの人と一緒になりたい!」という思いは募るばかりでした。ただ、当時私は、島根県に住んでいました。夫は東京生まれの東京育ちで、東京在住。出会った写真展も東京で開催されたものでした。なので、夫と一緒にいるために、東京に引っ越す決断をしました。
――徹さんと一緒にいるために、上京したんですか?
そうです。夫に、「東京に行って、あなたの実家でご両親と4人で暮らしたい」ということを伝えて、夫からご両親に話してもらったんです。
「あなたの実家で暮らしたい」
――徹さんのご実家で一緒に暮らしたいと思われたのもすごいですよね。それを聞いたときの徹さんの反応は?
「そっか」。という感じでのほほんとしていましたが、一緒にいたいという気持ちはお互いにあったはず。そうじゃないと成り立たないですものね。
――ご両親の反応はどうでしたか?
夫は当時、43歳だったんです。このまま結婚しないんじゃないかと思っていたところに、私が一緒に住みたいというお願いをしたので、お義父さんとお義母さんは、「お嫁さんが来る!」と喜んでくれました。
――紀子さんのほうが積極的だったんですね。
夫とっては嵐のような出来事だったと思います。「結婚してください」とか、「付き合ってください」とか一切言われたことはないし、私も言ったことはないまま、とにかく一緒にいたいという気持ちで行動して、4人の暮らしがはじまりました。
結婚式も指輪交換もない“0日婚”です。結婚式のときに、“誓いの言葉”ってあるじゃないですか。私、そういうのがそもそも苦手なので、夫に対して何も誓ったことはありません。
隣にいて感じられる幸せだけで充分
――結婚をするときに、ご主人からも、「幸せにするよ」というような言葉はなかったのですか?
夫も言わないですね。私にはそういうのがすごく気が楽だったんです。そのまま気がついたら20年経っていたという感じです。“隣にいつも夫がいる。こういうのいいな~。幸せだなぁ”という気持ちだけで充分。言葉は必要なかったですね。
――東京に引っ越してすぐに入籍されたんですか?
4月1日から暮らし始めて、5月12日に入籍しました。
――お互いの気持ちを確かめずに結婚をするってすごいですよね。相手の気持ちを確かめたいと思うようなことはなかったのですね。
そういうことは一切聞かなかったですね。ビビッと来て、私が決めた人なので間違いないないという自信がありましたから。
恋愛相手に求める条件はたったひとつ
――紀子さんの、その恋愛観は昔から変わっていませんか?
若い頃って、相手に対してのいろいろと理想がありますよね。仕事ができて、収入があって……。私にもそういう時期がありました。そして、そんなことを考えていたときの恋愛はなかなかうまくいきませんでした。夫と出会ったのは34歳のときですが、「恋愛相手に求めるものはこれひとつ!」と気づいたタイミングでもあったんです。
――そのひとつの求めるものってなんだったんですか?
「心の優しい人」。これだけです。そう決めたタイミングで夫に出会ったんです。そして、ビビッときたので自信をもっていけました。
――夫婦になった後、徹さんが紀子さんへの気持ちを伝えてくれるようなことってありました?
夫は、日常的にとにかく愛情表現をしてくれました。実はラテン系タイプなんです。毎日のように、「好きだ、好きだ」と言ってくれていました。私が隣の部屋にいると、「のり不足だ」と言って、私がいる部屋までやってきてそばにいるんです。とにかく一緒にいたがるんです。離れてるといっても、隣の部屋にはいるのに(笑)。そういう夫を見て、「くっついていたいんだな」と感じることが心地よかったです。
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若い頃の恋愛観を変え、本当に大切なひとつの条件を決めたときに出会ったというお二人。告白もプロポーズもなくはじまった徹さんの実家での4人の生活についてのお話も、お二人の出会いが運命であることを物語っているようです。
「ただ一緒にいたい」「この人が隣にいる人生を生きたい」という気持ちから自然に夫婦になったと、紀子さんは語ります。
「夫がいつも隣にいて幸せと思っていたら、20年経っていた」。
そう言える夫婦がこの世にどのくらいいるでしょうか。夫婦の形に正解も不正解もないけれど、紀子さんが語る夫婦についてのお話は、誰もが、「そうありたい」と願う理想の夫婦像に近いのではないだろうかと感じます。
そして、そんなお二人の生活に、ある日突然想像もしていないことが起こります。
次回は、紀子さんがその出来事をどのように乗り越え、どんな気持ちを持って今、徹さんを思っているのかについてお聞きします。