妻が暗闇で立っていた
出張は無事に終わり、帰宅は夜の20時になりました。寝ているかもしれないと、チャイムも鳴らさず家にそーっと入るとリビングの奥から娘の泣き声が聞こえます。「夜泣き中かな」とリビングに入ると、電気もつけず真っ暗な部屋の中で娘を抱えながら立ち尽くす妻の姿がありました。
赤ちゃんが泣いているのに、あやすこともなく、ただ抱えながら立っている姿にぞくりとしたのを覚えています。
この2日間が、いかに妻にとって苦しい時間だったか。ひしひしと感じました。
このとき妻は、もしかしたら「産後うつ」に片足を踏み込んでいたのかもしれません。
その後、妻は気分転換を兼ねて買い物に出かけ、ぼくは娘のお世話をバトンタッチしました。もしもこのとき、1ヶ月の育休経験がなければ妻がなぜこれだけ精神的に参ってしまったのかをぼくは理解することはできなかったと思います。
そして、泣きじゃくる娘を受け取り妻を気分転換に送り出すだけのスキルだって身についていなかったかもしれません。
そうすると、妻はぼくに娘を預けて出かけることに不安を覚えてしまって、気分転換できなかったかもしれません。
産後はほとんど人に会うことはありません。
唯一会話できるパートナーが「産後のつらさ」に不理解であったり、気分転換のために安心して子どもを委ねられないと言ったことになると、少しずつ精神的に追い込まれていってしまうことは、想像に難くありません。
「男性版産休」が必須な理由
この産後うつの原因。これは3つあると言われています。
- ホルモンの急激な低下
- 睡眠不足
- 家族(パートナー)のサポート不足
ホルモンバランスの変化は、出産に伴いおこる身体の変化であり、間違っても「産後うつ」は気合いや根性でどうにかできる問題ではないことは最低限全人類理解しておきたいところです。
ただ、男性側はは女性の産後を軽視しがちです。それは見た目の上では変化があまりないからです。
誰だって、血をドバドバ流し、重傷を負いながら必死で育児家事をしていたら「ゆっくり休んで!」「無理しないで!」と言ってくれるでしょう。
しかし、産後の女性はそれが「子宮周り」つまり内臓にダメージを受けているため、外側からは見えないのです。
これが不理解の原因のひとつです。
産後の心身を回復させるべき時期のことを「産じょく期」と言い、おおよそ出生から1、2ヶ月は安静にしておくべき養生期間とされています。
この期間、目には見えないけれど本当に女性のカラダは弱っています。これは一緒に過ごしてはじめて感じられるのです。
男性版産休が導入されたのはこの産じょく期にゆっくりと女性が心身を休めるようにサポートが必要だからです。では、具体的にどんなサポートが有効なのか。それは産後うつの原因の残りふたつの「睡眠不足」と「家族のサポート不足」を補うことです。
男性版産休がないと産後の家庭が「地獄絵図」化する
赤ちゃんが産まれて大変になることは、色々とあります。その中でも深刻なのが「睡眠不足」。
朝も夜も関係なく2〜3時間おきに泣く赤ちゃんの世話をひとりで全部担うのは、あまりにも心身のダメージが大きい。そのうえ、それを産後のダメージが残り本調子ではない女性がひとりで抱え込むのはさすがにつらすぎます。
一方で、じつは男性もこの時期は寝不足になりがちです。
女性側が大変なことくらい充分に知っている男性も、夜泣きを変わったりして不眠不休で育児と仕事にはげむからです。
その姿を見て「夫は明日も仕事だし、わたしは一日家にいるんだから隙間に眠れるし、無理はさせられない」と思う人も多いと言います。その結果、女性は自分のツライ状況を無理してしまったり、思うように頼れない状態になります。
こうした辛い状況が続く状況、負のスパイラルに陥ります。
その結果として昨今では男性の産後うつも問題になりはじめているのです。
当たり前ですよね「みんなでガマン大会」をしている状態になるんです。
「夫婦2人とも限界」で「1人では絶対に生きていけない乳飲み子のことをお世話し、育てる」というムリゲー。
まさに地獄絵図になる可能性が大いにある状況、それが男性版育休を取らない場合の家庭の状況です。
だからこそ「男性版産休」が必要です。夫婦ふたりが育児に集中できる環境に身をおくこと。
その上でさらに、夫婦だけじゃなく行政、サービス、親族、友人などの力もフル活用すること。
※この周りの支援フル活用もひとりで抱えている場合考えつかなかったり、不理解により「甘い」などと言われかねません。
さぁ、あなたの後輩に「男性版産休」を!
これを読んでくださっている人達はすでにその「記憶にすらない」ようなある意味怒涛の日々を何とか生き抜いてきた方々が多いかもしれません。
「どんどん制度が整って、いいわね」と羨ましがっている場合ではありません。この「男性版産休」を形骸化させないための重要なキーパーソンはあなた方です。
「自分の時もほしかった」と思う方、その通り! 「なんでなかったんだ!」確かに!
その気持ちを下の世代にもさせないでください。自分の身の回りに、育休を取得するタイミングの男性はいませんか? 会社に、親戚に、友人に。
ぜひ彼らの産育休取得を、後押ししてあげてください。それがひいてはご自身のお子さんにとって「生きやすい社会」を作ると信じて。
「男性版産育休」の普及がスムーズにいくことを、ぼくは願ってやまないのです。